国会会議録

【第166通常国会】

衆議院・国土交通委員会
(2007年4月11日)

11日、衆院国土交通委員会で、地域公共交通活性化法案について質問した。
○塩谷委員長 次に、穀田恵二君。

○穀田委員 今回の法案を議論する際に、交通政策に関する考え方、それともう一つは、地域住民の移動困難が増大するなど深刻な現状との関係で、やはり移動の権利や交通権にかかわるこういう角度からの議論が必要だろうと思っています。

 私は、そんなに時間がないものですから、皆さんの全体の議論を踏まえて、具体的な点を少し聞いていきたいと思います。

 まず、地域公共交通の現状についてお聞きしたい。

 私は、地域公共交通の衰退というのは極めて深刻な事態だと考えます。特に、過疎地など地方のバスや鉄道などの公共交通は、近年、需要減少に伴う経営悪化が急速に進み、路線廃止や廃業が相次いでいます。

 まず、二〇〇〇年以降廃止された鉄道とバスの路線数と廃止キロメートルはどうなっているか、お聞きしたいと思います。

○平田政府参考人 お答え申し上げます。

 二〇〇〇年以降、本日までの間に廃止されました鉄軌道路線につきましては、二十八路線、五百四十五・八キロメートルとなっております。

 また、現在、廃止届け出が提出されている鉄軌道路線につきましては、二路線、六十四・四キロメートルとなっておりまして、これらを合計いたしますと、三十路線、六百十・二キロメートルとなります。

○岩崎政府参考人 バスの方の廃止でございますけれども、二〇〇二年度以降の数字でございますが、年間平均約八千キロ程度の廃止がございます。許可キロの大体二%ぐらいでございます。平成十四年度から十七年度までの合計でいきますと、約三万二千キロでございます。

○穀田委員 バスでいうと三万二千キロ、それから鉄道でいうと六百十キロと。

 こういう問題も実は日経グローカルという雑誌では特集をしていまして、瀕死の地方鉄道ということまで言っていて、地域がこれでは移動ができなくなる、そういう確保という問題で極めて重要な事態だということなんですね。

 先ほど来ずっと問題になっていて、この法律が持っている意味合いというのは、現状認識から出発していると思うんですね。そんなに普通の状況じゃなく、いわば大変な状況のもとに置かれているという現実を直視して、そこから出発しなくちゃならぬというのがまず第一じゃないかと私は思っているんですね。

 今の報告でも、結局、地方の鉄道やバスがなくなるという事態が、バスは二〇〇二年とありましたけれども、二〇〇〇年以降でいうともっと減っているんですけれども、非常に深刻な事態が顕在化している。

 それで、先ほど大臣は答弁の中で能登半島地震のことも触れられましたけれども、そこなどでは、一般メディアでは、陸の孤島になっていた高齢者ばかりの限界集落のお年寄りの困難も伝えられている状況でした。

 一方、三月末には、高校生らが先頭に立って存続運動を続けていた鹿島鉄道が営業を終える。依然としてこういう事態が続いているんですね。だから、この地域公共交通の深刻な現状について、やはりもっとはっきりとした認識を持つ必要があるんじゃないかということを一つお聞きしたい。

 それとあわせて、なぜこういう事態が生まれてきたのかということの原因の分析がなければ私はあかんと思うんですね。びほう策では困るわけです。だから、現状に対する認識、それから原因はこういうことなんだという二つの点が要るんじゃないかと思うんです。そこをお聞きしたいなと思うんです。

○冬柴国務大臣 この原因につきましては、地域によって事情は大変異なるとは思いますけれども、一般的に申し上げれば、自家用自動車の普及それから宅地の郊外化等によりまして、日常生活における自家用自動車への依存度が年々高まってきたことにあると思います。それに加えまして、公共交通の需要の減少、公共交通事業者の経営の悪化ということで、運行便数の減少ということが公共交通サービスの低下を来すという悪循環を生んでおります。そういうことで一層の公共交通離れを招いたというふうなことが主たる要因ではないか、そのように考えるわけであります。

 それで、先ほどから言いますけれども、昭和五十年で公共交通と乗用車がフィフティー・フィフティーで使われていたものが、今は八四%まで自家用車が使われて、残りわずか一六%を鉄軌道やバスや船舶というようなものが人を運んでいる、こういうことが根本原因だろうと思います。

○穀田委員 きのうの参考人質疑でも、まず、現状認識については、地域交通の危機的状況が顕在化していると。それで、戦後最大の岐路だということを私は言いました。そういう点では大体認識が一致したんじゃないかなと思っているんですね。

 ただ、原因の問題については、今るるあって、車の依存とかそれから悪循環とかありましたけれども、私は、自然現象ではなくて、後づけではなくて、では政府がどういう政策をやってきたのかという点で原因をもう少し深める必要があるんだと思うんですね。

 やはり国を挙げてモータリゼーションをやってきた。それから一方、きのうも参考人質疑でありましたけれども、公共交通について言うならば、やはり採算性重視の市場化が促進されてきた。これも政府がやってきたわけですよね。三つ目に、規制緩和もやってきた。こういう政府自身が行ってきた政策との関係で、流れの中にある事象、結果としてそういうことが起こったというのじゃなくて、それをどういう形でやってきたのかということがないと、私はちょっとだめなんじゃないかなと率直に言って思うんですね。だから、そこが大事です。

 しかも、例の交通政策審議会地域公共交通部会の中間取りまとめなどでも、「地域によっては民間事業者の不採算路線からの撤退等により交通空白地域が出現する等公共交通サービスが低下」したと。後は悪循環という問題になっているんですけれども、やはり不採算路線から撤退するというのは事業者にすれば当然あり得るわけで、だから、そういう独立採算制や、それから今言った採算性重視の市場化という問題、こちらも、政府が推進してきたことの関係を全く捨象してやるというのは私はいかがなものかと思っているところなんです。だから、ここは見解が大きく違うところなんです。

 そこで、二〇〇〇年の規制緩和でこの問題に拍車をかけたと私は思っているんですけれども、ここについて聞きたい。

 地域の同意を得なくても事業者の判断だけで路線廃止できるようになりました。今回の法案では、鉄道再生事業において、地域の支援により、事業の廃止届けが出された鉄道事業の延期が可能となる手当てがされています。これは規制緩和見直しという立場なのか。またもう一つ、鉄道はそうなんですけれども、バス事業についても同様の手当てを行うのか。この二点、お聞きしたいと思います。

○平田政府参考人 ただいま委員御指摘の平成十二年の鉄道事業法の改正でございますが、鉄道事業者の自主性、主体性を尊重して、高度化、多様化する利用者のニーズに事業者が柔軟に対応できるようにすることなどを目的として、需給調整規制が撤廃されました。その一環といたしまして、鉄道事業に対する新規参入を一定の要件のもとで自由化すると同時に、利用者の減少などにより鉄道特性が失われた路線や区間につきましては、事業者の判断で届け出により廃止できることとされたところでございます。

 今回導入いたします鉄道再生事業の制度につきましては、引き続き、この退出自由の原則を前提とした上で、事業者が単独では維持できないと判断して廃止の届け出が行われた路線につきましては、沿線市町村がみずから支援を行いながら事業者と連携いたしまして維持を図る取り組みのために、両者の協議でありますとか事業実施の枠組みを新たに設けるものでございます。これは、事業者の自主的な経営判断を十分に尊重しつつ、なおかつ、地方鉄道の存続を目指す地域の意欲ある取り組みを促進するものでありまして、頑張る地域を支援することを目的とした制度であると考えております。

○岩崎政府参考人 バスにつきましても、平成十四年二月に規制緩和をいたしまして、退出は届け出制とさせていただいております。ただ、地域のバスが退出しますと地域に与える影響が大きいことから、退出の一年程度前に事業者から申し出を受けて、地域協議会というのをつくって、そこで皆さんで生活交通の確保方策を議論していただく、こういう仕組みをつくっているところでございます。

 バス事業者が退出した後、引き続き路線の維持を図るあるいは代替的な交通に転換する等の議論をしていただいておるところでございますので、今後とも、こうした枠組みをつくりながら、地方公共団体と連携しながら生活交通について考えていきたい、このように思っているところでございます。

○穀田委員 地域の声を上げるための環境整備を行ったということですね。ただ、そういう法改正で柔軟に対応した、その結果どうなったかということをわざわざ最初に聞いたわけです。その結果、がばっと減ったんですよ、そういう意味でふえたところはないんですよ。あれだけ、六百キロも減ったり、それから何万キロもバス路線が減っている。だから、私は二〇〇〇年からどうなったかと聞いたわけですよ。そこの意図をわかってもらわなくちゃ困るよ。そういう結果として、では地域住民のニーズがなかったか。あったんだけれども、減ったんですよ。そういう点で反省が大事だということを私は言いたいから、一番最初に聞いたわけですよ。

 そこで、私は、一番最初に言いましたように、公共交通政策の抜本的な転換が必要だと思うんです。

 一つは、やはり車社会、モータリゼーション推進政策の転換が必要だと思うんですね。交通事故、渋滞、それから環境破壊、いわゆる自動車交通三悪と言うんだそうですけれども、それらを初めとした車社会の負の部分を解消、軽減する時代に来ているという認識に立つことが必要じゃないか。

 それから二つ目に、そのあおりを受けた公共交通の重視が必要です。先ほど来、皆さんは、地域住民のニーズ、こう言うわけですけれども、前もあったんですよね。それをずっとけ散らかしてきたからうまくいかなかったのです。それは、公共交通を軽視し、市場任せにしてきた結果、先ほど一番最初に大臣が答弁なすった、公共交通機関は、乗客の減少、経営の悪化、便数などが減少、それがまた乗客減、路線廃止と悪循環が繰り返されたということなんですけれども、これを改めて、公共交通を重視するという立場に立つ必要がある。

 三つ目に、みずからマイカーを運転できない高齢者、運転免許やマイカーを持たない通学生など、移動制約者の移動の足を保障することがやはり大事なんですね。それは何も、大臣に言わせると、権利と書くと国家が保障しなくちゃならぬ、こうなるんですけれども、そういうものを目指すという立場、方向性でなけりゃ、すぐコストという話に行って、今時代がそういう時代なんだというふうに見る必要があると私は思うんですね。だから、鉄道やバスなど公共交通機関の廃止は、やはり生存権や勤労権、教育を受ける権利を奪われることになる。だから、こうした住民を置き去りにするんじゃなくて、すべての住民に移動の足を保障する、国と自治体にはその責任がある、こういう角度で物を考える必要があるんじゃないか。

 その三つの点を今提起したいと思うんですが、大臣の所感をお聞きしておきたいと思います。

○冬柴国務大臣 モータリゼーションには光と影があります。光の部分は、多くの国民がこれを共有している以上、非常に便利に使っているわけですが、負の部分は、今穀田議員が指摘されたとおり、交通事故、交通渋滞、環境破壊、こういういろいろな負の部分もありますし、それから、そういうものが公共交通機関を、もう営業ができなくなってしまうほど需給関係を崩してしまったというような面がございます。しかしながら、では、このモータリゼーションをとめられるのか。私は、国民の総意として、これはなかなか難しいと思います。

 したがって、私は、この法律が目指すところは、そこの地域の住民が、そのような公共交通機関がなくなったときの不便さ、そして移動の自由を奪われる人たちに対して配慮して、どういうふうにしたらこれが維持できるのかという知恵をそれぞれに出していただきたいと思うんです。それによって、例えばモーダルシフト、すなわち公共交通機関をみんなで使おうじゃないかというような動きをしているところもあるわけでございます。六十五歳以上の人が運転免許証を返上する運動というようなものまで出てきている。そうなると、今穀田議員が言われたモータリゼーションの影の部分というものを、国民総意によってそれを埋めていったりすることもできるのではないか、私はそういうことが望ましいと思います。

 例えば、ごみゼロという問題。我々は連立に入るまでごみゼロということを言いましたけれども、実際は笑われた面もあったわけです。しかし、今になれば、国の非常に大きな政策になっているんじゃないでしょうか。私は、そういう意味で、住民一人一人がその深刻な問題に気づき、そしてそれに自分は何ができるのかということをしたときに、ごみを分別して、そして透明な袋に入れて出そうじゃないか、袋は有料だということまでこれを是認して、ごみの量を半分、三分の一にしたという英知もあるわけです。

 このモータリゼーションも、五百メートル移動するのに自動車に乗るという近代的な人の考え方というものを改めることにより、公共交通機関というものがまたそういう役割を果たすような場面が出てくるのではないか。それは広範な地域住民のコンセンサスの醸成というものが必要でありまして、私は、この法律によって、そのようなコンセンサス醸成についていろいろな手だてを講じたのがこれであり、そしてまた、そこに出てきた結論を全面的に支援していこうというのもこの法律でありますので、そういう意味で御理解をいただきたいというふうに思います。

○穀田委員 そこはいろいろ議論のあるところで、本当はもう少し基本的な、考え方の基礎にある問題をよく議論する必要があると私は思うんですね。それ自身、私どもは、今回の場合、地域住民を主体にして物を考えるという点は異議ないわけですね。ただ、そういうところにすべてがあるんじゃなくて、今までの政策的な展開があって、それを今新しく地域住民の権利として保障するという角度でやらないとだめだと思うんですね。

 モータリゼーションがとまるかというと、それはみんなでよく考えてやれば減らすことができるというのは既にきのうの参考人質疑の中でも明らかになってきましたし、世界の例はそういうことを示しているんですね。また韓国の例も、ソウルの例もきのう出ました。だから、その意味でいうと、そこに二つ流れているのは、単なる住民の知恵というのではなくて、まちづくりをやっていく上での考え方、それから住民の移動の権利、それらを保障するという立場から出てきている国と地方自治体の責任、ここが明確になっているからあるんですね。住民が第一であることはもちろんです。それはニーズということで第一であって、それの責任をとるのは、哲学を持った国と地方自治体が責任を持つということをはっきり言っておきたいと思っています。

 時間が参りましたので、終わります。