衆院選挙制度 参考人質疑

2016年04月26日

山本委員長

これより会議を開きます。
細田博之君外四名提出、衆議院議員選挙区画定審議会設置法及び公職選挙法の一部を改正する法律案及び今井雅人君外二名提出、衆議院議員選挙区画定審議会設置法及び公職選挙法の一部を改正する法律案の両案を一括して議題といたします。
本日は、両案審査のため、参考人として元衆議院選挙制度に関する調査会座長佐々木毅君及び弁護士・自由法曹団常任幹事田中隆君に御出席をいただいております。
この際、参考人各位に一言御挨拶申し上げます。
本日は、御多用のところ本委員会に御出席いただきまして、まことにありがとうございます。参考人各位におかれましては、それぞれのお立場から忌憚のない御意見をお述べいただきたいと存じます。
次に、議事の順序について申し上げます。
佐々木参考人、田中参考人の順に、お一人十五分程度御意見をお述べいただき、その後、委員の質疑に対してお答えをいただきたいと存じます。
念のため申し上げますが、発言する際には委員長の許可を得ることとなっております。また、参考人は委員に対し質疑することはできませんので、あらかじめ御了承願いたいと存じます。
それでは、まず佐々木参考人にお願いいたします。


佐々木参考人

衆議院選挙制度に関する調査会の座長を務めました佐々木でございます。
本日は、調査会が本年一月十四日に大島議長に提出しました答申につきまして、お手元に答申をお配りしておりますので、まず、それに沿って概略御説明し、また、調査会の座長として御質問に答えさせていただきたいと存じます。
調査会は、平成二十六年九月十一日に第一回の会議を開き、答申を決定しました本年一月十四日までの間、全部で十七回の会議を開きました。
議長からの諮問事項は、答申の一ページにありますように四項目で、それら四つにつきまして一つ一つお答えをしたという形で答申をつくらせていただきました。
答申本体の二ページ目の次に、水色の紙を挟んで、オレンジの枠がついているものが説明文になりますが、オレンジの枠の中は答申そのものですので、この説明文に沿って御説明をいたします。
一番目が「衆議院議員の選挙制度の在り方」でございます。
そこにありますように、「現行の小選挙区比例代表並立制を維持する。」ということとあわせて、「ただし、制度の信頼性を確保するため、人口動態に合わせて、選挙区間の一票の較差、選挙区の区割りなどを定期的に見直す仕組みとする必要がある。その点からして、較差是正は喫緊の最重要課題である。」というのが答申の本文でございます。
それに至る議論の経過、理由につきましては、一ページの下から二つ目の丸に、「本調査会としては、ようやく国民の間に定着した現行制度の信頼性を確保するため、客観性のある制度の運用原則を定めるとともに、とくに小選挙区選挙については衆議院議員選挙区画定審議会という独自の機関の機能を高めることによって、安定した透明性のある制度運営に努めるのが適切であると考える。」そのような文言をつけ加えました。
あわせて、次の丸で、「なお、制度の根幹である二つの機能の確保のため、民意の集約機能と民意の反映機能とのバランスには今後とも十分な配慮が必要である。」ということを述べさせていただきました。
次に、二ページの「定数削減」でございます。
「現行の衆議院議員の定数は、国際比較や過去の経緯などからすると多いとは言えず、これを削減する積極的な理由や理論的根拠は見出し難い。」というのが(1)でございます。
(2)としまして、「一方、衆議院議員の定数削減は多くの政党の選挙公約であり、主権者たる国民との約束である。」ということがございます。
(3)として、「このことから、削減案を求められるとするならば、以下の案が考えられる。」といたしまして、1として、「衆議院議員の定数を十人削減して四百六十五人とする。」二つ目として、「小選挙区選挙と比例代表選挙のそれぞれの定数は、小選挙区選挙の定数を六人削減して二百八十九人とし、比例代表選挙の定数を四人削減して百七十六人とする。」ということを本文で答申いたしました。
結論に至った理由は、いろいろ書いてございますが、一つ目の丸の「衆議院議員の定数を何人とするかについて、絶対的基準があるわけではない。歴史的経緯、政治体制、統治構造、選挙制度や国会運営など様々な要素に基づき決定されることとなる。」というのが委員の大宗の意見でございました。
それから、衆議院議員の定数を国際比較するということが二つ目の丸でございますが、諸外国の下院と我が国の衆議院とを比べると、衆議院の場合は議員一人当たりの人口が他の国と比べて非常に多いということを改めて確認したわけでございます。
そして、三ページの一つ目の丸、「小選挙区比例代表並立制の下では、小選挙区選挙と比例代表選挙は別々に行われるものであり、小選挙区選挙及び比例代表選挙がそれぞれの意義をもち、有効に機能するためには、相応の定数が必要とされる。」ということでございます。
さらに、その下にありますように、「小選挙区選挙において、都道府県を単位に議席配分することを前提として大幅に定数を削減すると、都道府県間の一票の較差、ひいては選挙区間の一票の較差の縮小は難しくなる。定数の大幅削減と議席の比例配分及び較差の最小化という要請を同時に達成することは困難である。」という意見が非常に繰り返し述べられまして、これをここに記したところでございます。
議員数を考えるに際しましては、調査会の委員の中にもいろいろなお考えがあり、議席は有権者にとっては選ぶ権利であるという視点、いわば代表者を派遣する権利を有権者が持っているというのが、議席が削減されることによって事実上弱体化するというか削減されるというような観点、それから、有為な人材を集めることによる国民の代表議会としての国会の機能強化、その他、行政府との緊張関係の維持等々、削減するということについてはいろいろな要素を考えなければいけないので、増税と削減の組み合わせというものを一度慎重に検討し直す必要があるという意見も多くありまして、そういう意味で、大幅に定数を削減することは適当であるとは言えないということが調査会の大体の意見になったわけでございます。
そういうことで、「大幅に定数を削減することは適当であるとはいえない。」ということになりましたが、下から三つ目の丸にあるとおり、「しかしながら、定数の削減は、ヒアリングを実施した政党のうち日本共産党及び社会民主党を除くすべての政党の選挙公約であり、多くの政党の選挙公約は、いわば公党の国民との約束として、できる限り尊重されなければならない。」という意見も多く、さらに、具体の削減数につきましては、調査会の中でも、一桁でよい、やはり二桁という意見もございまして、最後の最後になりまして、先ほど申し上げたような結論になったわけでございます。大正十四年に男子による普通選挙が実現して以降、四百六十五人は最も少ない数になるということを確認させていただいたところでございます。
次に、四ページの「一票の較差是正」でございます。
まず、小選挙区選挙につきましては、「選挙区間の一票の較差を二倍未満とする。」ということを大原則としてまず掲げ、そして、「小選挙区選挙の定数を、各都道府県に人口に比例して配分する。」ということでございます。
その都道府県への議席配分方式については、いろいろな条件を満たしてもらわなければ困るという観点から、(ア)比例性のある配分方式に基づいて都道府県に配分すること、(イ)選挙区間の一票の格差を小さくするために、都道府県間の一票の格差をできるだけ少なくすること、(ウ)都道府県の配分議席の増減幅が小さいこと、すなわち変動幅が小さいことということでございます。(エ)として、一定程度将来にわたっても有効に機能し得る方式であること、これらの条件を加味しながら、実は議席の配分方式についてたくさんの方式がありますので、これを比較考量しました。答申の参考資料の5にも、いろいろな方式の差異について表が掲げてございますので、御参考にしていただければと思います。
このような諸条件に照らした結果、都道府県への議席配分の方式として、いわゆるアダムズ方式を提案させていただいたところでございます。
それと同時に、これも実は調査会の当初からいろいろ話題になっておりましたが、制度の安定性という問題をどういうふうに考えるかということでございます。
そこで、5といたしまして、「都道府県への議席配分の見直しは、制度の安定性を勘案し、十年ごとに行われる大規模国勢調査の結果による人口に基づき行う。」といたしました。
これは、現在の制度の基本的な骨格を継承したものであると私は認識しておりますが、その意味で十年ごとということであり、また、国勢調査に基づくこと、有権者数ではなく人口というものを基準に見るということでございます。
ただ、よく指摘されますように、十年の間に起こる変化をどう考えるかという問題もありますので、6といたしまして、大規模国勢調査の中間年に実施される簡易国勢調査の結果、格差二倍以上の選挙区が生じたときは、区画審は、各選挙区間の格差が二倍未満となるように関係選挙区の区画の見直しを行うものとし、この見直しについては、本来の選挙区の区割りの見直しが十年ごとに行われることを踏まえ、必要最小限のものとし、都道府県への議席配分の変更を行わないとしたところでございます。
都道府県への議席配分は変更せず、その内部の区割りの見直しによって格差を縮小するような努力、これはかなり義務づけ的な規定を調査会としてはできればお願いしたいというふうに思ったわけでございます。
この意味は、できればそのようなことが起こらないように最初に区割りをしてもらうと大変ありがたいという気持ちも背後にありまして、そのような選挙区の改定案を区画審に作成してもらいたいというのが我々の期待でありますので、必ず五年ごとに大規模な区割りの見直しを行うことをアプリオリに義務づけるという趣旨ではないことを御理解賜りたいと思っております。
次に、比例代表選挙につきましては、「現行の十一ブロックを維持する。」と。
これは、比例代表の議席を大幅に減らさなければ、現行の十一ブロックを維持することができるということでございます。
それから、各ブロックへの議席配分も、アダムズ方式により行うこととしました。これは、現行の配分方式では変動が激しく、そうしますと、比例区が比例区の名に値しないような小さな議席数になってしまうということは、できれば避けたいという気持ちもありまして、アダムズ方式により行うということにしました。
また、「各ブロックへの議席配分の見直しは、十年ごとに行われる大規模国勢調査の結果による人口に基づき行う。」としました。
小選挙区の方が専らの関心事になっておりますが、比例区の人口変動に伴う議席配分の見直しについても一緒に行っていただくようにルール化していただきたいと思い、ここに一項をつけ加えたところでございます。
最後に、九ページが四番目の諮問事項「現行憲法下での衆参両議院選挙制度の在り方」であり、正直なところ、大変難しかったところでございますが、ただ、「公正かつ効果的な代表という目的を具現化するために適切な制度を実現するよう、不断に見直していく」ことはお願いしたいということでございます。
そして、「憲法の定める二院制の下において、衆参両議院にはそれぞれ期待される役割や機能があり、今後も、将来における我が国の代表民主制のあるべき姿を念頭に、「国権の最高機関」としての国会の在り方や「全国民を代表する」議員を選出するための望ましい選挙制度の在り方を、広く国民の意見を踏まえ、明治以来長い歴史とともに発展してきた我が国民主政治における意思決定過程の制度と運用を見据えて、国会として継続的に考えていくべきである。」としたところでございます。
つまり、やはり国会として考えていただく、国民目線からするとそういうことになるのではないかということでございます。
ここについては、実は、さまざまな国会にかかわる議論が委員から述べられまして、それをできるだけ記すように努力したところでございます。
「結論に至った経緯・理由」の二つ目に、「もとより、選挙制度の在り方は、代表民主制の根幹にかかわるものであって、」云々と書いてありまして、「本調査会において検討した議員定数と一票の較差のそれに尽きるものではなく、選挙人・被選挙人の資格から、立候補制度、代表方法又は選出方法、選挙区の区分と画定、投票方式、選挙争訟の在り方などにいたるまで、多岐にわたり慎重な検討を要する多くの事項を含んでいる。」ということでございます。
定数削減と一票の格差にとどまらない形での国会の御努力を期待したいということも込めて、僣越ではありますが、こういった事項も挙げさせていただいたところでございます。
そこに、十八歳選挙についてもこういう一つの制度の見直しの結果として出てきたのだろうということで、その意味では、本調査会の検討事項はこういう不断の見直しの諸課題の一部にすぎないという認識を我々としては持っているということを申し上げたところでございます。
また、最高裁との関係についても少し言及させていただきました。
十ページの二つ目、「今日、日本の社会は、人口動態を含め少子高齢化やグローバル化などの要因により大きな変動期に入っている。こうした中で、国会には、「国権の最高機関」として、種々の重要な政策課題に対する基本的な道筋を示すことが求められており、将来における我が国の代表民主制のあるべき姿を展望し、「国権の最高機関」としての国会の権限・手続や「全国民を代表する」議員を選出するための国会両議院の望ましい選挙制度の在り方に」云々、こういうことを書いてございます。
委員の間からも、格差の問題を扱う過程で、今までなかったような非常に大きな変化がこれから起こっていくことは間違いないという認識がございますので、格差の問題を超えて代表民主制のあり方について国会においてお考えいただき、その結果として選挙制度のあり方をどうするかというお話もしていただくようにお願いできないかという気持ちを込めて、こういうことを書かせていただいたところでございます。
もちろん、そうはいうものの、政治制度には完全というものがないということ、そういう中で我々にできることは、引き続き検討を繰り返し重ねていくということが取り組むべき態度だろうということを最後に述べまして、報告書を結んでいるところでございます。
以上、私の陳述でございます。どうもありがとうございました。(拍手)


山本委員長

ありがとうございました。
次に、田中参考人にお願いいたします。


田中参考人

弁護士の田中と申します。
陳述の機会を与えていただいたことに感謝いたします。
おおむね骨子に沿ってお話をさせていただきます。
全国二千百名の弁護士で構成する自由法曹団という団体で活動をしております。
自由法曹団は、政治改革が提起されたときから、選挙制度などについて検討を行って意見書を発表し、二〇〇九年から始まりました第二次の改革問題でも意見書等を発表してきました。
今回は、今お話があった調査会答申を検討させていただいた最新の意見書だけを配付させていただきました。その余の意見書はホームページに掲載していますので、御参照いただければ幸いです。
そうした経緯を踏まえて、幾つかお話をさせていただきます。
まず、調査会答申と法案についてです。
二〇一四年の三月、与党と当時の野党五党が衆議院議長のもとの第三者機関設置で合意されたのが発端でした。
メディアなどには、諮問する以上、何らかの拘束力をとの主張もありました。
自由法曹団は、「「第三者機関への丸投げ」は許されない」と題する長文の声明を発表させていただきました。選挙制度の問題は国会で国民的な議論が行われるべきで、国会の上位に立つかのような諮問機関を認めることは、憲法上の問題も引き起こすためです。この見地は現在も変わっておりません。
調査会が設置されたときは、第二次政治改革段階での全ての意見書を送付させていただきました。そして、並立制の二十年間がもたらした問題を正しく総括して、国民の声が反映して議会制民主主義が再生できる選挙制度を模索していただきたいと要望しました。
諮問事項には、定数削減や格差の是正とともに、現行制度を含めた選挙制度の評価や、衆参議院選挙制度のあり方が掲げられていました。また、一三年六月には、並立制の功罪の検証が与野党で合意されておりました。決して自由法曹団だけの注文ではなかったと思っています。
答申を拝見いたしました。今伺って、佐々木座長の御苦労や御尽力には心から敬意を表します。しかし、まことに失礼な言い方になるんですが、肩透かしを食らった思いを禁じ得ませんでした。
選挙制度では、多くの政党が現行制度でいいというので現行の並立制を維持する。定数削減では、削減する理由はないけれども、多くの政党が公約しているので、比例代表を四議席、小選挙区を六議席削減する。格差是正では、一人別枠方式とドント式をやめて、アダムズ方式を採用する。衆参両院の選挙制度は、国会として継続的に考えていくべき。こういう趣向でした。
国会では結論が出せないからとして専門家に審議してもらうために設置された第三者機関が、諮問した側の政党の意向をもって答申にかえ、あるいは国会に投げ返したのでは、問いをもって問いに答えたことにしかなりません。
アダムズ方式は、国会や選挙制度のあり方という基本の問題をさておいて配分だけを調整するもので、問われている問題を解決するものにはならないと思います。
一人別枠方式を違憲とする最高裁がアダムズ方式を合憲とするかの問題もあるんですが、最大の問題は、どれだけ人口が流動しても定数ゼロ配分を生み出せない、小選挙区の都道府県への配分に収れんさせてしまっているところにあります。投票価値の平等を実現するのであれば、もっと広い単位で選挙を行う制度にすれば、格差の問題はたちどころに解消できます。ちなみに、お配りした意見書で提案している十七ブロックの比例代表制では、最大格差は一・〇三五倍にすぎません。
今回二つの法案が提出されていますが、いずれも、現行の並立制を前提にアダムズ方式を採用するとともに、議会の役割や議員定数のあり方の明示もないまま、答申だけを理由に定数を十削減しようとするものです。また、緊急だからと言われていますが、時限法でも特別措置法でもない恒久法として提案されており、このまま並立制を固定化させる機能を営む危険は甚大です。抜本的な再検討が必要と考えます。
次の問題は、二〇〇九年からの検討の意味なんです。
二〇〇九年と二〇一二年の総選挙で、並立制の問題が露呈しました。
民主党への政権交代が起こった総選挙では、比例代表で四二%の得票の民主党が六四%の議席、自民党への逆政権交代が起こった総選挙では、比例代表で二八%弱の自民党が六一%の議席を獲得しました。その結果、民意を反映する選挙制度であれば議席につながるはずの第二党以下の得票が、制度的に死票にされました。いずれの選挙でも第一党の得票が移動しましたから、どんな選挙でも政権交代は起こったことになります。問題は、オセロゲームのような議席の雪崩現象が起こってしまったことです。
私たちが第二次政治改革と言う議論や検討はこうした中で進みました。
最初の議論は、一層小選挙区制に傾斜させようとする方向で起こりました。民主党が、マニフェストで比例定数八十削減を掲げ、官僚答弁の禁止などを含めた国会改革を叫んで、政権と政権党への権限の集中を図ろうとされたためです。英国のモデルがウエストミンスター・モデルとしてそのまま持ち込まれようとしました。自由法曹団は、英国に調査団を派遣して、小選挙区制の機能不全が叫ばれていた英国の動きを紹介いたしました。
二〇一一年三月、最高裁が一人別枠方式を違憲とする判決を言い渡し、同趣旨の判決が続きました。定数格差違憲状態判決は、一票の価値の平等という側面から選挙制度のあり方を問いかけたもので、配分方法を変えればいいという問題にとどまらない意味と射程を持っていると思います。
二〇一一年八月、自由法曹団は、意見書「わたしたちの声をとどけよう」を発表して、民意が反映する選挙制度への転換を求めました。その後の検討を経て、参議院は大選挙区制、衆議院はブロック単位の比例代表制というのが現在の私たちの提案です。小選挙区制の廃止を求める国民運動も展開され、大阪や東京では一千名規模の集会が行われ、院内での集会や議員要請、懇談も繰り返されました。
国会の中でも見直しの動きが強まって、同じ二〇一一年には、超党派のいわゆる中選挙区議連がつくられました。ムード主体の選挙による地すべり的勝利が多い、信念に基づいた思い切った政策を打ち出しにくい、専門性を持った議員が生まれにくい、これは、私たちが言っているのではなく、議連の準備会で配付された資料の一節です。
二〇一二年の総選挙を機に、それまで政治改革推進一辺倒だった財界やメディアからも見直しの声が起こりました。大衆迎合主義、ポピュリズムの弊害を指摘して、「中選挙区制の復活を求める声も出ている。それも排除すべきではない」とした一二年十二月の読売新聞の社説や、中選挙区制におけるメリットの再評価とあるべき選挙制度の検討を提起した翌一三年一月の経団連の政治改革提言が代表的なものでした。
この衆議院でも、抜本改革案が検討され、発表され続けられました。
連用制は、公明党さんが三案の一つとして提示されたもので、二〇一二年には焦点の一つでした。二〇一二年七月には、民主党が並立制と連用制を組み合わせた一部連用制案を提出され、一三年三月には、自民党の検討の中から、比例代表議席を比例枠と優遇枠に二分する優遇枠案が浮上しました。
その都度、自由法曹団は意見書を提出して、検討、批判しましたが、問題はあるとはいえ、全体としては、民意の反映を拡大しようとする方向を共有したものでありました。
こうした模索は、並立制が生み出すものが明らかになるもとで選挙制度について検討を行った貴重な機会であり、見直しは、院内の皆さんからも起こり、国民の中、市民の中からも起こり、そして現在も続いています。その見直しの動きが、過剰な民意の集約に着目して、民意の反映を強めようという方向に発展していったことも重要な意味を持っていると考えます。
調査会は、残念ながら、こうした動きに対して、問いには答えられませんでした。だからといって、それでこの問題が終わったことにはなりません。終わらせることは、会派や議員の皆さん自身が模索してこられた道筋を無にすることを意味しております。そのことを重ねて強調しておきたいと思います。
最後の問題は、やはり政治改革です。
並立制や政党助成などを導入した政治改革は、五年にわたる激しい議論や攻防を経て、一九九四年に強行されました。国際競争力のための新自由主義的な構造改革や、国際貢献を掲げた自衛隊の海外派遣と同時並行のものでもありました。
並立制による最初の総選挙が行われたのは九六年十月、ちょうど二十年になります。中選挙区制のもとでほぼ対応していた国会外の民意と国会内の議席が大きく食い違うようになっていって、国民の多くが反対する法案も強行されていきました。その二十年が生み出したものがどんなものだったのかは、あえて指摘いたしません。
政治改革のあのとき、選挙による政権の直接選択が主張され、政治における意思決定と責任の帰属の明確化が言われました。総選挙で政権を選んだんだから白紙委任しろ、文句があったら次の選挙で政権をかえろということでもあります。そのために、小選挙区制が選挙制度の中心に据えられ、政党執行部に権限集中を図るさまざまなシステムが導入されました。
自由法曹団は、こうした政治像に真っ向から反対しました。これは形を変えた大統領制だ、大統領選挙人のかわりに国会議員を選び、国会議員は内閣総理大臣を選出すれば本来の役割は終わる、そして、大統領選挙人団にすぎない国会には内閣へのコントロール機能は期待できない、一九九〇年九月に発表した自由法曹団の最初の意見書「小選挙区制・政党法を斬る」の一節です。
民意を日常不断に政治に結びつけ、みずから立法に当たり、行政権の監視を続ける国会の役割を自己否定するに等しい、こんな政治像では、国民の期待や信頼はつなぎとめられないと思います。最後の二〇一四年十二月の総選挙で投票率が戦後最低の五二・六%を記録したのは、その結果と言うほかはございません。
主権者を国民とし、国会を国権の最高機関とし、国会議員を全国民の代表者とする日本国憲法の求める政治像は、決してそんなものではありません。現代の国民主権は、多様化している民意を可能な限りそのまま国会に反映し、議会の中での熟議を通じて国政の方向を決めるというものであり、これが世界の趨勢だと思います。
政治改革は、民意の反映こそが基本という大原則を踏み外し、政権の直接選択を掲げて、議会の自己否定に等しい道を歩みました。大変失礼な表現ながら、巷間言われる政治の劣化や歴史的な低投票率は、その結果生み出されたものと言わざるを得ません。政治改革からの二十年は、政治改革そのものの抜本的な見直しを要求していると考えます。
最後に、もう一度調査会答申に戻します。
答申は、アダムズ方式を提案された以外は、さっき申し上げたように、問いをもって問いに答えられました。しかし、考えようによっては、これが正しかったのかもしれないと思います。
声明で指摘したとおり、憲法的な課題であり、政治のあり方や主権者国民の権利に深くかかわる選挙制度の問題は、国権の最高機関であり、唯一の立法機関である国会が、国民の参加と監視のもとで議論を行って結論を導かなければならないものだからです。その意味では、問いは投げ返されるべくして投げ返されたとも言えると思います。
衆議院には、投げ返された問いに答えていただく責任がございます。今度こそ国会は、政治改革の二十年を真摯に総括されて、民意を反映する選挙制度の実現のために邁進していただきたい。
二つの法案にはいずれも、全国民を代表する国会議員を選出するための望ましい選挙のあり方についての不断の見直しも行われるものとするとの附則がつけられています。本来なら、この部分こそ、まさしく本則として行われるべきものでした。
この附則に盛り込んだ決意を何としても実行に移していただきたい、そのことを心からお願いをして、陳述といたします。
ありがとうございました。(拍手)


山本委員長

ありがとうございました。
以上で参考人の意見の開陳は終わりました。
これより参考人に対する質疑を行います。
つぎに 穀田恵二君。


穀田委員

日本共産党の穀田恵二です。
お二方の参考人、陳述ありがとうございました。
私は、まず佐々木参考人にお聞きしたいと思います。
衆議院選挙制度調査会は十七回開催し、その答申を受けて、実はこの国会に二つの法案が提出されました。その答申を出された調査会は非公開で行われ、議事録も一切公開されていません。どういう議論があったのかは国民は知りようもありません。したがって、きょうは、どんな議論を経て結論が出されたかなど、その座長であった佐々木参考人に最初にお聞きしたいと思います。
まず最初に、定数削減についてです。
調査会答申は、「現行の衆議院議員の定数は、国際比較や過去の経緯などからすると多いとは言えず、これを削減する積極的な理由や理論的根拠は見出し難い。」と述べています。
私は、各党のヒアリングの中で、二〇一五年十二月七日に、定数削減の根拠は何かということを問いました。それはないじゃないかということを述べたわけであります。
ことし一月の答申説明会並びに本日の陳述で、佐々木参考人は、調査会の多くの委員は慎重な意見を述べられた、客観的な根拠と言われるとなかなか難しい、大幅な削減はないということに皆さんが合意したと明らかにしています。これは、調査会の有識者の委員の大方が定数削減に慎重な意見であって、客観的な根拠は難しいということが理論的な結論だったということと理解してよろしいですね。


佐々木参考人

お答えいたします。
客観的根拠を挙げることは難しいというのは、皆さんの御意見でございました。
以上でございます。


穀田委員

その点では、安倍総理も、調査会における結論としては定数削減をする必要がないとなっているというふうに発言されたことは正鵠を得ていると私も思います。
そこで、佐々木参考人は、説明会で、実は、まとまらなかったという報告も出しかねないところまで行き、最後まで苦慮したと述べておられます。そして、定数削減を諮問された以上、答えを出さざるを得ないという義務感みたいなものによって、定数十削減で奇跡的に意見の集約ができたと説明しています。覚えておいでだと思います。
奇跡的にというのはどういうことか、どういう議論があって、結果的には奇跡的にまとまったのか。ちょっとお話しいただければ幸いです。


佐々木参考人

お答えいたします。
実は、この削減問題のもう一つのファクターとして、緊急是正において五議席、既に削減されているということがございまして、それを頭の中に入れて御提案なさる方と、それは別個に、これから何議席削減するということを提案するべきだという人とで、まず出発点がちょっと微妙に違っていたということがございます。
それで、私は、各党ヒアリングの際に、皆さんは削減の場合の出発点にあの〇増五減を入れて、その上での削減を御主張なさるのか、あれも加えて御主張なさるのかということをかなりしつこく聞きました。そうしましたら、皆さん、あれは別だ、新たに考えてくれという御意見だったものですから、一応、我々としてはそういう認識を踏まえて活動したわけでございます。
実際の数としましては、数の問題ですから、五が減ったことは確かでございますので、そこで、小規模案と二桁に近い案とで、最後まで議論が、両案、最後の日まで、実は起草委員会の方で案を出そうということになったんですけれども、起草委員会の中からも、一つの案では難しいなということで、二つの案が出たというようなぐあいでございます。
私が、奇跡的というか、どうなるかわからないと思ったのは、そういう状況を踏まえた上での発言だったと記憶しております。
それで、さらに問題は、減らすにしても、どっちで減らすのかということについて、小選挙区で減らすのか、比例区の方で減らすのかということについて、同じ数を挙げられる方の中でも実はかなり方向が違っている可能性がございましたものですから、そこがさらに、例えば三議席とか四議席ということであればどっちにしろそんなに大きな振れはないんですけれども、二桁に近くなりますと、特に格差是正を重視する方の中には、これは可能性としてですけれども、小選挙区は減らさないで、比例を専ら減らして、小選挙区は今のままにしておくべきだという議論だってあり得たわけであります。あるいは、その反対に、民意の集約が強過ぎるということで、今度は小選挙区の方に減らしてもらおう、比例の方はそういうことにしないようにしよう、比重を変えようという議論もあったわけでございます。
その意味で、数の問題の下に、どっちの制度に軸足を置いて減らすかという問題が一緒に絡み合っていたものですから、先ほど議員がおっしゃられたように、連立方程式がだんだんややこしくなってきまして、はっきり申し上げますと、委員会は、いわば議論の中でしか結論を生み出すという作業をいたしませんものですから、まとまるかどうかについて最後の最後まで予断を許さなかったというのは、もう少し立ち入った説明をしますと、そういう状況の中で、最後に、十で、しかも三対二ということでもって皆さん合意されたということでございまして、あと残り時間約一時間なかったぐらいのところでそういう結論になったというのが実態でございます。
経過説明しろということだったものですから、少々細かく説明させていただきました。
以上でございます。


穀田委員

そういう結果、先ほど公明党の議員にお話がありましたけれども、定数削減というのは余り重要でなかったという旨の発言も若干ありましたけれども、そういう前提があったのかと思い知った次第です。
いずれにしても、さほど大きく減らすという意見はなかったということだけは確かと。最高でも、今あれしましたように、十というふうなことしかなかったということは、よくわかりました。
佐々木参考人は、説明会で、議席は有権者にとっては選ぶ権利である、代表者を派遣する権利を有権者が持っているということが、議席が削減されることによって事実上弱体化する、削減される、有為な人材を集めることによる国民の代表議会としての国会の機能強化、行政府との緊張関係の維持等の要素を考慮する必要がある等々の意見が出され、先ほど私が指摘しましたけれども、大幅に定数削減することは適当であるとは言えないということが調査会の大体の意見だったとわざわざ説明をされていました。
これは、先ほど理論的根拠を見出しがたいと述べた中身の一つとして理解してよろしゅうございますね。


佐々木参考人

お答えいたします。
つまり、何か明確な、数的な基準でもって議員の数の問題を議論するということは困難であると。
実は、いろいろな仮定の議論はありました。例えば、この十年間で人口の減少を基準にして考えたらどうかとかいうようなこと、いろいろな、学者さんが集まっていますものですから、そういうのはどうだろうかとかという話もありましたけれども、逆に言えば、動きがとれなくなってしまうし、事柄自体がそういう議論で割り切れるものでもないだろうということもあったものですから、数値的な意味での客観的な基準を出すということは難しいだろう。
ただし、先ほど鈴木議員からもお話があったように、国会で、例えば、政権を担って、政権を担当している政党がどれぐらいの議員が絶対に必要なものかというようなことは、一応、我々もそれなりに研究はしました。ただし、いろいろな人の意見を聞きますと、委員の中から、それでも運営を変えれば何とかなるじゃないかとかいうような話もなかったわけでもないし、そういう意味では、かたい数字で議論を立てることは難しいという意味では、客観的基準が見出しがたいというのはそのとおりでございます。
以上でございます。


穀田委員

だから、そういう意味での、今お話があった理論的根拠を見出しがたいというのは、そういう点もあったということだと思うんですね。
私は、議員定数のあり方というのはどこから出発するかということでいうと、数の基準というのをどこに求めるべきかというのは、減らせばいいというものではないというのは明らかだと思うんですね。
問題は、この定数削減の出発は何だったかというと、身を切る改革と称して始まったわけですよね。これは、民主党野田政権が、国民の皆さんに消費税増税をお願いする以上、政治家も身を切る改革が必要だと言って、比例八十削減を持ち出したことがきっかけであります。
よく考えますと、増税をお願いすることと、国民の代表である議員定数を削減するというのは、次元が違う話なんですよ、もともと。だから、調査会の議論でも、増税と削減の組み合わせを一度慎重に検討し直す必要があるとの意見があったと、佐々木参考人は説明会で紹介していたわけですね。
しかも、きょうもありましたけれども、いきなり定数になるのはいかがなものかという話がありましたけれども、言い得て妙といいますか、その辺の、この議論というのはすりかえとちゃうのかという考え方については、参考人、ぜひ御意見を伺いたいと思います。簡単でいいです。


佐々木参考人

お答えいたします。
先ほど来、議員からも御紹介ございましたような形で、幾つかの段階がございました。
そもそも、第三者委員会が国会の人数を決めるということ自体あり得る話かというのがそもそも論としてありました。幾ら何でもこれは国会が決めることでしょう、それはまあ決めるんでしょうけれども、我々のところにボールを持ってこられても、なすべき仕事なのかどうかという大原則論から始まって、穀田議員が言われたようないろいろな問題がさらに提起されたということでございます。
その意味でいえば、問題の性質上、やはり第一義的には、ですから、我々の答申でも、もしどうしても聞かれればこう答えますというような、文章の据わりもちょっとトーンが、報告書のトーンも少し違っているというのは、客観的基準に基づいて第三者委員会が何か言うことができないという気持ちと、それはそちらの決めることじゃないですかねという気持ちも幾らか入っているということで、御理解いただければありがたいと思います。
以上でございます。


穀田委員

はしなくもという言い方はちょっと悪いんですが、今参考人がお話あったように、定数削減しろという諮問だったからしたよというのがにじみ出たのがよくわかりました。
それで、一つだけ聞いておきたいんですけれども、先ほど参考人は、アダムズ方式を比例のところにも導入するという問題についてもお話ありました。こう言っていますよね。今の制度でいうと、小選挙区のドント方式というのは、現行制度は比例性に乏しいという話があってアダムズ方式を入れたという話がありましたけれども、比例代表の制度というのは、現行の制度は最も比例に近い制度だと言われるのが常識です。そうすると、なぜ、比例代表の制度を変える、その問題についてもアダムズ方式を入れるのかというのは、理屈が合わぬと思うんですが、いかがですか。


佐々木参考人

お答えいたします。
実は、議論の過程で、合区といいましょうか、ブロックをつなげるという案を出された政党がございまして、それはもちろん、比例定数の大幅削減とセットで出されていたという記憶がございます。ですから、例えば三十減らすとかいうような話になれば、そういうことも考えなければいかぬかなということが実は我々の頭にございました。
しかし、ブロックを一つにするということは非常に大きな出来事でございますので、できるだけ今の十一ブロックというのは、将来のことはわかりませんけれども、まだ存続の余地があるのではないか。特に、議席の数が四とか三とかいうことになりますと、ちょっと比例制としての役割を果たせなくなっていく可能性があるということが非常に気になったわけでございます。
そういう意味では、我々としましては、今の十一ブロック、結果として四議席ですから、そのこともあったんですけれども、十一ブロックはやはり維持した方がいいだろうというのが、裏を返せば、比例の削減はその程度にとどめるという意味合いと、さらに、その上で十一ブロックを存続させるというためには、最大剰余法ですか、今の方式よりもアダムズの方がいいではないか。そういう意味では、十一ブロックというものを応援するための意図も、正直なところ、なかったわけではございません。
以上でございます。


穀田委員

今もお話ありましたけれども、比例十一ブロックを維持するということを前提に考えたという筋の方が見てとれるというふうに思いますよね。私はそういうふうに見ました。だから、アダムズ方式を比例のところに入れるという根拠は、その場合だったら、では十一ブロックを動かしたらいいのじゃないかというふうに発展するわけですから、それはそれであり得たと思うんですね。
最後に、では、恐れ入ります、田中参考人に二、三お聞きしたいと思います。
私は、先ほどお話をお伺いしていて、特に今度の答申に当たっての諮問という最初の第一項は何だったか。それは、皆さん、二十九回の各党協議会でいろいろなことがまとまらなかったと、そればかり話します。
しかし、まとまった話はあったんですよ。それは、今の現行制度が国民の民意を集約するということに大きく偏り過ぎていて、民意をゆがめているということについては一致したんですね。それが唯一の一致事項で、しかもなおかつ、そのことによって現行制度を評価、検討しようじゃないかということになったわけですよね。それが調査会で十分やられていないという問題があるということなんですけれども、現行制度の弊害は何かということを端的にお答えください。


田中参考人

お答えいたします。
言い古された話だと思っているんですが、中心になっている小選挙区制の機能そのものなんです。
要するに、一つの議席しか選びませんから、その選挙区への第二党以下の投票は全て制度的な死票になります。政権党になった第一党は、得票率に比べてはるかに多くの議席が確保できる。政権にとっては大変都合がいいんです。ただ、第二党以下は何を考えるかといえば、政権党に対抗する政党をと考えざるを得ないから、離合集散が起こり、二大政党になるかと思ったら結果的に溶解する、これを繰り返すことになります。
そんなことは、実は、二大政党制といういわば制度前提がないこの国に小選挙区制を持ってきたらそうなることは当然わかっていまして、何度も警告しました。残念ながら当たってしまったと思わざるを得ません。
このことは有権者の側からいうと、最高裁も指摘している投票価値の平等が、自分が投票する一票の値打ちの点で保障されぬことを意味しています。さっき、アダムズ方式というか、地域的な平等なんですよ。しかし、有権者は何のために投票するかというと、自分の一票を託した議員を当選させたいためです。それを最大限保障するのが投票価値の平等のはず。
自治体の首長や大統領のように当選者が一人だったら、落選者に対する投票が全て死票になるのは当たり前なんです。議会、衆議院は何百人も選出するわけですよ。何百人も選出する議会において何で選挙区やブロックの当選者を一人にしなきゃならないのかという問題、これは必然性は全くありません。これを一定の人数にすれば、第二党以下の候補や政党の投票も議席に結びつくんです。
一つ例を出せば、今参議院の方で何とか野党が一つの候補者を擁立して頑張ろうとされています。今の一人区のもとで国民の意思を何とか反映しようという努力は大変高く評価します。ただ、えらく苦労をされていますよね。だって、たしか提携されている民進党さんと共産党さん、政策はかなり違うわけです。同じであるなら一つの政党にまとまるんですから。それをやろうとするから苦労をする。
だったら、それぞれがそれぞれのビジョンを掲げて選挙をやって、それぞれの得票率に合わせて当選者の数を決めて、課題については一致するところで共闘するというような方向にどうして行かれないか。本来、議会制民主主義というのはそうじゃなかったのか、中選挙区制の時代にそれをやってきたんじゃないですかということが小選挙区制の問題であり、私が申し上げる政治改革の見直しの基本課題じゃないかと思っております。


穀田委員

最後に一言、田中さん、二十年前に政治改革があったわけですよね。それを振り返って、どう評価し、現在何を求めるかということについて簡潔にお答えいただきたいと思います。


田中参考人

お答えします。
端的に申し上げます。
全くの間違ったことをやってしまったと思っています。
何が基本だったかというと、政権を選ぶための総選挙だと考えたことが間違いなんです。全国民の代表を選ぶのが総選挙であったし、その全国民が集まったのが国会議員だったんです。政権選択にしたら、必然的に小選挙区制にいかないんです。
あの議論の中では、それこそが最大の価値のように言われました。ところが、憲法を見ても世界の政治制度を見ても、そんなことはどこにもない。アメリカとイギリスだけは確かにありましたけれども。しかも、議論の中で、さっき参議院の話もしましたけれども、その辺のことは随分明らかになっていって、党派を問わず、国会の中では、おかしいんじゃないのかという議論が起こりました。
ところが、あのとき、むしろ外から、財界や連合やメディアやあるいは学者の皆さんが、とにかく改革だと叫ばれた。一種の改革の暴風が起こりました。反対したら、守旧派だと。我々自由法曹団の弁護士は守旧派と言われたって別に食うに困りませんからやりましたけれども、反対するのが大変難しいような、冷静な議論ができないような状況にされてしまった。その中で一番根幹の問題が強行されたこと、当時かかわった人間として非常に残念です。
その思いのあるうちに見直しをし、冷静な議論をする必要がある、こう思っております。


穀田委員

ありがとうございました。