外国人労働者の深刻な人権被害。外国人にも適用される日本の社会保障制度の周知や受け入れ基盤の抜本的改善が急

2018年11月21日

若宮委員長

穀田恵二君。


穀田委員

初めに、いわゆる日中社会保障協定について聞きます。
今、日本で働く中国人労働者、中国で働く日本人労働者が、両国の年金等への強制加入に関する法令が二重に適用されるなどの問題が生じている。本協定は、年金制度への強制加入に関する法令の適用について両国間で調整を行い、相手国で働く労働者について保険料の二重払いになることを回避するためのものであるとこの法案の趣旨を理解しており、当然の措置と考えます。
そこで、本協定は略称社会保障協定と呼ばれていますが、その適用対象は年金のみで、日本で言うところの健康保険、労災保険、雇用保険などは対象外となっています。これらについては本協定発効後も二重加入が解消されないままとなるわけですが、これらの二重加入について今後どのように解消していくおつもりか、その基本的見解をお聞きしたいと思います。外務省。


金杉政府参考人

お答えさせていただきます。
委員御指摘のとおり、社会保障協定では、年金制度以外、医療保険制度、労災保険制度、雇用保険制度の適用調整を行う場合もございます。
他方で、中国の場合でございますが、まず、医療保険制度について申し上げますと、中国の医療保険制度では、就労していない者を対象とせず、また、国外での医療行為を給付の対象としておりません。したがいまして、日本からの派遣被用者に同行する配偶者及びその子が無保険になったり、また、中国からの派遣被用者が実質上無保険の状態に置かれることのないよう、本協定では医療保険制度を対象としておりません。
次に、労災保険制度でございますが、日中の制度とも、それぞれ自国内の事業者を適用対象としておりますので、労災保険については二重加入の問題が生じないということで、本協定の対象とはしておりません。
雇用保険制度につきましては、協定の対象とするべく交渉を行った経緯がございますが、双方の考え方が一致せず、結果として、協定を早期に発効させ、年金保険料の二重負担を解消することを優先したため、現時点で本協定に含まれていないということになっております。他方で、中国側からも将来的に再検討する可能性を排除しないということが言われておりますので、雇用保険については、協定発効後も二重負担の問題の解消の可能性について引き続き検討してまいりたいというふうに思っております。
以上でございます。


穀田委員

制度の違いがあるということと、今後話合いを、交渉することも含めて、課題があるということだと理解します。
外務省の説明資料によれば、本協定締結による日本企業の保険料の負担軽減効果は年間で約五百五十億円と見込まれていると書かれています。
そこで、外務省にお聞きしますが、このうち日本人労働者の保険料負担はどれだけ軽減されると見込まれていますか。


金杉政府参考人

お答えさせていただきます。
中国の年金保険料は二八%でございまして、この二八%のうち、二〇%が企業負担分、八%は個人負担分というふうになっております。御指摘の日本企業の負担軽減効果は個人負担分も含めて算出しておりますので、個人の負担軽減分だけ単純計算いたしますと年間で約百六十億円となる計算になります。
以上でございます。


穀田委員

個人負担の場合、百六十億だと。
では逆に、本協定締結によって、日本で働く中国人労働者の保険料の負担はどれだけ軽減されると見込んでいますか。


金杉政府参考人

お答えさせていただきます。
我が国に滞在資格を有する外国人の方々につきましては、各人が被用者であるか否か、いかなる滞在期間を有するかなどに着目した統計がない状況でございますので、今般の協定によって、日本で働く中国人の、日本側の社会保険料の免除による二重負担の解消額を具体的に算出することは困難でございます。
以上でございます。


穀田委員

日本の考え方は、統計はない、被用者としての統計はないということなんですけれども、要するに交渉の過程であるわけでしょう。
つまり、日中両国が双方に恩恵があるということで話し合っているわけだから、今の話でいうと、両国の話合いの中でも、交渉の経過を通じてそういうことも聞きもしなかったということですか。つまり、中国側がどの程度見込んでいるのかということについて、例えば恩恵が全くないのに結ばへんわけやから、恩恵があるから結んでいるんでしょう。そうすると、日本は五百五十億ぐらいだ、相手の側は大体、日本側が何ぼになるのやろという計算をせぬでもええけれども、相手の側は計算していてこの程度やなと思ってはるのやから、それはどうなっているのか。わからぬということは不明ということで理解してええのやね。


金杉政府参考人

お答えさせていただきます。
交渉ではさまざまなやりとりがございましたけれども、結論的に申し上げますと、中国人の、日本側の社会保険料の免除による二重負担の額というのは残念ながら不明でございます。
ただ、例えば、少なくとも企業内転勤の在留資格で日本に滞在しておられる中国人、こういった方々は派遣被用者であるというふうに推定されます。その人数は六千人ということでございますが、それでもなお、その派遣期間が五年を超えるかどうかというのは統計的に不明でございますので、冒頭申し上げましたとおり、具体的な額を算出することは困難でございますし、中国側からもその点について特段の説明は今のところないという状況でございます。
以上でございます。


穀田委員

六千人の企業内転勤という話はわかっているんですけれども、結局、不明だということですね。ただ、相手が言わないということと、お互いに利益というんだったら、あんたのところは何ぼ利益になるのぐらい聞くのは普通や思うのやけれどもね。私ら、商売をやっているわけじゃないけれどもね。
そこで、何でこんなことを言っているかというと、厚生労働省がことし一月に公表した外国人雇用状況の届出状況によると、日本で働く外国人労働者は約百二十八万人、うち中国人労働者は約三十七万人となっている。これらのうち、日本の社会保障制度である年金、医療、労災、雇用保険、これらについてどのくらい加盟しているのか、そのうち中国人労働者はどのぐらい加入しているのかということについてはつかんでいますか、厚生労働省。


度山政府参考人

お答えを申し上げます。
我が国の社会保険制度ですけれども、企業と一定の雇用関係があれば、国籍による取扱いの差異がないということになっております。そのため、どの国籍の人が何名かということについては、業務上、そういう意味でいうととる必要がないということもあって、今のお尋ねに関しては把握していないというお答えになるわけでございます。


穀田委員

把握していないと。
私は、なぜこういうことを聞いているかといいますと、副大臣、外国人労働者が置かれている劣悪な労働実態と社会保障制度というのは極めて密接な関係があるから聞いているわけですよね。
今お話あったように、日本の社会保障制度というのは国籍を問わずに外国人にも適用されるとなっている。ならば、そのような権利を周知徹底し、全員が恩恵を受けられるようにすることが必要なはずだ。当然ですよね。そうしますと、社会保険制度未加入の問題というのは、労働者が直面している生活や労働条件に直結する問題で、命や暮らしを守るためにも、社会保障制度に加入することは、外国人労働者にとっても利益になる大事な問題なんですね。
政府は今、入管法の審議をごり押しして、外国人の労働者の受入れ拡大を図ろうとしていますけれども、この間、先ほども議論になったように、技能実習生に対する人権侵害や無権利などが問題になっている。こうした中で、そもそも外国人労働者が現在どれだけの年金や健康保険、雇用保険などに加入しているかということについて、実態すらわからないというのでは、やはり全く話にならぬというふうに思います。
ここで、持ってきましたけれども、厚生労働省の大臣官房参事官などを務めた西村淳氏が二〇〇七年九月に発表した「社会保障協定と外国人適用」という論文があります。二〇〇七年というのは、ふえつつある外国人労働者に、政府が外国人雇用状況届出を義務化した年であります。増加した外国人労働者の社会保険の未加入問題について、これは書いています。
この論文の中で、西村氏は、日本で働く外国人労働者の社会保険の未加入問題についてこう言っています。「在日外国人がどの程度加入しているか、どの程度給付に結びついているか、契約や労働期間など労働実態と社会保険加入がどのような関係にあるか、といった実態把握をまず行うことが、問題の所在を明らかにするためには急務であろう。」と指摘し、述べています。
私はこういう考え方が当然じゃないかと思うんですが、副大臣、いかがですか。


大口副大臣

穀田委員にお答えをいたします。
今、厚労省としましては、外国人労働者は、一般に我が国の雇用環境に関する知識を十分に有していない等の理由から、雇用管理の改善、これはやはり社会保険に入っているかどうかということも含めて、あるいは再就職の促進、それから専門的、技術的分野の就業促進、そして適正な雇用、労働条件の確保ということが課題であるということは認識をしています。
そういうことから、厚生労働省といたしましては、平成五年から、毎年六月を外国人労働者問題啓発月間として、これは一カ月間を定めて、事業者団体などの協力のもと、労働条件などのルールにのっとった外国人雇用や高度外国人材の就職促進について集中的な周知啓発活動を実施しているところでございます。
具体的には、ポスター、パンフレットの作成、配布、事業団体などを通じた周知啓発、協力要請、また、技能実習受入れ事業主などへの周知、指導、そして、留学生を始めとする専門的、技術的分野の外国人の就職支援、労働条件等の相談窓口の周知、これは六言語ですね、英語、中国語、ポルトガル語、スペイン語、タガログ語、ベトナム語の外国人労働者向けの相談ダイヤル等の取組を、関係行政機関、これは法務省とも連携をしながら実施しているところでございます。
厚生労働省といたしましては、引き続き、こうした取組を通じて、外国人労働者が日本で安心して働き、その能力を十分発揮できる環境整備に努めてまいりたいと思います。


穀田委員

それは次に質問しようと思っていたことなんですけれどもね。
問題は、私が言っているのは、二〇〇七年の段階でそういう問題を指摘していたと。
さらに、西村氏は、「外国人の雇用契約の形態としては派遣や請負などの形態が多く、正社員は直接雇用のうちでも四分の一程度にすぎない。こうした非正規雇用労働者については、」「労働法令上のヤミ派遣も多く見られることが問題になっている。在日外国人の社会保険未加入は、」「実際には人件費削減のため派遣や請負の契約形態になっていることに大きな原因があるのではなかろうか。」というふうに指摘しているんですね。
だから、こういう実態にあるということは、厚生労働省が認識があるかということが問われている。
そこで、大臣は、今、外国人労働者問題啓発月間実施の問題について触れられたので、そこについて、じゃ、聞きましょう。
この実施要綱には、「現在も依然として次に掲げる課題がある。」として、次のように指摘しています。
先ほど述べた大枠の話とか周知とか啓発とか、それはそのとおりなんですけれども、中身の問題なんですよ。中身は、「雇用管理の改善及び再就職の促進」の課題として、さっき言うてはりましたわな、
ア 日系人等の定住外国人を中心として派遣・請負の就労形態が多く雇用が不安定な状況は変わっていない。
イ 事業主の認識不足等により社会保険に加入していない事例や適正な労働条件が確保されていない事例等がみられる。
また、「適正な雇用・労働条件の確保」の課題としては、
ア 技能実習生を含めた外国人労働者については、法定労働条件確保上の問題が認められる事案が多いことから、適正な雇用・労働条件の確保が求められている。
さらに、
イ 外国人労働者の労働災害は増加傾向にあることから、安全衛生の確保のため、安全衛生教育の実施等が求められている。
これほど厚生労働省が課題と書いているわけですけれども、今、啓発とおっしゃったけれども、改善すべき課題がこれほどあるんだということについての認識で取り組まれていらっしゃるんですね。お答えください。


大口副大臣

穀田委員にお答えします。
今、その実施要綱を指摘していただきました。この適切な雇用、労働条件の確保の3でございますけれども、これについては、委員指摘のように、そういう認識をしている、課題として認識しているということであります。(穀田委員「実施している」と呼ぶ)はい、課題としてですね。


穀田委員

それは、実施しているからこの要綱があるわけで、要綱に基づいて実施しているということを言ったわけですけれどもね。改善すべき課題がこれほどあるという認識でいるんだなということを聞いているんです。それは確かですな。


大口副大臣

そういう趣旨で述べたところであります。


穀田委員

そういう趣旨でやっておられる、これはとても大事な実施要綱だと思うんですが。
そこで、私たち野党は、法務省の行った失踪技能実習生の聴取票の公開、提出を求めました。これはもともと、衆参の法務委員会における附帯決議で、出すべし、そういうことを調査すべしというふうに与党の人たちも含めて決めた内容なんですね。
だから、そんなもの、見せるからそこで見てくれというような話じゃなくて、どうなっているかということについて調査すべきものを、どうなってんねやという話を出さないというのは、まあ、きょうは法務省を呼んでいないからあれやけれども、全く私はけしからぬと思うんですね。
渋々閲覧を認めて、二千八百七十人の聴取票、写しを私も見ました。きょう若干持ってきましたけれども、こういうものなので、先ほども小熊さんがやっていましたけれども、ここには、労働関係法令に違反する、それは勤めてはるわけだから、違反する過酷な労働実態が書かれています。
今、中国の、日中の話をしていますから、溶接の仕事をしていた中国の男性は、失踪動機について、低賃金と、暴力を受けたと回答しています。入国前は月額給与は約二十万円と説明を受けていたが、実際は約八万円しかもらっていなかったと書いてあります。
もう一つ。月額給与が九万円だったベトナム女性は、入国前は労働時間が四十時間と説明されたけれども、実際に働いた労働時間は百三十時間に及んだ、こういう記載があるんですね。
まさに啓発実施要領では、技能実習生についても、外国人雇用の基本ルールの遵守が求められることや、労働基準法や最低賃金法等の労働関係法令が適用されることについて、関係機関と連携を図りつつ、あらゆる機会を通じて周知徹底、指導を行うと書いているじゃありませんか。
一体どういう指導をし、役所での情報を共有し、対処してきたのか。だから、こういう聴取票の内容に基づいてつかんでいる実態について情報を共有し、それでどういう指導を何件ぐらい行ってきたのか、言ってください。


大口副大臣

まず、労働基準監督署においては、技能実習生を雇用する約四千八百の実習実施者に対し重点的に監督指導を行っています。
平成二十九年の一年間において、外国人技能実習生を雇用する五千九百六十六の実習実施者に対して監督指導を実施し、その結果、七〇・八%に当たる四百二十六事業場で労働基準監督法令違反が認められたということで、是正指導を行ったわけです。七〇・八%ですね。
主な違反事項は、違法な時間外労働等の労働時間に関するものが二六・二%、機械を使用する際の安全基準に関するもの、これは一九・七%、賃金不払い、残業等の割増し賃金の支払いに関するもの、これは一五・八%などでありました。
また、重大、悪質な労働基準関係法違反により送検したのは三十四件であったということです。


穀田委員

だから、一番最後に数字がありましたけれども、三十四件送検したという話でしょう。七〇・八%も違法をやっていて、毎年毎年実施をやっているわけですよ、啓発。どれほど多くの方々が被害を受けておって、何ら具体的に改善が、事実上されていない。だって、毎年これをやってるのやからね。そして、七割近くが違法をやっているというのをまさに事実上見逃しているという話なんですよ。そういった問題の解決抜きに、外国人の受入れ拡大なんというようなことはあり得ないということははっきりしているじゃないですか。
そこで、河野大臣にお聞きしますけれども、やはり外国人技能実習制度は、技能実習という名目のもとに、簡単に言うと安い労働力として使うという実態が横行していて、人権侵害、今ありましたように、最低賃金法や労働基準法の法令違反、そして中間搾取もお話がありました。
こうした技能実習制度の実態は、ILO総会や国連人権理事会やアメリカ国務省などから国際的にも繰り返し批判の対象とされているわけですけれども、こういった問題についてどういうふうにやらなあかんというふうにお思いですか。


河野国務大臣

この技能実習制度というのは、日本からさまざまな国に技能の移転を通じて国際協力をするというのが制度本来の趣旨でございます。ところが、技能実習生を受け入れている企業、実習実施者がそうした制度を理解せず、低賃金労働者として使っているケースがこれまでもしばしば見られ、そうした実習実施者が問題を起こしてきたわけでございますので、そうしたものをやはり厳正に取り締まって、本来の国際協力という目的に沿った事業をやってくれているところも多数あるわけでございますから、国際協力だという本来の趣旨に合う、そういう実習実施者にやはり厳正に限る必要があるというふうに思います。


穀田委員

終わりますが、実施者に限る問題、責任の問題だけではないんですよ。こういう制度自身をつくっていること自体が問題で、法務大臣は大体そう言っているじゃないですか。来年の四月までに実行せえへなんだら帰ってしまうと。もともと、帰ってもらって、それこそ国際貢献にするということが目的なんでしょう。そうじゃないということを、大体、担当の法務大臣が言うぐらいなんだから、法律の趣旨を理解していない実施者がいるじゃなくて、はなからそういう態度ではなかったということがこの法務大臣の答弁から明らかなんですよ。
私は、そういう意味では、年金や社会保障制度の受入れの整備も当然これから不可欠だと思うんですけれども、何より技能実習生の人権侵害の実態をつかんで、これに心を痛めて、これを抜本的に改善するということが急務だ、それが我々の仕事だ、その点では、ましてや、そういう実態を明らかにする資料を公開するなんか当たり前だということについて述べて、質問を終わります。