国会会議録

【第176臨時国会】

衆議院・国土交通委員会
(2010年10月26日)


○穀田委員 私は、日本航空の再建、再生問題について質問します。

 この再建、再生において、安全運航の確保は大前提です。会社更生手続を確実に進める上でも、この点はゆるがせにできない問題です。何よりも、企業の存立基盤である輸送の安全を第一義的に考える必要があります。

 ところが、この安全運航を脅かす懸念が生じている。輸送の安全を航空会社に守らせる国土交通省の責任にかかわる問題であり、一刻も放置できない重大問題だという認識を持って質問したいと思います。

 安全運航を確保するには、それを支える労働者のモチベーション、コミュニケーションがかぎです。必要な要員と労働条件の確保を初め、安全への配慮がおろそかになるようなことがあってはならない、経営陣と現場一体の密なコミュニケーションなどによって労働者のモチベーションの維持、高揚を図ることが重要であり不可欠だ、これは更生計画にも書いているとおりでありますが、この点を大臣に確認しておきたい。

○馬淵国務大臣 安全を確保していくためには、当然ながら、社員の士気、モチベーションというものがしっかりと担保されなければならないということは御指摘のとおりだと思います。少なくとも、私もかつて会社におりましたが、それこそ労使一体となって、この安全という非常に公共性の高い目標達成のためにはしっかりと一体となって取り組まねばならないということは十分承知をいたしております。

○穀田委員 その前提に立って議論を進めます。

 そうすると、私が述べたいのは、安全運航を脅かす重大な懸念と言いましたのは、人員削減のやり方において、労働者のモチベーションを低下させるやり方、退職強要を経営陣が労働者に迫っていることであります。綿密なコミュニケーションどころか、不安、疑心暗鬼を生み、不信感が広がっています。

 そこで、厚生労働省に確認します。

 労働者に退職を勧める退職勧奨について、労働者の自由な意思決定が妨げられる状況であった場合には違法な権利侵害となるということで間違いありませんね。

○小林大臣政務官 お答えいたします。

 多数回、長期にわたる退職勧奨が争点となった事案について、勧奨を受けた労働者の自由な意思決定を妨げる退職勧奨は違法な権利侵害に当たるとされた昭和五十五年七月の最高裁判決があることは承知しております。

○穀田委員 だから、まあ間違いないということですね。

 そこで、日航の更生計画案では、今年度中にグループ社員の三分の一に当たる約一万六千人もの人員削減を計画しています。日航は、この計画を遂行するため、希望退職募集を実施しています。九月からの募集では一次締め切り時点での応募数が目標に達しなかったとして、十月一日から、年齢の高い労働者を中心にパイロットや客室乗務員を乗務から外し、個別面談で退職を迫っています。このやり方がひどいやり方で、今政務官からお話があった、労働者の自由な意思決定が妨げられる状況としか言えない。

 まず第一に、解雇を知らせるやり方であります。

 会社は、九月二十七日に整理解雇の人選基準、皆さんにお示ししている資料一を見ていただけますか、これを組合側に提示した。客室乗務員に対して、希望退職でやめなければ解雇になる、あなたは年齢が高いので一番最初に対象になる、こういうことを発言して退職を迫っている。ある乗員に対しては、二十二日までに早期退職希望を提出しなければ、二十二日以降十一月十九日までに整理解雇されて、退職日は十一月三十日以降、管財人が整理解雇すると言っているのだからそうなるのではないか、こういう発言までしている。

 あくまでも自主的なはずの希望退職に応募しないと、次は強制解雇だ、これ自体が自由な意思決定を妨げるおどしではないかと私は思うんですが、大臣はどう思いますか。

○馬淵国務大臣 まず重要なことは、日航の再建においては、日航みずからがこの更生計画をしっかりと進めるという中で、人員削減ということも一つの固定費の削減の中で取り組んでおられるということであります。

 その上で、私どもとしては、運航安全をしっかりと確保していくという立場で指導を行うということを心がけなければならないと思っておりますが、今御指摘の事例につきまして、私は、事実かどうかということについても詳細を把握しておるわけでありません。もし仮に穀田先生が御指摘のようなことが違法行為に該当するようなことであれば、当然ながら、厚労省における当局でしっかりと監督されるべきものだというふうに思います。

○穀田委員 事例が事実であるかどうかわからないという発言がありましたけれども、しかし、先ほどの発言は、管財人でさえ不適切なものだと認めて、指導を徹底したいと団交で約束せざるを得なかったわけです。こういう事実、つまり、私が指摘しているだけじゃなくて、それを引用しただけじゃなくて、団交の場でそのことについて不適切だということで管財人でさえ言っているということを見れば、そのことがいかに公のものになっているかというのは明らかだと思うんです。

 加えて問題は、退職に応じないと仕事をさせない、パイロットや客室乗務員を乗務させないということまでやっているということです。

 そこで、皆さんのところに渡した資料二を見ていただきたいと思います。この二の中では、七四七―四〇〇運航乗員部長発ということで、「下記の日程で説明会および面談を実施することとなりました」「面談日以外は基本的にHとブランクにさせていただきました。」ということで、次の表を見ていただいたらわかりますように、空白のスケジュール表をお渡ししているということになるわけです。この中に、MTG、OPZというのは、会社による面談という略だそうです。

 ある客室乗務員は、十月十一日以降の乗務が組まれていたけれども、十月初めの面談の際、退職しないと返答したら、組まれていた乗務から外されたという。これを見ても、これは事実でないなどということは明らかに言えないわけで、これは乗務員のところに配られているスケジュール、空白に全部なっている。これはだれが見たって空白なんです。そうすると、仕事を与えないという嫌がらせが違法であるとした裁判例もあります。きょう発表されたことによりますと、新聞でも報道されているように、十一月も白紙のスケジュール表が組まれ乗務させない。こういうことになると、違法性は一層濃厚になっていると言わざるを得ません。

 しかも、御承知のように、パイロットの場合、一定期間乗務しない期間があると乗務資格を失って、再度、航空身体検査基準に基づく検査や研修などをやり直さなきゃならないという不利益もある。

 こういうことがこういう形でやられることが、余りにもひどいやり方だと大臣は思いませんか。

○馬淵国務大臣 穀田先生が問題意識として持たれて、そしてこうして国会という国民不断の監視の場にそれを示されて議論をされるということ自体、私は極めて重要な御指摘であるというふうには理解をしております。

 ただ、だからこそ、日本航空は、再建を目指して適切な人員削減の進め方というものが問われているわけでありまして、これは実際にさまざまなステークホルダーがおられるわけですから、こういった方々の監視のもとで適切に進めることができなければ、経営再建というものも、今後の道行きとして、さまざまな疑念の声なりが大きく上がってきてしまう。だから、ここで一生懸命に取り組んでいただいているというふうに私は思っています。

 御指摘のように、これは違法じゃないか、とんでもないじゃないかということについては、私自身がそのことの事実を具体的に承知しているわけじゃありませんので、判断はできないと思っております。そして、もし違法であれば、これは当然当局がしっかりと管理監督すべきだというふうに思っております。

○穀田委員 適切な人員削減という話かどうかということを問うているわけですよ。こういうやり方がもしまかり通っているとすれば、これは大臣が事実であるかないかということを認定できないと言うんだったら、確かめてくれて次にやってもいいんだけれども、私は事実だと示しているわけですよ。そして、管財人もそういうことを発言しているという事実もお示ししているわけですよ。だから、これが適切なやり方かと。

 削減については、労働組合の方も社員の方も仕方がないと言っておられる。そういうさまざまな人員削減だとか労働条件の切り捨てについて、やむを得ぬという話をしている。しかし、だからといって、会社更生法の適用会社だからといって、退職強要だとかそういった無法なやり方が許されるのかということを言っているわけですよ。だから、一般論で言ってもそういうことが許されないということなんです。ましてや、皆さん、私が言っているのは、一つ一つ事実を言っているわけです。

 例えば、客室乗務員の方のそういう報告では、イエス、ノー、どちらを言っても、十一月三十日付の退職が決まっている、こういうことが言われていると報告されています。これはまさにおどしでしかありません。こういう繰り返し、数回にわたって執拗な面談、こういう発言、これ自体が自由な意思決定を妨げるものとして違法だという話が先ほどもあったとおり。

 もう一つ問題なのは、退職勧奨対象者の構成問題です。年齢の高い者から順番に、削減目標人数まで機械的に対象にしていると言われています。

 パイロットでは、希望退職募集は全職員で、年齢制限していないにもかかわらず、退職勧奨対象者は五十五歳以上がほとんどだと言われています。客室乗務員や整備関係などでは、一般職で四十五歳以上など年齢制限して希望退職募集し、退職勧奨対象者も年齢の高い人たちがほとんどです。先ほど言ったように、年齢が高い人だからあなたが一番だという、そんなことまで言っているという事実を私は示しているわけですよ。

 ですから、このやり方からすれば、まるで整理解雇の対象者だと言わんばかりの人選で退職勧奨の対象者を選んでいる。したがって、そういう皆さんの実態報告を聞いた利用者からは、ベテラン機長がいなければ心配よという不安の声まで上がっているわけであります。

 まさに、私は何を言いたいかというと、こういうことをしたら安全運航に対する不安に直結し、日航に対する信頼性にも直結する問題だということを言いたいわけです。

 あわせて、では、皆さんあれこれ言うから、四番目の資料を見ていただきたいと思うんです。

 この文書、当局の方から出されて、組合の団交でも、こういう文書がつくられていたということだけは確認しているそうです。ですから、この文書を見ますと、結局六月時点でこういうものが構想されていたということが明らかです。更生計画案が出されたのは八月末。それ以前に、仕事を与えないというやり方で強制解雇を考えていたということになる。最初から予定で組み込んでいる。

 つまり、こういう一連の文書や一連のやり方というのは、初めに強制解雇ありきというやり方だと思います。私は、仕事を取り上げ、拒否すれば整理解雇をちらつかせて退職を迫るこういうやり方は、まさに自由な意思決定を妨げる退職強要そのものだと思います。

 先ほども大臣は、事例について私は承知していないからというようなことを平気で言っていますけれども、私は事実を述べているつもりだが、そしてそういう告発もやられているわけだが、そこまで言うんだったら、私に言わせれば、こういう違法行為を日航がやっている、所管する事業者が労働者の人権を侵害する、あなたに言わせればしかねない、そういう違法な退職強要をやっている。しかもこれは、政府が主導する再建でこうした不法、違法な行為がもしやられているとしたら、許していいのかということになりますよね。

 だから、事実であるとかないとかと言うんだったら、こういう問題についてきちんと調査し、もし事実だったら、そういうやり方はやめなさいという監督指導をすべきじゃないのかと私は思いますが、いかがですか。

○馬淵国務大臣 繰り返し申し上げることになりますけれども、経営再建に向けて固定費の削減が必須である。そのための人員削減というものを計画として出されて、そして今、その人員削減について日航自身が適切に対処されている現状であるということを、私どもは、我々所管する立場として、その計画の達成に向けての努力を見ている状況です。

 もし仮に違法行為も含めて御指摘のようなことがさまざまな形で横行するような状況であれば、それこそまさに日本航空自身が経営の適切さというものが問われるわけですから、私は、そのことについては、経営陣みずからがしっかりと適切な対応をするということに目を向けていただかねばならないと思いますし、仮にこれが違法行為であるとすれば、当局が所管をする中で判断をされるべきだと思います。

 私どもとしては、経営再建に向けた取り組みを今日においても所管する立場としてしっかりと見守る、今現在適切に行っているという説明の中で、それを見守るということが私どもの立場である、このように申し上げたいと思います。

○穀田委員 見守るというのは、厚生労働省がそういうことについてやるというのも事実なんだけれども、やはりあなた方が所管をしているところでやっている。だから、固定費の削減というのは必至だ、適切にやられているだろうと思うと。適切にやられていないということを私は言っているわけですよね。しかも同時に、大臣は固定費の削減必至だと言っているけれども、まず安全の方が第一だということを最初に私は確認したわけですね。

 では、こういうことがやられているもとで何が生じているかということに論を進めましょう。

 私が言っているのは、こういった問題が安全運航に直結しているということを真剣に考えないといけないということなんですね。

 現場では、解雇の対象になりたくないから余計なことは言わないと思っていたり発言したり、お互いに言い合ったりしてなど、極度の不安、それとコミュニケーションの低下が職場を襲っています。

 パイロットは、風邪薬を服用しての乗務は禁止など、法令で体調管理が厳しく定められています。それは安全運航に欠かせないからです。だから、少しでも体調が悪ければ自主的に届け出て休むことも間々あります。ところが、先ほどの資料一にありますように、少しでも体調が悪ければ、会社が示した整理解雇の人選基準では、病欠日数が基準にされている。したがって、病欠日数が解雇の基準になるとすれば、少々無理しても乗務しようということになりかねません。

 労働者の声として、私にもメールが随分来ています。職場では、同僚と顔を合わせるたびに、やめるかということが合い言葉になっている。仕事の合間の話は、転職探しや勤務の切り下げに対する不満の話ばかり。明らかにモラルは低下していると思うが、個人個人にとっては死活問題なので、どうしてもそうなってしまっている。次は自分の番かとびくびくして飛んでいる。恐怖政治の始まりで、不安全を感じても会社や上司に物言えぬ状態になっている。ここまでメールが届いています。

 今何かやったらすぐ首というおそれがあります。上に物申したらにらまれるのではないかと思っています。本当のことは言わないでおこうと思ってしまいます。体のことは言わない方がよいでしょう。悪い報告はしない方がよいでしょう。危ない考え方を振り払って乗務についています。こういうことまで言わざるを得ない切実な実態があるわけです。だから私は言っているわけです。

 だから、この声というのは、労働者のコミュニケーション、モチベーションが低下している実態をあらわしていて、重大事故の予兆をつかみ警告するヒヤリ・ハット情報などの自発的安全報告制度、すなわちセーフティーリポートなど安全管理体制が十分に機能していないんじゃないかという意見も出ているそうです。

 国交省として、まさに日航の安全確保体制について監査を実施すべきではないのか。事故、トラブル情報など、安全情報がきちんと把握されているか、今回の人員削減や退職強要が安全確保に悪影響を与えていないかどうか、この点からの調査が必要じゃないでしょうか。

○馬淵国務大臣 安全運航の確保というのは大変重要なものであるということで、万全を期すことが必要だと考えております。国土交通省としても、日航に対しては立入検査あるいは報告徴収を適宜行っておりまして、安全管理体制が機能しているかということについては監視、監督を行っております。

 実際には、立入検査ということでは、本社や、あるいは運航便に搭乗して実際にその状況を確認する等、さまざまな検査を行っておりまして、必要な監視、監督を現在も実施をして、運航の安全確保に関しては万全を図ってまいっております。

○穀田委員 きょうは厚生労働省も来ていますから、今言ったそういう退職強要だとかという事態と安全運航という問題が深く結びついているという角度から調べていただきたいということを言っているわけです。

 こういうことが起こっている背景についても、私、一言したいと思うんです。問題は、退職強要までして人員削減目標達成にこだわるのはなぜかということなんです。

 メディアの報道では、日航の会社幹部は、今回の人員削減について、金融機関との約束事で絶対に達成しなければならないなどと言っています。この間の日経新聞でも、「日航融資再開へ三条件」という見出しで、人員削減、返済期限の短縮、公的保証の三点を銀行団が要求していると報じています。銀行が借りかえ融資を認める条件として、来年三月末までの目標を前倒しして十一月までの人員削減の達成を求めているというのが理由なわけです。

 ところが、考えてみると、八月末の更生計画案では、更生債権等の弁済計画というのは七年間の分割債権になっているんですね。このこと自体が十一月に承認されるかどうかが問われているのにもかかわらず、こんなことを言っている。だから、銀行の借りかえ融資というのは、会社更生の前提条件ではないはずなんです。このことだけはお聞きしておきたいんです。

 しかも、この問題の中心は、やはり銀行というのは極めて横暴だ。はっきり言って財務面だけのことしか考えていなくて、安全や労働者の生活とかはお構いなしという姿勢がありありだと私は考えます。

 そこで、銀行団は目標達成のためなら退職強要も行えと言っているのかということについて、見解をお聞きしたい。

○馬淵国務大臣 この更生計画は人員削減のみで達成されるものではありませんので、ですから、その意味では、人員削減計画を含めて、この計画の着実な実行というものが求められているわけです。

 その上で、金融機関がこの更生計画案の着実な実行の中で融資を行うということが一つ大きな課題となっておりまして、早期一括弁済による更生手続の早期終結を目指すということが更生計画案に盛り込まれておりますので、これを前提とさせていただいているということであります。

○穀田委員 早期と言っているだけで、十一月末までにこういう人員削減をやらなくちゃならぬということを書いているわけじゃないんですよ。やはり銀行の態度というのは非常に横暴だ、間違っていると私は思います。

 やはりこういう問題というのはあくまでも納得と話し合いで進めるべきものであって、大体、政府は、一に雇用、二に雇用、三に雇用と言っているわけだけれども、これほどの大量の解雇をとめないでどうするのかということを私は言いたいと思うんです。

 更生計画案の中で安全運航確保が記載され、先ほど述べたように、計画の実行に当たり安全への配慮がおろそかにならないようにとしています。私は、この観点を堅持させることが必要だと。私は、もう一度そういう立場で公共性や安全性を優先して実施するように管財人にも強くその点は要請すべきだと思うんですが、その決意を承りたい。

○馬淵国務大臣 更生計画案の概要にも明確にそのことは示されておりますので、私どもとしても、日本航空並びにこの機構に対しましては、しっかりと指導監督してまいりたいというふうに思っております。

○穀田委員 私、指導監督は、先ほど言ったように、監査をやったり立ち入ることをやっていることは知っています。問題は、今述べましたような、大臣も事実かどうかと言ったわけだから、そうすると、事実かどうかということを確かめる必要があるわけでして、そこはしっかりやっていただきたいと思います。

 私は、なぜ一万六千人もの解雇が必要なのかという根拠が極めて不明確だと考えています。何度も言うんですけれども、航空輸送における安全は航空会社の至上命題であり、いかなる経営危機のもとにおいても揺るぎないものにしなければならない、これは日本航空の安全アドバイザリーグループ新提言書に書かれている精神であります。安定しているときは安全の投資は比較的楽だ、こういう経営が困難のときこそ安全のための投資が必要なんだという角度でやらなきゃならぬということをこのアドバイザリーグループは指摘しているわけですよね。

 もちろん、いろいろな考え方はあるでしょう。でも、実際は、計画を大幅に上回る黒字が、大量の解雇を行わなくても、さらに給料をカットしていないのに生まれているわけです。したがって、一定の合理化だとか給与減を組合側は受け入れを表明している。これとあわせて、公租公課の負担軽減などの工夫を行えば再建は可能だ。

 したがって、徹底して我々が見守らなければならないのは、安全問題、それにつながる人の問題という角度から見ることが必要だということを述べて、質問を終わります。

○古賀委員長 次に、中島隆利君。

○中島(隆)委員 社会民主党の中島隆利でございます。

 馬淵大臣は、ごあいさつ、所信表明で、国土交通行政は日本の背骨をなしているというふうに申されました。国民生活のありように直結しているというふうに私も思います。大臣を初めとする政務三役におかれましては、国土交通行政の改革や当面する諸課題に全力を挙げて取り組んでいただけると強く期待しているところであります。

 また、鹿児島県奄美地方を襲った豪雨災害について、被害に遭われました方々に心からお見舞いを申し上げ、同時に、国土交通省といたしまして、ライフラインの復旧と万全の対策を講じるよう、強く冒頭に要請しておきたいと思います。

 さて最初に、今後の治水、利水対策のあり方についてお伺いをいたします。

 有識者会議の中間取りまとめは、パブリックコメントを受け、ダム事業の検証に関する実施要領が九月二十八日に各検討主体に通知をされました。ダム建設をめぐっては、膨張する事業費、住民とのあつれき、環境に対する影響、さらに、計画から建設まで長期間を要し、治水、利水の効果も大きく変わっていることなどを踏まえ、ダムによらない治水、利水対策への転換は急務であり、時代の趨勢だと考えます。

 しかし、事実上の建設主体である事業者が検証主体になっていること、あるいは補助ダムの検証は都道府県への要請にとどまっていることから、ダムによらない治水、利水への転換が本当に進むのかという懸念を本委員会でも再三指摘させていただきました。

 実際、十月二十日の読売新聞で、検証の対象となっている三十一のダムについて、事業費を支出する五十六都道府県のうち三十四都県が、検証を前にして、ダム建設の継続を求める方針であると回答しているということであります。建設中止を求めるという回答はゼロであったということでございます。

 このような現状、懸念を踏まえつつ、大臣は治水、利水対策の転換をどのような決意を持って進めようとしていらっしゃるのか、お聞かせをいただきたいと思います。

○馬淵国務大臣 政権交代によって、ダムによらない治水、利水、これらの検討を行うということで、この一年間、有識者会議で議論を重ねてまいりました。ようやく、その再検証の評価軸が定まり、再検証の指示、これは地方整備局並びに水資源機構、そして関係の都道府県に関しましては要請という形でお願いをしております。

 私どもとしては、とにかくこの再検証というプロセスにしっかりとのせていただく。主体が検討の中心にいるということが問題だという御意見もいただきますが、一方で、流域の市町村を含め自治体の皆さん方の御意見ということもあわせて地域の方々の御意見を取りまとめていくには、国が行うというよりも、むしろ事業主体がやはり行うべきであるということを、これは有識者の皆さん方の中での御議論としてまとめていただいたものであります。

 いずれにしましても、私どもとしては、これは予断を持たずに検証ということでありますから、今後も、この検証プロセスの中で御議論いただくものだと思っております。

 新聞記事には、御指摘のように、都道府県ではそういった声があるということも、私もこれは報道では見知っておりますけれども、具体的な検証プロセスはこれから実施されるわけですから、そこでどのような結果が出るかというものについては、まさに予断を持たずに見届けてまいりたいというふうに思っております。

○中島(隆)委員 五月の十八日、この国土交通委員会で、前原前大臣にこの点も質問いたしました。それに対する回答でございますが、検証をゼロベースで実施してもらい、補助金については、この検証の結果についてシビアに判断し、補助金をつけるかどうか、額についても査定をする、こういう御答弁をいただきました。

 これは、私が指摘したのは、補助事業であるけれども、二分の一は国が出しますし、しかも、国庫補助を受けますと、七五%近くは国が補助をするわけであります。八十三事業で、総事業見直しの予算だけでも三兆円に上ります。そして、五十三の補助事業で九千億にも上るわけであります。こういう予算が投じられる補助事業をやるわけですから、国は、ただ要請をするだけではなくて、やはり厳しくこの検証をただすべきではないかと再三申し上げておるわけであります。

 今の御答弁も、要請をする、予断を持たずに、こういうお言葉、回答でありますが、前大臣が述べられました、そういう意思に基づいて検証されるかどうか、再度決意をお尋ねしたいと思います。

○馬淵国務大臣 私も、この一年間、できるだけダムに頼らない治水ということの有識者会議に出席をしてまいりました。基本は、この中で定められた検証プロセスでしっかりと検証を行う、これに尽きると思っております。

○中島(隆)委員 この中間まとめの検証に基づいてしっかりやるということでありますので、今の視点も、ぜひひとつ論点に置きながら検証をお願いしたいと思います。

 さて、私は、社民党の九州ブロック選出の議員でありまして、党の九州ブロックのダムによらない治水対策の実現を目指す連絡会議を結成いたして活動いたしております。

 先日、長崎県の石木ダムの視察を行いました。行政、住民のそれぞれからお話を伺いました。石木ダムにつきましては、建設計画の策定が今から三十六年前、この間、一九八二年には土地収用法に基づく強制立入調査が行われました。しかも、機動隊と反対住民が衝突する、こういう状況の中で開始されているわけであります。昨年には、ダム建設反対の署名簿を県が無断でコピーして、関係市町村に配付する、こういう問題も起こっております。現在でも反対住民が十三世帯存在する中で、長崎県では昨年事業認定申請を行い、今年三月にはつけかえ道路建設の工事が着手されましたが、反対住民の抗議によって工事は中断しているという状況にあります。県側との話し合いが行われておりますが、反対地権者の方々は、最終的に強制収用のような強権的な手続が発動されるのではないかと強く危惧をされております。

 ダムによらない治水対策に向け、石木ダムを含めてダム事業の検証が要請されているわけでありますが、一たん事業認定手続等を中断して、あくまでも住民との合意形成に真摯に取り組むべきではないかというふうに思います。この石木ダム建設の現状について、国交省はどのように認識をされているのか、お尋ねいたします。

○三井副大臣 今、中島議員からお話がございましたように、石木ダムについては、地権者の反対という中で工事がストップしているのが現状でございます。また、事業に対する合意形成がいまだなされていないという状況であることも承知しております。

 また、石木ダムの補助ダムについては、今大臣からも御答弁ございましたように、有識者会議からの中間取りまとめをほぼそのまま反映して新たに策定した、ダム事業の検証に係る検討に関する再評価実施要領細目に基づき検討を行うように、去る九月二十八日に道府県知事に対して要請をしたところでございます。また、その再評価実施要領細目では、検証に係る検討に当たって、透明性の確保を図り、地域の意向を十分に反映することが重要との考えのもとに、検討過程において主要な段階でパブリックコメントを行い、関係住民の意見を聞くとされております。

 これらの点を踏まえて、石木ダムについては、長崎県において適切に対処されるものと考えております。

○中島(隆)委員 ただいま答弁いただきましたように、十分住民の意見を踏まえながら今後検証を求めていくということでございますので、ぜひそのような配慮をいただきたいと思います。十三世帯、絶対反対の意見を申される方が三十一年間にわたって運動をされています。ぜひ、あくまでも住民との合意に真摯に取り組んでいただきますよう、切にお願いしておきたいと思います。

 引き続き、石木ダムに関連して何点かお尋ねいたします。

 お手元に配付しております資料の、まず資料一を見ていただきたいと思います。長崎県石木ダムの目的、位置を示している図でございます。これは、御承知のとおり、川棚川が本流でありまして、その支流であります石木川、一番下の方に赤い印ができておりますが、ここにダムをつくるわけであります。この川棚川の延長が二十一・八キロ、八十一・四平方キロメーターございます。石木ダムについては、約四キロメーター、川棚川から二キロメーターの地点にできるわけでありますが、九・三平方キロ、約一一%を占める領域でございます。こういう位置にできます関係で、十二の支流があるわけですが、河口地域に接点がある石木川、このダムでは治水対策の効果はないのではないか、こういう指摘が現地でもなされました。

 私も現地に行きまして、水害の起こった河口地域、平成二年、その前の昭和四十一年に床下、床上浸水があったと聞いておりますが、それ以来水害は起こっていないんですが、ここでも、急傾斜の下流の石木川にダムをつくっても、上流から流れてくる流量の治水には効果がない、こういう指摘がなされています。そこで、識者や住民からダム建設に対して、このはんらん対策、十分なる調査、計画についての検証が必要であるということを強く指摘もされております。

 そこで、これらのダム建設の計画のデータの洗い出し、あるいは補助ダムの場合の、県に任せてしまうというこの検証方法、これは非常に問題ではないかというふうに思っております。そこで、国としては、やはりこれらの計画についても、専門家あるいはその他の学識者を含めたチェックが必要ではないかというふうに思っておるわけでありますが、この点についてお考えをお尋ねいたします。

○三井副大臣 今回の個別ダムの検証に係る検討につきましては、事業をみずから実施する、そしてまた検討に必要となる情報を保有している事業主体が責任を持って検討することが適切であると考えております。また、補助ダムにつきましては、各道府県が主体となって検討を行うよう要請しているものであり、その検討を国が直接行うものではない、こういうぐあいに考えております。

 また、今回のダム事業の検証は、事業再評価として実施するものであり、道府県が対応方針を決定した上で、国土交通大臣が補助金交付等に係る対応方針を決定することとしております。

 これらの点を踏まえて、石木ダムについては、長崎県において適切に対処されるものと考えております。

○中島(隆)委員 治水についても、データについて大変問題があるような気がいたします。ぜひこの問題について、道府県が事業主体でやるわけでありますが、その検証後のさらなる国の検証を厳しい視点で行っていただきたいと思います。

 次に、水需要予測のデータの検証でございます。

 資料二を見ていただきたいと思います。これも、長崎県石木ダムの行政区域内の人口及び給水人口の予測値を示しております。これは、佐世保市からパンフレットとして提供された資料でございます。資料二の方の人口の推移でありますが、示されているように、平成十九年から二十九年、約一万人ぐらいの人口の減少が予測をされております。しかも、給水人口、資料三を見ていただきたいと思いますが、これによりますと、実績値、平成十五年のところから二十一年まで、ここは横ばいであります。一人当たり一日百九十リッター前後という位置でございます。それが今回の予測では、一人当たり二百二十一リッターが予想されています。

 人口が減少する中でこれだけの給水量の予測をされているわけでありますが、これは、これからの節水型機器あるいはその他の技術開発等で、給水量は減少しているというのが一般的な社会的な現象でございます。そういう中で、今回の長崎の石木ダムの人口予想と給水人口、この資料を見ましても、非常に給水の計画が問題ではないか。これは地元からお聞きいたしましても、このような給水の予測は余りにも過大過ぎる、こういうような御指摘があっております。

 この点につきましても、やはり住民や識者から将来的な水需要の十分なる検証をすることが必要ではないかというふうに思っております。特に、利水参加者にデータの点検、これを任せるのではなくて、これもやはり国や専門家の給水計画についてのチェックが必要ではないかというふうに思っておりますが、これについてのお考えもお尋ねいたします。

○三井副大臣 利水面の検討も当然行ってまいりますが、特に、先ほども申し上げましたけれども、事業主体が責任を持って検討するのが適切であるとの考えのもとに、国が直接行うことは考えておりません。

 長崎県において適切に対処されるものと考えているところでございます。

○中島(隆)委員 利水の問題についても事業主体だというふうにおっしゃるんですが、この事業計画そのものをお尋ねいたしました。総事業費が二百八十五億。治水分で六五%で百八十五億円、このうちの二分の一が国でありまして、その二分の一の九十二億が県。しかも、利水関係については、百億が佐世保市等々の負担でありますが、国庫補助を含めますと、二百億以上が国の負担であります。しかも、利水関係で聞いてみますと、佐世保市はこの百億に、ダムの建設の負担のほかに、ダムができた後、浄水場配水管等をつくるのに二百五十三億も予算が要る。合わせますと、三百五十億。こんな膨大な費用がこの利水計画に要るわけであります。現地に行きましたら、現在でも年間一万トンの漏水が起きている、こういう計画であります。

 ですから、こういう計画で、事業主体に検証を任せるということであれば、水を引きたいと要望する事業主体は、当然建設という方向に向かうわけであります。こんな治水とかあるいは利水が問題点があるという状況がうかがえる中で、国が全く検証を任せるということでは、今回の検証が本当になされるのかどうか、危惧をするわけであります。この点については、中間まとめの検証に基づいて、住民の意見を十分聞きながら対応するということでありますので、ぜひこの治水、利水については十分なる検証を国も行っていただきたいと思います。

 五点目に、ダムの検討に関する実施要領に、学識者や関係住民から意見を聞くよう定められています。指摘するまでもなく、ダム建設にあっては周辺住民の間で賛成、反対の意見が分かれております。今回のダム事業の検討では、検証主体がダム事業者になりますから、ダム建設の推進に偏りがちになります。住民の意見をしっかり聞き、対応方針に反映されることが必要であります。

 そこで、今回、この検証の実施要領の中にはパブリックコメントあるいは住民の意見を聞くということになっておりますが、双方向の、事業者と住民の十分な意見、これが保障されるような公聴会等が必要ではないかというふうに思っているわけですが、これについての意見をお尋ねいたします。

○馬淵国務大臣 御指摘のように、検証に当たっては、その地域の住民の皆さん方の声をしっかりと受けとめなければならないということは十分承知をしておりまして、そのためにパブリックコメントを入れてはおりますが、あわせて公聴会の開催をということで御指摘いただきましたが、これはその地域の実情に応じて御判断いただくべきものだというふうに私どもは思っております。

 パブリックコメントはプロセスの中に入れ込んでおります、皆さん方の意見を聞くと。その開催の形式については、あるいは運用については、実情に合わせて御判断いただくべきものだというふうに思います。

○中島(隆)委員 これも、地元の住民の皆さん方は、これまで三十一年間、ダムの建設について県との協議、ほとんど聞く耳を持っていただけなかった、こういう強い不満もございます。今回の検証については、それを正す意味でも学識者による検証がなされたと思うんです。その中にも、住民の声を十分反映する、それを求めています。ぜひ、事業主体のそういう検討だけではなくて、第三者機関の公聴会等の開催、これも強く国の指導をお願いしておきたいと思います。

 時間がございませんので、次に荒瀬ダム撤去の関係でございます。

 これにつきましては、九月までに二回の会議を国、県が持たれたというふうに聞いております。これも全国初めてのダム撤去で、前大臣も全国のモデルとして検討していくということを述べられております。これまでどういう取り組み現状なのか、今後の取り組みについてお尋ねをいたします。

○馬淵国務大臣 これは、国と熊本県が協力して検討会議を設置してまいりました。荒瀬ダムの撤去実施に当たっての具体的な施工計画、コスト縮減方策、実施に当たっての詳細な技術、社会資本整備総合交付金制度の適用などについて検討を進めることとしたというふうに聞いております。国としては、これらの課題について適切にアドバイスを行ってまいりたいと考えております。

 こうした老朽化の施設、河川構造物への対応ということでありますが、これに関しましては、直轄の管理区間で、河川管理施設が約一万施設、許可工作物が一万五千施設ございます。現在、築後四十年以上であるものが約四割、十年後には約六割となるということで、大変重要な課題であるということはよく認識しております。

 いずれにしましても、こうした厳しい財政状況の中ですので、長寿命化あるいはコスト縮減、こういったことを行って確実な維持管理の推進を進めながら、また戦略的な河川維持管理についても検討を河川局において進めさせていただいているところであります。

○中島(隆)委員 この問題は、全国初めての大型ダムの撤去だということで、国もモデルとして、県と国も協議会には参加をして取り組んでおられるわけであります。

 今おっしゃったように、全国には一万五千近く構造物があるということでありますが、五十年近くになる老朽化のダムの撤去が今後続いてくるわけであります。荒瀬ダムも、三月三十一日に水門が開かれて、不許可施設として残っているんですね。二年後に撤去するという計画でありますが、今の撤去の資金的な手だてがなければこの不許可のダムがそのまま残るわけでありまして、今後ダムの撤去が続く、全国のダムがこういうことで残る状況になるのではないかという危惧をしています。ぜひひとつ国、県協議をもって、大きな今後の方針としてダム撤去に支援をお願いしていきたいと思います。

 時間、最後になりましたが、一つだけ、これは地元から承った桜島の火山対策の問題でありますが、非常に今年度降灰が大量に、昨年から膨大にふえています。それで、鹿児島近隣の市町村を含めて、道路の降灰除去の車両が国から貸与されていますが、小型の貸し付け車両がない、こういうことで、これについての増車をぜひお願いしたいということでありますので、これについての対応をお願いしたいと思います。

○三井副大臣 平成十八年から引き続き桜島の噴火が続いているわけですけれども、今、中島先生からお話がございましたように、小型車両については、結論から申し上げますと、可能な限り貸し付けを行うということで御理解していただきたいと思います。

○中島(隆)委員 可能な限りということですが、大型車両では除去できないところがあるわけでありまして、除去できなければ当然そのまま火山灰の中で生活をするという環境になるわけです。この地元の御要望を受けて、小型車両の貸与についてぜひひとつ万全な体制をとっていただきたいと思います。

 特にお願いしたいのは、昨年、平均の降灰が年間百二十六キロ、今回は約七百八十回の爆発、大変な量で、今爆発が起こっています。私も熊本で、阿蘇で経験しました。大変な被害をこうむっています。農家の経営、あるいは高齢者だって宅地内の降灰が除去できない、こういうことが起こっています。ぜひ、活動火山対策特別措置法の見直し等を含めて、財政的な面、いろいろな支援を強化していただきたいと思います。

 以上、要望して、終わります。