中国軍の司令部も敵基地攻撃能力の対象

2022年05月11日

穀田委員

 日本共産党の穀田恵二です。  本日の議題である三つの条約については、いずれも必要なものであり、我が党としては賛成です。  そこで、本日は、前回の四月二十七日に続き、政府が年末までにまとめるという国家安全保障戦略など三文書の改定に向けて自民党が出した安全保障に関する提言について質問します。  前回の質問でも指摘しましたが、自民党の提言は、敵基地攻撃能力を反撃能力と言葉だけ換えて、その保有を政府に公然と求めています。しかし、重大なことは、今進められている敵基地攻撃能力保有の検討は、安保法制施行以前に議論されたものとは異なるということであります。  私は、一月二十六日の予算委員会でも指摘しましたが、安保法制は、存立危機事態と認定すれば、日本への武力攻撃がなくても、他国と戦争を始めた米国を支援するため、集団的自衛権の行使として武力行使ができる。  これまでの専守防衛の原則では、日本が侵略された場合に、それを排除するための武力行使は必要最小限とされていました。侵略を日本の領土、領空、領海から排除することが武力行使の目的とされ、相手国まで攻め込むことはしない、これがこれまでの原則とされていました。  ところが、安保法制の下で集団的自衛権の行使として自衛隊が武力行使を行った場合にはどうなるのか。相手国との戦争で米国を勝たせることが武力行使の目的になってしまうのではありませんか。外務大臣にお聞きします。     〔委員長退席、武藤委員長代理着席〕

林国務大臣

 専守防衛の原則とそれから安保法制との関係ということでございますが、専守防衛とは、相手から武力攻撃を受けたとき初めて防衛力を行使し、その態様も自衛のための最小限度にとどめ、また、保持する防衛力も自衛のための必要最小限のものに限るなど、憲法の精神にのっとった受動的な防衛戦略の姿勢をいうと考えております。  限定的な集団的自衛権の行使も含めて、憲法第九条の下で許容される武力の行使は、あくまでも武力の行使の三要件に該当する場合の自衛の措置としての武力の行使に限られており、我が国又は我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃の発生、これが前提となっておりまして、他国を防衛すること自体を目的とするものではないわけでございます。  このように、専守防衛は現在においても憲法の精神にのっとった受動的な防衛戦略の姿勢をいうものであり、政府として、我が国の防衛の基本的な方針である専守防衛、これを維持することには変わりはないと考えております。

穀田委員

 大体いつも同じ答弁をするんですけれども、安保法制の下で集団的自衛権の行使として自衛隊が武力の行使を行った場合、相手国との戦争で米国を勝たせることが武力行使の目的となるのは、この間推察される明らかなことであります。この目的が達成するまで自衛隊は武力行使を行うことになり、必要最小限という歯止めがなくなる。米国の戦争にどこまでもつき従い、武力行使を歯止めなく拡大していくことになると指摘しておきたいと思います。  さらに、自民党の提言は、反撃能力の攻撃対象を敵基地だけに限定せず、相手国の指揮統制機能等にまで広げるよう求めています。こうなると、私が前回指摘したように、日本でいえば、防衛省や関係省庁、総理官邸に当たるようなところも攻撃対象にすることになります。  そこで、鬼木防衛副大臣に改めて聞きます。  これまで防衛省としては軍事上の指揮統制機能とはどのような機能と考えてきたのか、お答えください。

鬼木副大臣

 防衛省として、一般的に指揮統制機能とは、軍事上のオペレーション等において、上位部隊が隷下部隊に対し指揮命令の伝達や情報共有を行うための機能であると考えております。

穀田委員

 自民党の提言は、反撃能力の保有を政府に求める理由として、中国が地上発射型の中距離弾道ミサイルを約九百発保有していることなど、中国の軍事動向が安全保障上の重大な脅威となってきていると強調しています。  しかし、実際に中国の指揮統制機能を攻撃対象にするということはどういうことか。それを示す資料があります。二〇一七年九月二十六日開催の防衛大臣直轄部隊長会同及び学校長等会議で使用された陸上幕僚監部の施策説明と題する部内資料であります。現在の山崎統幕長が陸上幕僚長だったときのもので、私の資料要求に対し防衛省が提出したものであります。  資料は全部で二百四十二ページありますが、本日配付したのはそのうちの三枚です。資料の二枚目には、中国における二〇五〇年までの軍事戦略などに加えて、統合作戦能力の向上として、中国軍の指揮命令機能が図で示されています。これを見ると、最上位にある中央軍事委員会が発する指揮命令は軍令系統と軍政系統の二つに分かれており、軍令では、中央軍事委員会が常時統合作戦運用を担当する五つの戦区統合司令部を指揮し、軍政では、中央軍事委員会が陸海空の各軍やロケット軍、戦略支援部隊、統合後方支援部隊の各軍種を管理しているとされています。  鬼木副大臣、この図はそういうことですよね。     〔武藤委員長代理退席、委員長着席〕

鬼木副大臣

 まず、委員御指摘の会議は、当時、直面する陸上自衛隊の重要課題等について、あくまでも陸上自衛隊の内部において認識の統一や検討の資を得るために実施したものであり、ここで使用した資料についても、陸上自衛隊の内部で検討の資とするために作成された参考資料という位置づけであることをまずは御理解いただきたいと思います。  その上で申し上げますと、中国は、近年、建国以来最大規模とも評される軍改革に取り組んできたとされ、二〇一六年末までに、首から上と呼ばれる軍中央レベルの改革は概成したとされております。  具体的には、従来の陸軍七大軍区が廃止され、陸海空の作戦指揮を主導的に担当する五大戦区、すなわち東部、南部、西部、北部及び中部戦区が新編されたと承知しております。また、陸海空軍のほか、ロケット軍、戦略支援部隊、聯勤保障部隊も新たに成立したとされております。  これら一連の改革は、統合作戦遂行能力の向上とともに、平素からの軍事力整備や組織管理を含めた軍事体制の強化を図ることにより、より実戦的な軍の建設を目的としたものであると考えられており、委員御指摘の資料における記載についても、その旨を記載したものであると承知いたしております。

穀田委員

 その指摘は、いわゆる防衛白書令和三年版の中身を今ずっと読んだだけなんですよ。そういうことであります。陸幕が中国側の資料を基に独自に整理した。  だから、問題は、そこの中にありますように、二〇二一年、これは令和三年ですけれども、防衛白書にも、統合作戦能力の向上として、最高戦略レベルにおける意思決定を行うための中央軍事委員会統合作戦指揮センターが設立されたと分析しているわけであります。  そこで、資料三枚目には、今副大臣からお話があった、五つの戦区の区割りが色分けされています。それを見たら、お分かりですね。五つの戦区の司令部は、それぞれどこに置かれていますか。

鬼木副大臣

 中国政府は、御指摘の各戦区の具体的な区割りやその司令部の所在地を対外公表しているわけではありませんが、令和三年版防衛白書のお尋ねのページの図表においては、一部報道や米国防省報告書等の情報を基に、各戦区司令部の所在地を含む中国軍の配置のイメージを記載しております。  当該図表においては、東部戦区司令部は南京、南部戦区司令部は広州、北部戦区司令部は瀋陽、中部戦区司令部は北京、西部戦区司令部は成都と記載をいたしております。

穀田委員

 つまり、作戦指揮を主導的に担当する五大戦区と分析をしているというのがこの防衛白書にもあります。まさにこの戦区というのは、中国全土に配置されているということであります。  この陸幕資料によれば、中国軍の指揮命令機能は、最上位の中央軍事委員会が中国全土に展開する戦区司令部や軍種司令部を通じて、隷下にある全国の部隊を指揮統制する統合作戦体制が取られていることであります。  自民党の提言では、相手国の指揮統制機能等も攻撃対象にするとのことだが、先ほどの副大臣の答弁に照らせば、中国の場合、この陸幕資料にある指揮命令機能も攻撃対象から排除されないということになるのではありませんか。

鬼木副大臣

 御指摘の自民党の提言については、その内容の一つ一つについて確たることをコメントする立場にはございません。  いわゆる敵基地攻撃能力を含むあらゆる選択肢については検討中であり、現時点で内容等をお答えできる段階にはありませんが、新たな国家安全保障戦略等を策定していく過程で、憲法及び国際法の範囲内で現実的に検討してまいります。

穀田委員

 先ほど副大臣は答弁の中で、防衛省としてということで、一般的に指揮統制機能とはということで、上位部隊が隷下部隊に対し指揮命令の伝達や情報共有を行うための機能だ、こうおっしゃった。とすると、今分析している中国軍の部隊はまさにそのとおりだということになるではありませんか。  だから、論理じゃなくて、日本の自衛隊の、先ほどもお話があった指揮系統の問題からすれば同じことになりますよね、それはいいんですね。ということは、排除されないということですね。

鬼木副大臣

 政府としては、従来から、誘導弾等による攻撃が行われた場合、そのような攻撃を防ぐのに万やむを得ない必要最小限度の措置を取ること、例えば、誘導弾等による攻撃を防御するのに、他に手段がないと認められる限り、誘導弾等の基地をたたくことは、憲法上、法理的には自衛の範囲に含まれ、可能と考えております。  その上で、御質問の点について一般論として申し上げれば、この昭和三十一年の政府見解における誘導弾等の基地とは、必要最小限度の措置の例示の中で述べられたものでありますから、法理上は、その対象を攻撃することが誘導弾等による攻撃を防ぐのに万やむを得ない必要最小限の措置か否かとの観点から個別具体的に判断されるということとなります。

穀田委員

 そういう点でいうと、攻撃の対象から排除しないということになるわけですよ。しかも、中国の問題についてしゃべっているときに一般論でごまかしてはあきません。後半の方で言われているように、具体的な内容について今おっしゃったわけですから、結局、中国の指揮統制機能といった場合に、このことに当てはまるんじゃないかということを私は聞いているわけですよね。ですから、一般論で、法理の話をしているわけじゃないんです。中国の場合、防衛省の考える指揮統制機能は、この陸幕資料に記された指揮命令機能に当たることは明らかであります。  内閣法制局長官を務めた阪田雅裕氏は、四月二十七日付の東京新聞で、自民党の提言が相手国の指揮統制機能等も攻撃対象に含めたことについて、「指揮命令の中枢部まで破壊することになれば、敵国を全面的に攻撃することにほぼ等しく、他国の軍隊と何が違うのか。」と指摘しています。私は全くそのとおりだと思うんですね。  林大臣、攻撃対象を指揮統制機能等まで広げるということは、中国でいえば、この陸幕資料に記された指揮命令機能も攻撃対象にするということになるわけですよね。そうなれば、中国と全面戦争を行うことになるんじゃありませんか。

林国務大臣

 誘導弾等の基地等につきましては、先ほど防衛副大臣から答弁があったとおりであります。  いわゆる敵基地攻撃能力や、自民党提言では反撃能力とされておられるようでございますが、この内容につきまして、政府としてお答えする立場にはないわけでございます。  政府としては、急速なスピードで変化、進化しておりますミサイル等の技術に対して、やはり国民の命や暮らしを守るために十分な備えができているのか、あらゆる選択肢を排除せずに、現実的に検討しているところでございます。  引き続き、憲法及び国際法の範囲内で、専守防衛の考えを維持しつつ、検討してまいりたいと考えております。

穀田委員

 当時から問題になったのは、基地だけの問題なんですね。今、そうじゃなくて、指揮統制機能というところまで広げるということについて、私、議論しているわけですよね。  先週の質疑で、大臣は、自民党提言を御覧になっていないと答弁されました。今度は御覧になってその話はされたと思うんですよね。  私は、前回、防衛省の指揮統制機能等の資料を示して、自民党の提言の指揮統制機能等の攻撃対象が、日本でいえば防衛省本省、総理官邸に当たると論理的帰結として質問しました。今回は、防衛省、陸幕の資料に基づいて、中国でいえば指揮命令機能になるんじゃないかと、前回は論理的帰結と言ったんですね、今回は事実を例示してお尋ねしているが、いかがですか。

林国務大臣

 先ほど防衛副大臣から答弁がありましたように、昭和三十一年の政府答弁で、誘導弾等の基地ということについては、必要最小限度の措置、この例示の中で述べられたものでございますので、この対象を攻撃することが誘導弾などによる攻撃を防ぐのに万やむを得ない必要最小限度の措置か否か、こういう観点から個別具体的に判断されるものだと考えております。

穀田委員

 その答弁は当てはまらないわけで、しかも、そのことに、もしそういう形で攻撃対象の問題について議論するとしますと、結局、事実上攻撃対象から排除しないという答弁だということになるわけなんですよね。  要するに、誘導弾等の基地、それを、指揮統制機能があってこそ動くんだ、ここを攻撃することができるのかということを私は聞いているわけですよね。中国の場合はそうなるじゃないか、しかも、事実で、皆さんが、防衛省が出している資料でいえばこれだろう、これを攻撃することになるよねということを聞いているわけです。  自民党の提言を受け取った岸田総理は、国民の理解があって初めて前に進めることができると述べ、丁寧な説明に努めるように求めたと言われています。林大臣も、それから鬼木副大臣も、いつも同じフレーズを繰り返すんじゃなくて、きちんと丁寧に答えるべきだと思う。  最後に、石破茂元防衛大臣は、メディアの取材に対し、攻撃対象の範囲を拡大することは相手国との緊張を逆に高めることにもなると認めています。石破氏は、「例えば、相手の首都や政府中枢施設に対する反撃も予定するとなれば、相手が日本を攻撃する意思を強めかねないし、専守防衛の趣旨からもどんどん離れていくことになる。」と語っています。  まさに、敵基地攻撃能力の保有は日本を軍事対軍事の危険な道に引き込むものであり、専守防衛の原則、憲法九条と絶対に相入れない、このことを改めて指摘をして、今日の質問を終わります。