「個人の慰謝料請求権自体は消滅していない」 徴用工問題で質問
2018年11月14日
若宮委員長
次に、穀田恵二君。
穀田委員
日本共産党の穀田恵二です。
きょうは徴用工問題について質問したいと思います。
韓国の大法院は、十月三十日、日本がアジア太平洋地域を侵略した太平洋戦争中に徴用工として日本で強制的に働かされたとして韓国人四人が新日鉄住金に損害賠償を求めた裁判で、賠償を認める判決を言い渡しました。
河野大臣は、この判決について、一九六五年の日韓請求権協定で完全かつ最終的に終わった話であり暴挙だ、さらに、国際法に基づく国際秩序への挑戦だと、韓国側を強く非難する姿勢を示されておられます。
改めて、この問題での河野大臣の所見を伺いたいと思います。
河野国務大臣
今般の韓国大法院の判決は、日韓請求権協定に明らかに反して、日本企業に対し不当な不利益を負わせるものであります。そればかりか、今御指摘いただきましたように、一九六五年の国交正常化以来築いてきた日韓の友好協力関係の法的な基盤を一方的かつ根本から覆すものであって、極めて遺憾と言わざるを得ません。
日本政府としては、韓国政府に対しまして、このような国際法違反の状態を直ちに是正することを含めた適切な措置を講ずるように強く求めているところでございまして、韓国政府が毅然とした対応をしてくれるというふうに期待をしているところでございます。
穀田委員
今の発言は、所信表明と、それから官房長官の記者会見と大体同じ内容でずっと言っておられると拝察しました。
そこで、徴用工問題や強制動員の問題は、日本の植民地支配のもと、朝鮮半島や中国などから多数の人々を日本本土に動員し、日本企業の工場や炭鉱などで強制的に働かせ、劣悪な環境、重労働、虐待などによって少なくない人々の命を奪ったという重大な人権問題であります。
本件の原告も、いわゆる、政府が言っていますけれども、募集などと言っておりますが、その実態は甘言や暴力を伴うものだった。一日八時間の三交代制で働き、月に一、二回程度しか外出を許可されず、月に二、三円程度の小遣いが支給されただけだった。賃金全額を支給すれば浪費するおそれがあると理由をつけ、本人の同意を得ずに、彼ら名義の口座に賃金の大部分を一方的に入金し、その貯金通帳と印鑑を寄宿舎の舎監に保管させた。賃金は結局最後まで支払われなかった。当初の話と全く違う過酷な条件で働かされ、逃げ出さないように厳しい監視下に置かれ、殴打されるなど体罰を振るわれたことが裁判で明らかになっています。
そこで、外務省に聞きたいと思うんですけれども、元徴用工の請求権については、政府は、日韓請求権協定で完全かつ最終的に解決している、判決は国際法違反だとの姿勢ですが、私はそうした政府の姿勢に重大な問題があると思います。
韓国大法院の判決は、元徴用工の個人の請求権は消滅していないと判定を下しています。この個人の請求権について、日本政府は国会答弁などで、請求権協定によって日韓両国間での請求権問題が解決されたとしても、被害に遭った個人の請求権を消滅させることはできないと公式に繰り返し表明してきたはずであります。
私、当時の議事録を持ってきましたけれども、例えば一九九一年八月二十七日の参議院予算委員会で、外務省の柳井条約局長は、日韓請求権協定の第二条で両国間の請求権の問題が完全かつ最終的に解決されたと述べていることの意味について、「これは日韓両国が国家として持っております外交保護権を相互に放棄したということでございます。」と述べ、「個人の請求権そのものを国内法的な意味で消滅させたというものではございません。」と答えています。これは間違いありませんね。
河野国務大臣
個人の請求権が消滅したと申し上げるわけではございませんが、個人の請求権を含め、日韓間の財産請求権の問題は日韓請求権協定により完全かつ最終的に解決済みでございます。
具体的には、日韓両国は、同協定第二条一で、請求権の問題は完全かつ最終的に解決されたものであることを明示的に確認し、第二条三で、一方の締約国及びその国民の他方の締約国及びその国民に対する全ての請求権に対していかなる主張もすることができないとしていることから、このような個人の請求権は法的に救済されません。
日韓請求権協定において、請求権の問題は完全かつ最終的に解決され、個人の請求権は法的に救済されないというのが日本政府の立場でございます。
穀田委員
日本政府の立場はそういうことだということを言っているわけですけれども、問題は、今の説明は、簡単に言うと、国と国との請求権の問題と個人の請求権を一緒くたにして、全て一九六五年の日韓請求権協定で解決済みだ、個人の請求権もないとしているところに、そこに重大問題があります。
私が聞いているのは、請求権協定で個人の請求権は消滅したのか消滅していないのかということを聞いているんです。外務省、お答えください。
三上政府参考人
お答え申し上げます。
ただいま大臣より答弁申し上げたとおりでございますけれども、御指摘の柳井条約局長の答弁につきましては、個人の財産権、請求権そのものを国内法的な意味で消滅させたものではない旨述べるとともに、日韓請求権協定による我が国及び韓国並びにその国民の間の財産、権利、利益並びに請求権の問題の解決について、国際法上の概念である外交的保護権の観点から説明したものであるということでございます。
韓国との間におきましては、日韓請求権協定により、一方の締約国の個人の請求権に基づく請求に応ずべき他方の締約国及びその国民の法律上の義務が消滅し、その結果、救済が拒否されるということになっております。
穀田委員
いろいろありましたけれども、一番最初に言ったところが肝心でして、消滅させたものではないということが肝心なんですね。
それで、柳井条約局長は、一九九二年の二月二十六日の外務委員会でも「条約上は個人の請求権を直接消滅させたものではない」と答えて、今お話あったように、結局のところ、そういう、訴求したり、いろいろなことをしても無駄よという話は出ているけれども、関係者の方々が訴えを提起される地位までも否定したものではないとはっきり答えているわけですね。
さらに、その訴えに含まれておりますところの慰謝料請求権等の請求が我が国の法律に照らして実体的な根拠があるかないかということにつきましては、これは裁判所で御判断になることだと存じますと答えているわけですね。
このように、たとえ国家間で請求権問題が解決されたとしても、個人の請求権は消滅しない、そしてその訴えをどう判断するかは司法府の判断になると繰り返し言明してきた。これが政府の公式の立場だと言ってよろしいですね。
三上政府参考人
お答え申し上げます。
先ほど申し上げましたように、柳井条約局長の答弁は、請求権そのものを国内法的な意味で消滅させたものではないとしつつも、日韓請求権協定による我が国及び韓国並びにその国民の間の財産、権利及び利益並びに請求権の問題について、国際法上の概念である外交的保護権という観点から説明したものでございますが、同時に、その日韓請求権協定と申しますのは、先ほど大臣から答弁申し上げたとおり、完全かつ最終的に解決されたとか、一方の締約国及びその国民の他方の締約国及びその国民に対する全ての請求権に関していかなる主張もすることができないということで、明確に個人の請求権が法的に救済されないということを全体として書いているという理解でございます。
穀田委員
何度もおっしゃるように、そう意味はないと言っているだけで、消滅したとは言っていないというところが大事なんですよ。すぐ話をそらすわけだけれども、違うんですって。消滅していないというところが、今、私が問うている問題なんですよ。やっても意味がない、そういうことを言っているのは知っていますよ。
そこで、強制連行による被害者の請求権の問題では、中国との関係でも問題になっています。
二〇〇七年四月二十七日、日本の最高裁は、中国の強制連行被害者が西松建設を相手に起こした裁判で、被害者個人の賠償請求権について、請求権を実体的に消滅させることを意味するものではなく、当該請求権に基づいて訴求する機能を失わせるにとどまると判断しています。
この判決は知っていますね。
三上政府参考人
はい、この判決は承知申し上げております。
穀田委員
この判決は、日中共同声明によって個人が裁判上訴求する機能を失ったとしながらも、実体的な個人の賠償請求権は消滅していないと判断し、債務者側において任意の自発的対応をすることは妨げられないとまでして、日本政府や企業による被害者の回復に向けた自発的対応を促したのであります。
この判決が手がかりとなって、被害者は西松建設との和解を成立させ、西松建設は謝罪し、和解金が支払われたという経緯があります。
たとえ国家間で請求権の問題が解決されたとしても、個人の請求権を消滅させることはない、政府が繰り返し言明してきたこの立場に立って、被害者の名誉と尊厳を回復し、公正な解決を図るために冷静な努力を今尽くすべきだ、このことを私は強調しておきたいと思います。
そして、韓国大法院の判決は、原告が求めているのは、未払い賃金や補償金ではなく、朝鮮半島に対する日本の不法な植民地支配と侵略戦争の遂行に直結した日本企業の反人道的な不法行為を前提とする強制動員への慰謝料、これを請求したものだとしている。そして、日韓請求権協定の交渉過程で、日本政府は植民地支配の不法性を認めず、強制動員被害の法的賠償を根本的に否定したと指摘し、このような状況では、強制動員の慰謝料請求権が請求権協定の適用対象に含まれるとみなすことはできないと述べています。
政府は、日韓請求権協定の締結に際し韓国側から提出された対日請求要綱、いわゆる八項目に、被徴用韓人の未収金、補償金及びその他の請求権と記されており、合意議事録には、この対日請求要綱の範囲に属する全ての請求が含まれているというけれども、その中に慰謝料請求権は入っているのですか。外務省。
三上政府参考人
お答え申し上げます。
そういう請求権も含めて、全て対象となっているという立場でございます。(穀田委員「もう一度」と呼ぶ)
そういった請求権も含めて、日韓請求権協定で全てカバーされており、解決済みという立場でございます。
穀田委員
慰謝料請求権は入っているかと聞いて、ばくっと答えて、入っていますと言われても困るんだよね。きちっと言ってほしいんですよ。
一九九二年三月九日の衆議院予算委員会で、柳井条約局長は、日韓請求権協定上、財産、権利及び利益というのは、「財産的価値を認められるすべての種類の実体的権利をいうことが定義されて了解されている」と述べ、慰謝料等の請求につきましては、「いわゆる財産的権利というものに該当しない」と答えています。
つまり、請求権協定で個人の慰謝料請求権は消滅していないということではないんですか。
三上政府参考人
お答え申し上げます。
請求権協定の二条でございますけれども、「両締約国は、両締約国及びその国民の財産、権利及び利益並びに両締約国及びその国民の間の請求権に関する問題が、」と書かれておりますので、請求権協定で財産、権利、利益と並んで、いわゆる請求権も入っているということでございます。
穀田委員
いつからそういうふうに範囲が拡大しているんですか。そんな話に書いていないですよ。
柳井条約局長は、その後にまた、「慰謝料請求権というものが、この法律上の根拠に基づき財産的価値を有すると認められる実体的権利というものに該当するかどうかということになれば、恐らくそうではない」と答弁しているんですよ。
そしてさらに、「昭和四十年、この協定の締結をいたしまして、それを受けて我が国で韓国及び韓国国民の権利、ここに言っております「財産、権利及び利益」について一定のものを消滅させる措置をとったわけでございますが、そのようなものの中にいわゆる慰謝料請求というものが入っていたとは記憶しておりません。」明確に慰謝料請求というものが入っていない、入っていたとは記憶していないと答えているわけですよ。
したがって、個人の慰謝料請求権は請求権協定の対象に含まれていないということは明らかではありませんか。
三上政府参考人
お答え申し上げます。
ちょっと柳井条約局長の全文が手元にないものですから、そこはお許しいただきまして、先ほど申し上げたように、請求権協定の中には財産、権利及び利益並びに請求権ということで入ってきているわけでございます。柳井局長が実体的権利と申し上げたのは、その四つのうちの財産、権利及び利益、確定的に実体的に存在しているものということだと理解しております。それを日本国内法の措置法で消滅させたということを言っていると思うんですが、請求権、慰謝料の請求権はその消滅させた実体的権利の中に入っていない、ただ、請求権は請求権協定の中には入っているので、この請求権協定で全てが解決されているということでございます。
穀田委員
持っていないからというわけにはいきませんでね。そういうことを聞くと言っているわけだから。
じゃ、念のためにもう一度お読みしましょう。
一九九二年の三月九日に柳井さんは、「「財産、権利及び利益」というのは、「法律上の根拠に基づき財産的価値を認められるすべての種類の実体的権利をいうこと」が定義されて了解されているわけでございます。」と。「そして慰謝料等の請求につきましては、これは先ほど申し上げたようないわゆる財産的権利というものに該当しない」と。明らかにこの問題を問われて、これは該当しないということを答弁しているわけですよ。今ごろになってばくっと請求権の中に入ってますのやなんという話が通用せえへんほど明確に言っている。ここをちゃんと見なあきまへんで。
さらに、もう一度言いますと、いわゆる慰謝料請求権というものが、この法律の根拠に基づき財産的価値を有すると認められる実体的権利というものに該当するかどうかということになれば、恐らくそうではないだろうと考えますと。
更にあるんですよ。
いずれにいたしましても、昭和四十年、この協定の締結をいたしまして、それで我が国で韓国及び韓国国民の権利、ここに言っております財産、権利及び利益について一定のものを消滅させる措置をとったわけですが、そのようなものの中にいわゆる慰謝料請求というものが入っていたとは記憶していませんと。
だから、明らかに、この一連の請求権協定にかかわる交渉の過程で行われた問題について慰謝料請求権というものは入っていないということを二度三度にわたって明確にしている。これがこの間の答弁ではありませんか。その答弁を否定するということですか。
三上政府参考人
たびたび申しわけありません。答弁申し上げます。
柳井局長の答弁を否定するつもりはございません。日本国内の法律をつくって、その実体的な財産、権利、利益については消滅させたわけです。しかし、請求権というのは、そういった財産、権利、利益のような実体的権利と違う潜在的な請求権ですから、それは国内法で消滅はさせられていないということを柳井局長は言ったと思います。
国内法で消滅させたのは、実体的な債権とか、もうその時点ではっきりしている財産、権利、利益の方でございまして、その時点で実体化していない、請求権というのは、いろいろな不法行為とか、裁判に行ってみなければわからないようなものも含まれるわけですので、そういったものについては消滅はしていない。
したがって、最初に申し上げたように、権利自体は消滅していない。しかし、裁判に行ったときには、それは救済されない、実現しませんよということを両国が約したということだと思います。
穀田委員
最後、いろいろ言っていますけれども、結局のところ、これは、それぞれの国内法において消滅したとか消滅していないと言っているけれども、明らかに、この問題については、その慰謝料の請求権というものは入っていないということは今の答弁で極めて明らかだと。しかも、当時の答弁はそのとおりだということを確認しておきたいと思います。
最後に、河野大臣にお伺いしたいんですけれども、一九六五年の日韓基本条約及び日韓請求権協定の交渉過程で、日本政府が植民地支配の不法性について認めた事実はございますか。
河野国務大臣
ないと思います。
穀田委員
ありませんよね。
そうすると、私は、日韓のこの基本条約、日韓請求権協定の交渉過程で、日本政府が植民地支配の不法性についてやらなかったことを、これを公式に大臣が述べたということについては重要な意味が私はあると思います。一切そういうことについては、一切と言っていませんけれども、なかったということですから、一切なかったということだと思うんですね。
日韓基本条約は、一九一〇年の韓国併合をもはや無効と述べるだけで、日本側の責任や反省については何ら触れていません。
そこで、私は思い出すんですが、私は京都に住んでいますから、小渕内閣で官房長官を務められた野中広務氏は、二〇〇九年の新聞インタビューに答えて、次のように語っています。
子供のころ、鉱山で働く朝鮮人が、背中にたくさんの荷物を背負い、道をよろよろ歩く、疲れ切ってうずくまるとむちでぱちっとたたかれ、血を流しながら、はうようにまた歩き出す、そんな姿を見てきました。戦後六十四年が経過した今でも、戦争の傷は癒えていません。北朝鮮との国交回復、賠償の問題も残っています。多くの未解決の傷跡を見るとき、まだまだ日本は無謀な戦争の責任がとれていない。そのこと自体が被害者の方々にとって大きな傷になっていると思われ、政治家の一人として申しわけない思いです。こう語っておられます。
同じ京都にずっと活動してきたもので、非常に重い発言だと思いますし、園部には、住んでおられたところにはマンガン鉱もありまして、そういうところで、こういう仕打ちを受けたということについて、政治家としての思いを語られておられます。
その点では、外務大臣は、政治家としてのこういう点についての、どういう思いをされますか。
河野国務大臣
安倍政権として、歴史認識に関する歴代内閣の立場を全体として引き継いでおり、今後も引き継いでいく考えでございます。
穀田委員
その歴代歴史認識ということについていいますと、そういう歴史認識について、韓国のこの間の問題について反省をしたということについて、今の安倍政権がその話を述べたことは、少なくともありません。
ことしは、日本の韓国への植民地支配への反省、痛切な反省と心からのおわびということで、日韓両国の公式文書で、小渕恵三当時首相と、一九九八年ですね、そして金大中大統領による日韓パートナーシップ宣言から二十年の、二十周年の節目の年であります。日本政府が、私は、過去の植民地支配と侵略戦争への真摯で痛切な反省を基礎に、この問題の公正な解決方法を見出す努力を強く求めたいと思います。
先ほど述べたように、多くの未解決の傷跡を見るとき、まだまだ日本は無謀な戦争の責任がとれていない、こうおっしゃっています。そういう意味でいいますと、私は、この問題の公正な解決、先ほど述べた努力をする際に、日韓双方が、この徴用工の、元徴用工の被害者の尊厳と名誉を回復するという立場から、冷静で真剣な話合いをすることが極めて大切だということを述べて、質問を終わります。