マラケシュ条約、シップリサイクル条約について質問

2018年03月28日

中山委員長

次に、穀田恵二君。


穀田委員

きょうは、二つの条約について質問します。
まず、マラケシュ条約について聞きたいと思います。
本条約は、各国の著作権法に著作権の権利制限規定を設け、ある国で制作した障害者向けの図書の複製物を他国に輸出できるようにするものと理解しています。
世界盲人連合の推計では、毎年世界じゅうで出版される百万冊の書籍のうち、視覚障害者などが利用できる点字や録音図書などが制作されている割合は、途上国で一%以下、先進国でも七%にすぎないとされています。こうした「本の飢餓」と呼ばれる状況が原因で、世界じゅうの何百万人もの出版物利用に障害がある人たちが社会的孤立や貧困などの状況に置かれている。河野大臣はこうした状況をどのように見ておられますか。


河野国務大臣

世界じゅうの視覚障害者の方々にとって利用可能な著作物が引き続き不足しているということは承知をしております。もちろん、国内でも状況はさほど変わらないというふうに承知をしております。
そのような状況を踏まえて、この条約の交渉過程においても、視覚障害者の方々による著作物の利用機会促進の分野での国際協力のさらなる推進に貢献するため、我が国は、この条約の採択に向けて積極的に参画をしてまいりました。
日本がこの条約を締結することにより、我が国の視覚障害者の方々による国内外の著作物の利用の機会を更に促進し、視覚障害者等の方々による著作物の利用の機会の促進に関する国際的な取組に貢献することに資するものというふうに考えております。
ただ、きょう、さまざま御議論をいただきましたように、例えば、点字あるいはオーディオブックのようなもの、これは日本語の書物を日本語の点字、日本語のオーディオブックに直すわけでございまして、なかなか、もちろん海外に在住の日本語を理解される視覚障害の方にはいろいろと貢献をできるわけでございますが、英語ですとかスペイン語、アラビア語、フランス語といった国境を越えている言語とは若干状況が違います。
そういう意味で、こうしたものを作成する過程において、日本としてどのような支援ができるのかというところについても取り組んでいかなければならない、支援をしていかなければならないというふうに考えております。


穀田委員

今、私もそのことを二番目に言いたかったんです。やはり、とりわけアジアの地域においてどういう役割を果たすのかということは極めて重要です。
午前中の質疑でも、外国語、とりわけ英語、それから今お話があったようにスペイン語とかありましたけれども、報告書を見ますと、アジア太平洋地域でこの条約を締結した国は七カ国にすぎないとされています。
アジア太平洋地域は、世界で最も視覚障害者が多く、全盲の方が二千百四十万人、中度から重度の視覚障害者全体で一億三千五百万人と推計されています。人口の急速な高齢化や糖尿病などの慢性疾患の拡大で、出版物の判読に障害がある方が今後増大されると予想されています。
そういう意味で、作成過程ということもありましたけれども、アジア太平洋地域の実情に対して日本としてどのような働きかけを行うのかということが求められると思いますが、簡単に御答弁をお願いします。


山野内政府参考人

お答え申し上げます。
委員御指摘のとおり、このアジア太平洋地域におけるマラケシュ条約の締結国はまだまだ少ない状況でございます。
まず、マラケシュ条約は、第九条におきまして、各国の点字図書館等による、点字などの利用しやすい様式の複製物の国境を越える交換を促進するための協力を規定しておるところでございまして、視覚障害者等の方々による著作物の利用機会を促進するための国際的な協力を行う意味で非常に重要なベースになるものでございまして、我が国といたしましては、本条約の締結を契機に、この分野における国際社会の取組に更に貢献するということでございまして、アジア太平洋地域、特に開発途上国を含みますけれども、国際的な協力を一層進展させていきたいと考えております。
また、さまざまな外交機会、APEC等の機会もございますので、そういった機会も捉まえて、いろいろな協力、あるいはアジア太平洋地域の各国のさらなるマラケシュ条約への参画を促していくといった取組を行っていきたいと思っておるところでございます。


穀田委員

今ありましたように、参加、締結といいますか、七カ国にすぎないという事態と、やはり日本が果たさなければならない役割、そういったものにしっかり自覚して取り組んでいただきたいと思います。
そこで、国内に少し目を転じますと、社会福祉法人日本盲人会連合は、昨年二月、マラケシュ条約の批准に向けて、文化審議会著作権分科会の小委員会に対し、著作権法改正に関する意見書を提出しています。その中で、「著作権法第三十七条第三項における受益者の拡大」や「受益者への公衆送信の法定化」、「複製が認められている者に関する規制緩和」、「テレビ番組への音声解説付与に関する権利制限」に関する意見書を提出しています。
文化庁にお聞きしますが、政府として、こうした国内の障害者団体からの要望にどうお応えになっていくのか、明らかにされたいと思います。


永山政府参考人

お答え申し上げます。
御指摘のとおり、昨年の二月に、文化審議会の小委員会の方に日本盲人会連合から意見書が提出されております。意見書の内容は、今委員が御説明いただいた四点についてでございます。
その要望事項のうち、一点目、二点目、一点目が著作権法第三十七条第三項における受益者の拡大、二点目が同項における対象行為の拡大ということでございますが、この二点については、ことしの二月に国会の方に提出させていただきました著作権法の一部を改正する法律案において、所要の規定の見直しを盛り込んでいるところでございます。
また、三点目の、著作権法三十七条第三項の複製等を行うことができる主体の拡大につきましては、障害者団体と権利者団体との意見の調整を経まして、昨年の四月に取りまとめられた審議会の報告において、権利者の利益を不当に害さないための配慮を行いつつ、ボランティア団体などが現行制度よりも簡易な方法で同項の主体になり得るようにするため、所要の措置を講ずるべき旨の提言がなされております。
文化庁としては、この提言を踏まえまして、関係者の御意見も聞きながら、具体的な制度設計の検討を進めて、速やかに制度の整備を行っていきたいというふうに考えております。
四点目の、テレビ番組への音声解説付与に関する著作権処理の問題につきましては、現状では関係者間の意見調整がまだ整っていないという段階でございますけれども、今後、関係者の御意見を伺いながら、協議が円滑に進むよう文化庁としても支援を行っていきたいと考えております。


穀田委員

精神はわかりましたけれども、やはり、三点目に言われたボランティアの問題を含めて、それを支える人たちが本当に関与できるようなことについては当然必要なことだと思うんですね。そこはよく理解していただいて、実行に移していただきたいと思います。
次に、シップリサイクル条約について聞きます。
現在の日本の船舶も含め、老朽化した船舶の解体が行われているのは、世界第一位の船舶解体国であるインドを始め、中国、パキスタン、バングラデシュなどが主であります。中国を除いて、開発途上国での船舶リサイクル方式は、ビーチング方式と呼ばれ、自然のところで干満差を利用して船舶を自力で座礁させ、干潮時に船舶を解体する方法で行われています。
しかし、このビーチング方式は、クレーン等の重機、搬送機器、救急設備などの重機を船の側に近づけることができず、全て人手の作業となって、極めて危険な解体方式であります。船舶リサイクル現場の労働者の死傷事故は後を絶たず、健康被害、さらに環境汚染も深刻となっています。
この条約では、労働者の安全保護、環境保護を目的としているわけですが、シップリサイクルの処理能力が要件となっています。現状と条約の実効性をどう考えているのか、簡潔にお答えいただきたいと思います。


鈴木政府参考人

お答え申し上げます。
現在、船舶の解体の多くは委員御指摘のとおり途上国で行われており、環境汚染や労働者の事故、疾病が発生しております。特にパキスタン及びバングラデシュにおいては、解体施設の未整備や不適切な労働環境を背景に、アスベストやPCB等の有害物質による海岸や海水の深刻な汚染、解体作業中の労働災害の多発が指摘されているところでございます。
シップリサイクル条約は、まさにこうした問題を受けて、これに対応するために作成されたものでございまして、労働者の安全確保、環境保護の観点から、解体施設が遵守すべきルール等を詳細に規定しているところでございます。
これらのルール作成の交渉には主要な船舶解体国である途上国自身も参加しており、今後これらの国が、先進国の協力も受けつつ、本条約に沿った適切な解体を行うための国内法整備を進めていくことで、本条約の実効性が確保されることになると考えております。
また、本条約には、締約国の解体施設が本条約に違反しているという証拠がある場合には、他の締約国が所在国政府に対して立入調査を要請することができる、そういう規定が設けられておりまして、こうした制度も活用することによって本条約の実効性は確保されるものと考えております。


穀田委員

今鈴木審議官が前半の方で言われたように、随分事故が起きているわけですよね。二〇一六年十一月にパキスタンで起きた解体中の事故は、爆発が起き、二十八人が亡くなっています。パキスタンでは、労働者を保護する法律が整っておらず、基本的な安全対策や安全設備が不十分な職場も珍しくないため、労災事故が後を絶たないというのが現状です。
こうした危険なビーチング方式は日本の海岸では認められていません。なぜ日本では認められていない危険な解体方式を行っている開発途上国で日本の船舶の解体を行うのか、外務省としての所見を伺いたいと思います。


鈴木政府参考人

お答え申し上げます。
現状におきましては、委員御指摘のとおり、さまざまな、インド、パキスタン、バングラデシュといった国が専ら解体をやっているということでございまして、ビーチング方式による船舶解体、これは主に、施設の未整備あるいは人的コストの削減の観点からそのような方法をとっているというふうに承知をしております。
こういった危険な状況を解消するために、まさにこのシップリサイクル条約といったものが議論され、今回採択されているわけでございまして、これを速やかに締結していくことが重要だというふうに考えております。


穀田委員

全然それは答えになってへん。それは、条約をこうします、こうなりまっせという話で。
せやけれども、実際には日本の船舶を、いわば危険な解体方式を行っている開発途上国で行っているのは、どういうふうに思ってはるねんということを聞いているわけですやんか。条約だったらこうなりまっさなんて話を聞いているんじゃなくて、現実は、ええ格好しているけれども、実際には、今お話あったように、安いコストという話が、全てじゃないけれども、大きな柱となってやっているやないかという現実を見ないとあかんのちゃうか、そこを聞いているわけですやんか。
時間もないからあれなんやけれども、じゃ、日本はどうかというと、日本における船舶解体業者は瀬戸内海を中心に六社が営業しているんですよね。そのほとんどが機械化されて、しかも、国内において、条約の要件を満たして大型商船の解体を行うことは、日本の技術をもってすれば可能なんですね。しかし、今お話あったように、収益を得るために、労働コストが安い劣悪な労働環境の発展途上国に危険な解体方式を押しつけているということにほかならぬわけですよね。
日本が海運・造船国として条約づくりを主導してきたといつも声高に言うわけですが、だとすると、先進国型のシップリサイクルシステムの構築についても、世界的に日本の責任をどう果たしていくのかということが問われているんじゃないか、そこを明確にされたいと思うんですが、いかがですか。


鈴木政府参考人

委員御指摘のとおり、このような現状が引き続きあるということはあってはならないということだと思います。
したがいまして、私ども日本といたしましても、例えば、インドに対してODAにより新しい船舶解体施設の整備について支援をしてきておるところでございます。
また、ほかの、パキスタン、バングラデシュといった国々に対しても、委員御指摘のとおり、これまでの日本の蓄積しましたさまざまな技術、ノウハウ、知見といったものを利用して、その状況が改善されるように、積極的に協力をしていきたいというふうに考えております。


穀田委員

結局、日本の船舶をそういったところへやって、現実はそこでやっているやないか、そういう話をしているんですよ。
そういう、本当に、相手に対して支援はしている、それは一つの例でしょう。それは、そのことも必要だということは論をまちませんよ。現実の問題について厳しい反省と理解がないと、それはあきまへんで。
最後に、私、言っておきますけれども、国交省は、シップリサイクルシステムの構築に向けたビジョンの中で、先進国型リサイクルモデルの開発として、十分な解撤能力の確保のために外航大型船を我が国でリサイクルする方策及び政策的な支援を検討すべきであると言っているわけですよ、同じ政府の部内で。国内における船舶リサイクルの事業の再生は、国内での循環型社会の構築という理念への取組もさることながら、鉄資源の確保やCO2排出削減効果への貢献、雇用の創出、地方経済の活性化などさまざまな効果が期待できるとしている。
そういう道を進むべきであるし、今やっている、そういう開発途上国で危険な作業をやらせるやり方について、そういうのを自主規制するぐらいのことを指導するのが当たり前だということを述べて、終わります。