互恵の協定か検証必要 RCEP承認案をただす

2021年04月14日

穀田委員

 日本共産党の穀田恵二です。  RCEP協定について質問します。  本協定は、ASEAN十か国、オーストラリア、ニュージーランドなど計十五か国が参加する経済連携協定であり、日本にとっては、本協定を通じて、中国と韓国と締結するのは初めてのEPAとなります。  本協定に参加する十五か国を見ると、既にTPP11に参加している国が、日本、オーストラリア、ニュージーランド、ASEANではシンガポールやベトナム、マレーシア、ブルネイの計七か国があります。ところが、政府は、本協定の審議に当たって、RCEP協定とTPPの内容を比較検証できる概要資料などを全く示してこなかったわけです。茂木大臣、その理由は何なんですか。

茂木国務大臣

 これはTPP11もそうでありますが、RCEP協定も、いずれも極めて膨大な分量であり、かつ内容が多岐にわたり、それぞれの協定によりまして、確かに両方に入っている国、例えばTPPのうち七か国がこのRCEPに参加をする、ただ半分以下でありますけれども、そういう参加国の構成とか規定の仕方、これは異なっております。  また、とりわけRCEPそしてTPPは参加国が多いことから、多次元の比較が必要になるということでありまして、国と規定だけではなくて、その内容とかになりますと、一覧できるような二次元の対照表、多分、作るとなると二次元で作らざるを得ないと思うんですけれども、表というものは、これを作成することは困難だと考えております。  その上で、物品市場アクセスにおける関税撤廃率であったりとか、サービス等の物品以外の市場アクセス、さらには、知的財産、電子商取引、投資、紛争解決などのルールの分野の違いについて、具体的な数字であったりとか特徴的な違いについて御質問があれば、丁寧にお答えをさせていただきたいと思います。

穀田委員

 簡単に言うと、一概に比較することは困難だと先ほどありました。  これまで政府は、本協定をめぐって、例えば、TPPの成果を踏まえながら、質の高い協定を早期に妥結していくと、TPPとの比較で説明してまいりました。したがって、本協定の審議に当たっては、TPPなどの他の協定と内容を比較できる概要資料などを作成し、国会に提示する努力をすべきだったのではないかと私は考えます。それを、今お話があったように、いろいろあればそれは答えまっせというのでは、余りに私はちょっと傲慢と言わざるを得ないなと。つまり、本会議ではずっとそういう答弁をしていますよね。個別具体的な照会があれば対応する、こういう言い方でしたよね。今日はもう少し丁寧でしたけれども。  そういう意味では、私は、はっきり言うと、審議を依頼している立場ですから、本質的にはこういう問題がありますよと可能な限り出していくというのが大事だと思うんです。  しかも、RCEP協定に参加する十五か国を見ると、確かに、茂木大臣も今お話がありましたように、制度や経済発展状況が大きく異なる国々が参加しております。日本やオーストラリア、ニュージーランド、シンガポールのように、一人当たりのGDPの水準が高く、TPP11に参加している国がある一方、カンボジアやラオス、ミャンマーのように、一人当たりのGDPの水準が低い、まあ括弧つきで言っているわけですけれども、後発開発途上国もありますよね。そういう点では、経済格差に大きな違いがある。  こうした経済状況を見ると、本協定が果たして東アジアの互恵的な協定になり得るのかと思うんですが、その点はいかがですか。

茂木国務大臣

 それだけ国による発展度合い等々、また国内の制度が違っていたということもあり、交渉に若干の時間を要したというところはあると思うんですけれども、いずれにしても、物品であったりサービスだけではなくて、様々な今後必要とされるルール面でも、RCEPにおいて、TPP等も踏まえながら、必ずしも基準は一緒ではありませんが、新たなルールが設定された、このことは大きな意義があったと考えております。  また、そういった国々が、この協定の発効によりまして経済発展を遂げるということによりまして、よりレベルの高いルールを受け入れることができる、こういう状況になっていくということは極めて望ましいことだと思っておりまして、そういったことを見ながら、このRCEPについては、今後一層のレベルアップということも将来的には視野に入れたいと思っております。

穀田委員

 RCEP協定は、後発の開発途上国を含め東アジアの経済統合を進めるという、いわば包摂ということだと言われていますね、特徴としておって、そこがTPPとは異なるものであります。  本協定の第一条にはそう書いていまして、次のことを目的とすると書いていて、締約国、特に後発開発途上締約国の発展段階及び経済上のニーズを考慮しつつ、現代的な、包括的な、質の高い、及び互恵的な経済上の連携の枠組みを設定することを目的と明記していますよね。  しかし、茂木大臣も御承知のとおり、ASEANでは、後発開発途上国との格差是正に非常に大きな取組のウェートを置いていまして、その中で、その進捗は時間をかけて段階的に進められていると、それぞれの国が大体言っておられます。そうした状況を見ると、本協定の目的に規定された現代的、包括的、そして質の高い、互恵的という四つの特徴、とりわけ互恵関係の構築というのは現実的には非常に困難なのではないかと率直に思うんですが、いかがでしょうか。

茂木国務大臣

 これは、十五か国が参加しましても、お互いに関税率を下げたりということでありまして、当然にお互いにメリットをもたらす、こういうものだと思っております。そして同時に、マルチの協定、今日の午前中の審議でも答弁をさせていただいたんですけれども、やはり、それぞれの国が同じように満足できる、そして、必ずしも、それぞれの国が同じように不満が残る、この状態でやはりまとまるものだと思っております。  そういった意味で、日本にとって百点満点だったとか、中国にとって何点だったとか、例えば、ミャンマー、ラオス、カンボジアにおいて何点だったということよりも、全体的にバランスの取れた包摂的なものになっている、このように考えております。

穀田委員

 私は、何でこんなことを言っているかというと、本来、貿易や経済協定の目的とは何なんだということに由来すると思うんですよね。古く遡れば、国連その他が、そういうものについて貿易や考え方を規定しているのは、それぞれのお互いの国が経済発展を遂げるという、つまり生活水準を高める、それからあわせて、雇用とそういう実質的な様々な利益を確保する、こういうことだと思うんですよね、理念として。だから、そういう理念との関係で大丈夫なのかということを思うわけですよね。  その意味でいいますと、本協定の適用形態の柔軟性や特別措置などを後発開発途上国に柔軟に適用することで、全ての参加国に利益をもたらす経済上の連携を実現するという考え方は確かにあるんですね。先ほども大臣は、経済発展を共にする、お互いのメリットだ、こうおっしゃっていますけれども、本協定の互恵性については問題を指摘する国際的な試算もあります。  世界銀行と国連貿易開発会議が昨年十一月に公表した試算があります。それによると、本協定が発効された場合、参加国の中で最も輸出が伸びるのは日本であり、発効前に比べ七・六%増加すると分析しています。また、日本に次いで、中国も四・一%、韓国も三・一%の輸出増となるとされています。その一方で、ASEANの主要六か国の輸出は、タイが二・六%増える以外はマイナス若しくは一%の微増にとどまり、貿易収支もASEAN諸国では軒並み悪化すると試算しています。  茂木大臣は、こうした懸念が指摘されていることについてはどのようにお考えでしょうか。

茂木国務大臣

 長期的に見て、これは単に物品貿易の問題にとどまらないことでありまして、一つ一つの、政府が出したものでない試算についてコメントをすることは控えたいと思いますけれども。  何か、クラシックなデビッド・リカードの比較生産費説みたいなものとは違うんだと思うんです、今のグローバル化されている経済というのは。例えば、こういった協定を結ぶことによって、日本がサプライチェーンを新たに多元化していく中で、ASEANの国々に拠点を置くということも十分に考えられる。それというのは、結果的には、輸出においては日本が優位に働く場合でも、そのASEANの諸国において雇用を生み出すという違った効果も生まれてくる、そういったことを総合的に考える必要があるなと。  同時に、こういった新しい、知財の保護であったりとか様々なルールができることによって、単なる貿易だけではなくて、投資という面でも、この面でいいますと、恐らく、例えばカンボジアと日本、ラオスと日本を比べた場合に、ポテンシャルとして、少なくともこの十年ぐらいのタームで見たときに、日本からカンボジアに投資をする額の方がカンボジアから日本へ投資する額よりも大きくなってくる、これは一般的な見方ではないかなと思います。

穀田委員

 外務省のアジア大洋州局が昨年八月にまとめたASEANの経済統計基礎資料があります。それを見ますと、シンガポール、マレーシア、ブルネイの貿易収支は二〇〇一年以降継続的に貿易黒字国になっているとしていますけれども、先ほど述べた世界銀行とUNCTADの試算では、そのマレーシアも、本協定が発効すれば七十六億ドルの貿易赤字になるとしています。外務省の統計資料では、さらに、インドネシアでは近年貿易赤字に転換傾向があるということを指摘をしています、これでは。フィリピンも貿易赤字が拡大しているとしています。本協定が発効されれば、インドネシアは四億ドル、フィリピンも九億ドルの赤字になると試算されている。後発開発途上国のカンボジアでは、四十六億ドルもの貿易赤字が見込まれています。  こうした試算を見ると、貿易の面からいえば、RCEPの協定がまさにアジアの互恵的な協定になり得るのかということの検証が必要だと思っています。  そこで、一番最初の検証に、私、指摘しておきたいんです。念のために、確かに、二十章に及ぶ協定、附属書、約束表から成り立っているわけですけれども、RCEP参加国の全ての約束表について、オーストラリアだとか、さらにはニュージーランドの政府については、ウェブサイトで公開しています。  そういう意味で、私は、政府が他の協定との比較をできる概要の資料を提示してこなかったことについては問題があると。それほど言うんだったら、やはり、もちろん投資の問題もありますし、様々な、二十章に及ぶあれですから、きちんと出すべきだということをあえて言わせていただきたいと思っています。  次に、経産副大臣に質問をします。  新型コロナの世界的な感染拡大は、国内需給を逼迫させ、グローバル化したサプライチェーンの脆弱性を浮き彫りにしました。そうした下で、RCEPの協定発効が日本の国内産業にどんな影響を及ぼすことになるのか。経産省は、中国などへの生産拠点の多元化を促しています。その事業の概要をお述べいただきたいと思います。

長坂副大臣

 お答え申し上げます。  新型コロナウイルス感染症の影響が拡大する中で、海外での生産拠点の集中度が高い製品の供給が不足するなど、サプライチェーンが途絶するリスクが顕在化をいたしました。  こうした状況を受けまして、経済産業省では、サプライチェーン対策のための国内投資促進事業費補助金といたしまして、生産拠点の集中度が高い製品、部素材や、国民が健康な生活を営む上で重要な製品、部素材の国内拠点整備を促進するために、令和二年度第一次補正予算二千二百億円、予備費八百六十億円、第三次補正予算二千百八億円を措置をいたしました。  このうち、第一次補正予算及び予備費につきましては、これまで二百三件を採択しております。  第三次補正予算は、現在公募中でございまして、第一に、生産拠点の集中度が高い製品、部素材として、半導体関連、電動車関連、航空機関連など、第二に、国民が健康な生活を営む上で重要な製品といたしまして、ワクチン用注射針、シリンジ、そして、医療品の低温物流施設などを対象といたしまして、補助上限額は百億円、補助率は大企業で最大二分の一、中小企業は最大三分の二の支援を行うことといたしております。  また、海外でのサプライチェーンの多元化や強靱化を支援する観点から、多元化等支援事業といたしまして、生産拠点の集中度が高い製品、部素材や、国民が健康を営む上で重要な製品、部素材の海外生産拠点の多元化を促進するために、令和二年度第一次補正予算二百三十五億円、第三次補正予算百十七億円を措置いたしました。  このうち、第一次補正予算については、これまで、三回の公募で計八十一件を採択しております。

穀田委員

 つまり、日本企業の国内回帰の動きを推進する一方で、ASEANでの新たな供給網の確立を促すということですわな。まあ、うんとうなずいたので。  問題は、そうした施策が国内産業に一体どんな影響を及ぼすことになるかということだと思うんですよね。  ジェトロが、日本貿易振興機構が、先月、三月十二日ですけれども、日本企業の海外事業展開に関するアンケート結果を基に発表したレポートがあります。  それによると、日本の製造業者千三百九十五社の今後三年間の海外進出方針に関し、現在海外に拠点があり、今後更に拡大を図る、現在海外に拠点はないが、今後新たな進出をしたいと、海外進出に意欲を示す企業は四割強見られた。また、事業拡大を図る対象国として中国を挙げる企業が約五割を占め、事業展開先として重視していることが伺えます。  経産省は、中国などから生産拠点を国内に回帰させる動きを促すと言うけれども、こうしたジェトロの調査からも、実際は、それと真逆の動きが今後更に続こうとしているんじゃないですか。

長坂副大臣

 お答え申し上げます。  本事業は、サプライチェーンの強靱化を図るため、企業が自ら選択する生産拠点の多元化として国内投資を支援するものでございまして、特定の国や地域への依存度を下げることを念頭に置いたものではございません。  他方、現在、公募中の補助金の採択に当たりましては、中国を含む海外における生産拠点の集中度が高く、かつサプライチェーンの途絶によるリスクが大きい重要な製品、部素材を支援対象とすべく、半導体関連、次世代自動車関連、ロボット部品、ドローン部品、ディスプレー、自動車関連、洋上風力発電、航空機関連、高効率のガスタービン部品等の製品、部素材を例示しております。  こうした製品、部素材は、現状において海外における生産性集中度が高いために、国内の生産拠点の整備が進むことによりまして、生産拠点の集中度は低減していくものと考えております。

穀田委員

 では、端的に聞きます。空洞化がどの程度食い止められますか。端的に答えてください。

長坂副大臣

 今申し上げました製品、部素材は、現状において海外において生産集中度が高いために、国内の生産拠点の整備が進むことによりまして、生産拠点の集中度は低減していくものと考えております。

穀田委員

 低減していくものと言っているだけで、私が言っているのは、それじゃ、どの程度なるんだという話を聞いているわけですやんか。それを、さっきから同じことを言っているだけなんですよ。駄目ですよ、それは。  経団連の会長が、昨年四月の記者会見で、コロナショックを機に日本企業の生産、調達拠点の国内回帰を進めるべきとの声があるが、全て戻せばよいという話ではないし、戻せるものでもないと述べているんですよね。経産省の補助金事業についても、ある国に依存するとロックダウン時の影響が甚大だとしつつも、全部を国内に持ってくるのは現実的ではないと述べているわけですよ。  ジェトロのレポートでは、海外での事業拡大を図る対象国として、中国の次にベトナムを挙げる企業が四割と多く、そのほか、タイ、インドネシア、シンガポール、マレーシアなどを対象国とする企業が多い。  経産省によるASEANでの生産拠点の多元化を促す事業でも、こうした傾向が示されているのではありませんか。数字を簡単に述べてください。

長坂副大臣

 令和二年度一次補正予算によります海外サプライチェーン多元化支援事業は、これまで二回の公募で設備導入を支援しておりまして、計六十件を採択いたしました。  採択件数の上位五か国、その件数は、一部重複もございますが、ベトナムで三十件、タイで十二件、フィリピンで七件、マレーシアで六件、インドネシアで六件となっております。

穀田委員

 私が何を言っているかというと、実際に、海外生産拠点をつくるということで、事実上、そう進めてきて、これをあおってきて、空洞化した。それに乗っていった、もちろん中小企業の、零細企業の方々も一定行きますよ。だけれども、今度、戻ってこいという場合には、そういう大手の企業がうんと戻ってくるためには金をやる、こういうやり方が本当にいいのかということだと思うんですね。  そうした事業の採択の状況を見ると、サプライチェーンの多元化などの政策は、日本企業のASEAN各国への海外進出を推し進めると同時に、中国などに生産拠点を移す動きを加速させ、地域経済の衰退など、国内産業の空洞化を一層強めることになりはしないかと思うんですが、いかがですか。

長坂副大臣

 RCEP協定の話もございましたが、特定の国への依存度を高めることにはならないと考えております。  その理由として、第一に、全てのRCEP参加国が関税を削減、撤廃することで、日本国内で製造して相手国に輸出するという選択肢を取りやすくなりまして、結果的に日本国内の製造基盤の維持強化につながると考えております。

穀田委員

 そんな楽観的な話をしていたのでは、日本の経済、大変ですよ。  現実には、特定の国というのは、中国、そしてベトナムと、ナンバーファイブまで全部出ているわけで、そういう希望観測的な話をしていたのでは私は駄目だと思います。  菅さんは、RCEP協定の署名式で、コロナ禍で世界経済が低迷し、内向きの志向も見られる中で、自由貿易の推進がより一層重要だと強調しました。しかし、新型コロナの感染拡大に伴う国内需要の逼迫、グローバル化したサプライチェーンの脆弱性を浮き彫りにしたわけですよね。このときに、TPP11や日欧EPA、日米貿易協定など……

あべ委員長

 申合せの時間が経過しておりますので、御協力いただきます。

穀田委員

 分かりました。  貿易自由化一辺倒、外需頼みという政策は、今、危機に弱い社会経済をつくり出していることは明らかだと思います。  したがって、何の反省もないままに、今お話あったように、本協定で一層の市場開放を推進することは許されない、そのことを強調して、終わります。