京指物認定伝統工芸士・2009年度・京都府伝統産業優秀技術者(京の名工)・京都木工芸協同組合専務理事

2009年11月


京指物認定伝統工芸士
井口彰夫さん

木工の中の「指物」という技術

乾燥中の木材、中には平成5年6月に仕入れたものも

乾燥中の木材、中には平成5年6月に仕入れたものも

指物とは 釘を使わず 板と板、板と棒、棒と棒を指し合わせる技術を使って組み立てた木工芸の事で、物差しを使用することからそう呼ばれているとも言われています。
使用する木材は天然の物なので、木材の見分けから始まり 作るものに適している種類かどうかを判断する事や(それぞれの木の性格を知る)木目をどう生かすのか等々・・なかなか一筋縄ではいかない難しさがあります。
木材を乾燥させ何年も置いてからやっと製作に掛る事も多く、経済的にも割の合わない仕事です。しかし、出来上がった作品を2代目3代目と百年以上にわたり修理修復しながら大切に使って頂けるのも釘を使用しない指物の良さです。正にそれが指物の魅力でもあると思っています。

「指物」の歴史

カンナだけでも大中小さまざまなカンナを使い分けます

カンナだけでも大中小さまざまなカンナを使い分けます

平安時代、京都に都が置かれた頃 公家や寺院の庇護を受けての木工が盛んになり 鎌倉、室町時代には大工職から建具職、指物職等々 徐々に専門化していきました。
この頃、『侘び寂び(わびさび)』の美を重んずる茶道が確立され その中で指物も影響を受けながら木材本来の持ち味を生かした繊細な技術、技法が見られるようになりました。
町衆文化が開花した江戸時代には 箪笥、棚物、机、火鉢、軸箱や硯箱、煙草盆等々の指物世界が確立されて現在に至っています。

大臣指定の伝統的工芸品「京指物」

昔から使われてきた技法の一つである、隠し蟻組(かくしありぐみ)という技術を使った手箱

昔から使われてきた技法の一つである、隠し蟻組(かくしありぐみ)という技術を使った手箱

千年以上の長いあいだ都が置かれていた京都、その間培われた歴史文化の中で京都の指物の特徴である繊細で上品そしてしなやかな意匠(デザイン)が生まれました。
「京指物」とはそんな歴史文化に育まれた京都特有の木工技術と言えるでしょう。
私が所属している京都木工芸協同組合では「京指物」として伝統的工芸品(経済産業大臣指定)に認定されていますが、その中には 箪笥、棚物など和家具の「調度指物」と茶道具の「茶道指物」があり、その他に「彫刻(彫り物)」「挽き物(ロクロ)」「曲げ物」「箍物(たがもの・桶)」等の専門職にそれぞれ細分されています。

限られた木材資源を有効に使う

京指物で使用する材木、手前より、神代杉、黒柿、黒タン

京指物で使用する材木、手前より、神代杉、黒柿、黒タン

木材を使う我々の仕事は常に材料の持ち味を大切に生かしながらの作品作りを目指してきましたが、昨今の世界における森林伐採の実態が騒がれている中、先日地方の材木屋さんへ行った時「地球にとって大切な木材資源を切り刻んで木工製品を作っている我々の仕事が何だか環境破壊を助長しているような気がしてね・・」と言ったところ 材木商の方が「井口さんそれは違うよ 我々は絶えず山を見ているし もう少しすれば枯れるだろうと思う木を枯れる前に切って材木として提供しているのですよ。枯らしてしまえばそれこそが資源の無駄遣いになるからね・・」と言われ目からうろこの思いでした。
と、同時に 今まで以上に木を大切に生かした次世代まで使われるような良いものを作って行きたいという思いが一層強くなりました

これからの時代だからこそ日本の伝統産業を活かす努力を

ケヤキ材 蔦蒔絵(つたまきえ)の飾り棚(角には強度を保つ為、黒タンを使用しています)

ケヤキ材 蔦蒔絵(つたまきえ)の飾り棚(角には強度を保つ為、黒タンを使用しています)

元々伝統産業に於いては大企業のように生産性やコストダウンを求められる性格のものではありません。
むしろそれとは対極にあるものだからこそ日本独自の文化遺産として認識し、尚、地球環境や世界的な視野で考えるなら 先人達がしてきたように現在のような海外で生産することはやめて 地場産業として確立させていくのが望ましいのではないでしょうか。
今、一番必要なのは後継者を育成しやすい環境を整える事だと思います。

こくた恵二さんに期待します

juzu11-6_2京都木工芸協同組合は毎年5月に「京都木工芸展」を開催し皆様に直接木工芸品を見て頂く広報活動、そして販売をしています。おかげさまで今年が35回目となりました

こくたさんには、毎年のように木工芸展にお運びいただき会員と親しく懇談しています、又「伝統的工芸品産業振興対策委員長」をつとめておられ木工芸にも深いご理解を頂いております。ブランドに惑わされずに本物を見分ける目は日頃から良い物を手元に置き使用してこそ養われるものであると思います。こくたさんの本物に対するお目の高さは正にそうして培われたものではないでしょうか。

日本の伝統産業は大切な文化遺産でもあります。

現在の世界的な傾向としての大量消費社会に代わって 物を大切にする事の重要性と大企業ばかりではない産業の在り方や多様性を理解し、そして日本の財産でもある伝統産業が次世代に繋がって行き発展するような社会へと促進してほしいと願っています。その発進地となりえる産業が京都にはまだまだたくさん残っています。こくたさんに是非それらを活かせるような取り組みをして頂きたいと期待しています。