国会会議録

【第164通常国会】

衆議院・国土交通委員会
(2006年5月17日)

 建築基準法の改正に関わって、前日の参考人質疑を受けての委員会審議。
 マンション住民の保護、建築確認検査業務の民間委託問題などを取り上げた。


○林委員長 休憩前に引き続き会議を開きます。

 質疑を続行いたします。穀田恵二君。

○穀田委員 耐震強度偽装事件が発覚してちょうど半年で、また先ほどのニュースでは小嶋氏が逮捕されるというときに、この質疑をするというのはとても大切なことだと思います。

 そこで、私は、被害を受けたマンションに対する国の救済策の問題について最初に大臣と質疑を交わしたいと思います。

 昨年十二月に救済策が発表されて半年がまた過ぎようとしています。とりわけ、強度不足により使用禁止命令が出されたマンション住民の方々は、退去を余儀なくされながらも再建に向けて非常に苦労されています。

 この問題で大臣は、最も緊急を要する課題は、危険な分譲マンション居住者の安全と居住の安定の確保、最大限の努力をしてまいりますと答弁されました。進捗状況については、居住者の皆様の約九五%の退去が進むとともに、先ほども件数で三百数棟の中での二百九十幾らという報告がありましたが、ただ、建てかえが必要なマンション十一棟のうち一棟で除却工事が開始をされた、また六地区で建てかえ推進決議がということをこの間の答弁で明確にされています。

 私は、これだけ聞きますと、その後えらい進展しているなというふうに見えますし、そういう答弁なんですけれども、実際には何もめどが立っていないんじゃないか。建てかえ推進決議があっても、二重ローン問題など新たな負担は困難という点で具体的な方法はまだ決まっていないというのが多くの当事者の実感ではないかと思うんです。

 ここは大臣にお聞きしたいんです。そういう現状を踏まえて、被害者の救済のめどは立っているのかという点をどう認識されておられるのか、お聞きしたいと思います。

○北側国務大臣 穀田委員おっしゃるとおり、危険な分譲マンションにお住まいの方々の居住の安全を確保していくこと、そして居住の安定を確保していくこと、これが、私ども、当初から一番最優先の事項だと考えて取り組みをしてまいりました。

 先ほど委員が御紹介していただきましたように、十一棟のうち九棟につきましては居住者の退去が完了いたしました。当初の入居戸数三百九戸のうち、九七%に当たります二百九十九戸が退去をしているところでございます。除却の方はまだこれからでございますが、一棟において除却工事が実施をされておりまして、六棟において建てかえ推進を決議されたというのが今の現状でございますが、これはまだまだ道半ばだという認識をしております。

 建物を解体し、そして建てかえを進めていく、そのためには、多数の住民の方々の合意を形成していく必要があるわけでございまして、これはそんな容易なことではないというふうに考えておりまして、国といたしましても、地方公共団体、特定行政庁としっかり連携をとって、これからも建てかえた建物に居住者の方々がお住まいになられるまでしっかり最大限の努力を国土交通省としてもとってまいる決意でございます。

○穀田委員 大臣、これは大臣がずっと答弁されている内容なんですね、最大限努力と。それはそのとおりなんですよ。でも、国として、お住まいの、までやるんだと。そうしますと、解決に責任を持つというのは当然だと思うんですね。これはお互いに認識は一致しているんですよ。住民の方々の不安を取り除き、そして安心して再建に向かう話し合いの努力、土台というのが、先ほど住民の合意形成とありましたよね。だから、一番大事なのは精神的支柱だと私は思うんですよ。

 早期の解決に向けて最大限の努力、二度も三度も聞いてはいるんですけれども、国が責任を持つんだ、安心してくれという形で住民にお約束するような言質が必要じゃないかと思うんですが、いかがですか。

○北側国務大臣 全体としての支援スキームは、昨年の十二月、そしてこの一月の補正予算の審議の中で取りまとめをし、個々の状況というのは異なりますので、そうした総合的な支援策に基づいて、今個々の棟について特定行政庁と一緒になって合意形成を図るべく努力をしているところでございます。

 各論の話はいろいろあるんだと思うんです。あると思うんですが、総論といたしましては、私どもは、合意が形成を図られて建てかえがなされ、そしてそこに住まれるまでしっかりと責任を持って対応をさせていただきたいと考えております。

○穀田委員 被害者救済のめどという点では、やはり道半ばだということだと思うんですね。私は、道半ばというよりも半分も行っていればいいんやけどね。一番肝心な点は方向性が見える、つまり、これで大丈夫だと見えればそれで半分なんですね。例えば物事の解決だとかそういうものというのは、何かという場合、ほとんど解決のめどが立つことによって半分と言うものですからね、普通は。ですから、私は、道半ばどころか道に入ったところだということだと思うし、安心して、やるから大丈夫だということが必要だと思うんです。

 そして、個々の問題や各論はいろいろある、こう言いますけれども、私は、では、共通している問題は何かということだと思うんです。

 私はここに、グランドステージ東向島耐震強度偽装対策委員会の各党に対する公開要望書を持ってきました。その要望書によれば、「国や墨田区の指導の下、マンションが再建できるものと信じていた。しかしながら、国の示したスキームが非現実的なものであることを目の当たりにし、自治体の協力も限定的である。」こういう率直な発言が、要望があります。そして、さらに、「国の発表では耐震強度が〇・三一で解体、建替えと言われた当該マンションも民間調査では〇・五五七となり、その根拠も不明瞭となった。そして、国交省はどちらの数値を採用し、建替えるか補強するかは自治体と住民にお任せすると回答した。」という点を指摘していまして、国交省や墨田区の対応に対して批判的意見を述べております。

 きょうの午前中の質疑でもありましたように、耐震強度が〇・五以下というのは相当ひどい物件だということを大臣は再三強調しました。私は、後半の方の、この公開要望書にある耐震強度の二つの数値と国交省の回答というのは事実かどうか、局長にお答えいただきたい。

○山本政府参考人 御指摘いただきました件につきましては、国土交通省はイーホームズから十一月に偽装に関する報告を受けまして、イーホームズ社が保管しておりました確認申請図書の写しの提供を求めまして、緊急に安全性の検証、再計算を行ったところでございます。その結果として、強度について〇・三一という数値を特定行政庁に伝えるとともに、公表したところでございます。

 最終的な強度の認定でございますが、特定行政庁が関係者からの報告聴取あるいは実際の建築物の状況等を見て判断するものでございます。墨田区においては、その結果、国土交通省が当初発表いたしました強度の数値を妥当と判断しておりまして、その旨住民にも伝えていると聞いております。

 要望書にありますような建築関係の雑誌に掲載された民間調査の結果があることは、墨田区、それから私ども国土交通省も承知しておりますけれども、この民間の調査、建築関係の雑誌に掲載されたものの詳細については明らかになっておりません。

 強度の確定は特定行政庁においてなされるものでございます。住民に対しまして、どちらの数値を採用するかについて自治体と住民にお任せするという回答をした事実はございません。

 また、建てかえるか補強するかにつきましても、自治体と住民にお任せするという回答を我が省からした事実はございませんが、建てかえの支援の対象につきましては、保有水平耐力比が〇・五未満であり、かつ、耐震改修が困難であり、かつ、建築基準法第九条に基づく除却命令を受けたもの等としておりまして、保有水平耐力比が〇・五未満であることをもって直ちに建てかえ以外の方法を否定するものではございません。

○穀田委員 だとすると、まず、国土交通省がどちらの数値を採用するか、どっちを選ぶかということは言っていないということですね。では、それはそれで結構です。

 ただ、そういう新しい数値が民間調査機関によって出されているということを知っているわけですから、そうしますと、どちらの数字が正しいのか、そして、選択をどうするのかということは当然問われるわけでして、それを単に特定行政庁の仕事だと言わずに、国が今支援の体制をとっているときに、これはどうなんだということで積極的に乗り出して、その数値を確かめる、そしてその不安をなくしてあげるということを積極的にするのが、先ほど大臣が最大限の努力をすると、これは最大限の努力ですか。私は最大限とは思いませんよ。最大限ということは、そういう不安が出たときに、いや、違うんだ、それは間違っています、大丈夫なんです、それをやりましょうという話をしてやってこそ最大限と違うかと。

 これが普通の人の感覚なんですよ。そう思いませんか。私はそうだと思うよ。普通の人から見れば、そんな、どこか後ろにおって、それは特定行政庁の仕事ですわというような話をして、それは民間の調査機関はそういうの出るでしょう、それはそっちの数字ですわなというような話をして不安を駆り立てることが、不安をなくすということが大事なんだと最初に私言ったでしょう。そういう点のことがだめなんだということを言っておきたいと思います。

 だから、どうしたらマンションを再建することができるか、住む人の立場に立ったら何が問題かということに対して、親身ということが最大限なんだということを心に命じていただきたいというふうに言っておきたいと思います。

 次に、そこでです。個々の話じゃない問題の最大の点は、二重ローンの問題なんですよ。これはなかなか進めない要因であり、最も大きな要因でもあります。東向島の住民の方も次のように言っているんですね。「何より補償が不確定な中、一世帯あたり平均二千万円超の経済負担を強いられている。 なんら責任のない純然たる被害者の私たちが、精神的、肉体的、金銭的負担を背負ったまま包括的な支援なく建替えを推進することは困難である。」と訴えているんです。

 私たちは、こうしたことを踏まえて、この間、本会議で二重ローンの問題について提案をし、大臣に質問しました。そのときに私は、住民の既往のローンの債務軽減のために銀行等と交渉すること、二つ目に、販売会社など加害者に損害賠償責任を果たさせること、三番目に、銀行や不動産関係業者などから基金等を募って被害者住民の債務返済に充てるなど、被害者住民個人が銀行と交渉することは困難だ、だから国が解決に責任を負うスキームを提案したわけだから、そういうことをしたらどうだという提案をしたわけです。

 本会議ではもう一つ明確な答弁がなかったので、改めて大臣に伺いたいと思います。

○北側国務大臣 この住民の方々の支援スキームを考えるに当たりまして、既存のローン、それから建てかえをしようとしたときの新しいローン、この二重のローンの問題について負担の軽減をしていくということが非常に重要であるという認識は、当初から持っておったところでございます。

 昨年の十二月の段階で、これは金融の問題でもございますので与謝野金融担当大臣と会談をいたしまして、与謝野大臣にも協力を要請いたしまして、全銀協を初めとする金融機関団体に対しまして、この住宅ローンの負担軽減を図るために対応をお願いしたいということは要請をしてまいりました。

 こうしたことで、与謝野大臣も動いていただきまして、二月の十四日に全銀協等の五団体、機関の連名で申し合わせがなされまして、既往ローンについては返済据置期間の設定、据置期間中の可能な範囲での金利の引き下げ、ちなみに住宅金融公庫の場合は最大限一・五%の金利の引き下げをやっておりますが、可能な範囲での金利の引き下げ、さらに、危険なマンションの除却、建てかえを行うに当たりまして、抵当権の円滑な抹消への協力、さらには、再設定をする場合、新しい建てかえ後の建物に抵当権を設定する場合の再設定時の順位ルール、さらには、居住者から新規ローンの申し出があった場合の審査の弾力化等の措置が申し合わせで合意をなされているところでございます。

 さらに今般、居住者の方々が新たに住宅ローンを借り入れる場合には、その利子負担相当分として、借入額及び所得に応じて最大百九十二万円から三百五十四万円、特に支援が必要な方に対しては最大六百三万円までの助成を行うこととしたところでございます。

 これらの措置を活用することによって、住宅ローンに係る居住者の負担の軽減が相当程度図られるものと認識をしております。

○穀田委員 大臣、先の方はもう前の話でわかっているし、私の時間というのは物すごい短いんやから、わかっておって、もうそれは短うしてな。

 私が言っているのは、要するに質問したのは、国が解決に責任を負うスキームを新たに提案しているわけですやんか。それに対してどないやということを言っているわけで、今まで言ったことについては、それは今までずっとやってきたことを知っていますよ、私も。だけれども、何でこんなことを言っているかというと、先ほど、山本局長もそういう話は多分聞いているんだろうけれども、各党に対して、耐震偽装の被害者救済を超党派で取り組もう、円滑な建てかえや補強を実行できる特措法を立法してほしい、それから、当面の経済負担をなくす無利子基金の設立を、こう言っているわけですよね。

 この点について言うならば、特別立法については自民党のワーキングチームも提案しているんですね。それで、都市再生機構による住宅ローン債権の買い取りを提起し、元本の一部免除も含まれているんですよ。だから、私どもも、そういう話としては、簡単に言えば、いろいろ立場は違うけれども、これのスキームと結構近いじゃないかということを言いたいわけですやんか。

 そうしますと、あとは、民主党さんが乗ってくれて、社民党さんが乗ってくれて、公明党さんが乗ってくれればできる話だと。もちろん、ワーキングチームですから、自民党全体の意見かどうかという問題はありますよ。だけれども、一番わかっている人たちはそこまで来ておるのだから、私はそういうことをやろうじゃないかと。したがって、各党に逆に呼びかけたい、ぜひともこの点は、特別のそういうことをつくろうじゃないかと。

 そしてまた、委員長にもお取り上げいただいて、理事会でもこういった問題について御協議いただければなと思っているところです。

○林委員長 理事会で協議いたします。

○穀田委員 今お話ししたように、私は、この問題は、本当に現実の御苦労という問題で困っている点を各党が協議してやれる土台はあるということを改めて強調しておいて、理事会でもさらに具体的に詰めていきたいし、そういうものに、具体化のために力を注ぎたいと思います。

 大きな二つ目に、では、今回の事件の問題との関係で論議を進めていきたいと思います。

 姉歯元建築士以外の新たな構造計算書の偽装や改ざん、耐震強度不足の建物もさらに広がりを見せていて、国民の不安は募る一方であります。同時に、建築物の安全を確保すべき建築行政に対する信頼は今や失墜しています。

 法案はこう述べています。耐震偽装事件の再発を防止し、建築物の安全性に対する国民の信頼を回復するとして提出されたわけです。果たして本当に国民の期待にこたえることができるのかどうかが問われています。趣旨説明では、耐震偽装問題が国民の間に建築物の安全性に対する不安と建築界への不信を広げている、さらに、偽装を見抜けなかった現行の建築確認検査制度等に対する国民の信頼も大きく失墜していると述べています。

 これは、では、建築確認制度等の不備を放置し、建築物の安全確保ができなかった建築行政に対する信頼が失墜していると受けとめるわけですが、行政として制度的不備を改善してこなかったという責任は感じているということかどうか、明確にしていただきたいと思います。

○北側国務大臣 今回の事件において、指定検査機関のみならず、特定行政庁においても偽装を見抜くことができなかったわけでございます。そういう意味で、これだけ広範に、また今委員のおっしゃったように、姉歯元建築士だけの問題ではありません、ほかでもあるわけでございまして、建築確認検査制度に対する国民の信頼が大きく失われているというふうに認識をしているところでございます。

 今回、偽装物件、姉歯元建築士の偽装物件だけで九十八件あるわけでございますけれども、その偽装内容というのはさまざまでございます。さまざまでございまして、単純な差しかえを行ったものだけではなくて、コンピューター計算途中の数値など出力結果の一部を巧妙に修正したものまで多岐にわたっておりまして、構造計算書の再計算や構造の専門家による詳細な審査を実施しなければ偽装を発見することが困難な事例もあることも事実でございます。

 こういう実態を踏まえまして、現在審議をしていただいております本改正案によって再発防止策をぜひ緊急の措置としてとらせていただきたいということで、本改正案についてお願いをしているところでございます。

○穀田委員 私が言いたいのは、制度への不信があるということなんですね。

 今お話があったように、今後の再発防止、先ほど提起した被害者の救済においても、行政として制度的不備を放置してきたのは事実であって、ある意味では当然、不作為の責任があるんだ、ここをしっかり自覚してやる必要があるということをまず私は指摘しておきたいと思うんです。

 そこで次に、では、本来、こういう再発防止について言うならば、なぜ偽装が起こり、なぜ見過ごされたか、そういう今度の事件の構造と背景についてしっかりした分析が必要です。大臣が諮問している構造計算書偽装問題に関する緊急調査委員会の報告書では、なぜ偽装が起こったのかについて、「建築士制度の機能不全」として、建築技術の高度化に伴う建築士の専門分化、構造設計者の下請化による労働加重と地位の低下を挙げています。

 なぜ見過ごされたのかについては、「建築確認・検査制度の機能喪失」として、建築技術の高度化、専門化、確認申請件数の増加等による建築主事の技術的能力、処理能力の低下、民間確認機関の市場競争による審査の形骸化を挙げています。

 そこで、なぜ偽装が起こったのかについて大臣の見解を聞きたいんです。私が体制と言ったのは、そこなんですよ。今言った報告では、「わが国の建築生産システムでは、倫理・技術に劣る建築士でも構造設計業務を受注する機会が排除されていない。」として、建築生産システムそのものの不備を指摘しているんですね。だから、倫理、技術に劣る建築士が構造設計業務を受注できる仕組みが問題だという点の指摘だと私は思うんですが、この指摘に対する大臣の認識をお聞かせいただきたいと思います。

○北側国務大臣 この緊急調査委員会の報告書で、今委員が御指摘になったようなことが指摘をされているということでございます。

 もう詳細、繰り返しは、述べるのはやめさせていただきますが、こういう倫理、技術に劣る建築士の排除については、本来は、建築士みずからが各自の業務実績等の能力を開示いたしまして、適正な競争の結果、市場による選別、淘汰が行われるというのが一番ふさわしいというふうに考えておるわけでございますが、そういう意味で、こうした調査委員会の報告を踏まえまして、今回の法改正では、専門分野別の建築士制度の導入だとか、建築士の資質、能力の向上、さらには建築士事務所の業務の適正化、さらには建築士会等への加入の義務づけ等の建築士制度そのものの見直しにつきましては、現在、社会資本整備審議会において引き続き論議をしていただいているところでございまして、これらにつきましては夏ごろまでに方針を取りまとめて、次の国会にぜひ改正案を提出させていただきたいと考えております。

○穀田委員 そこはちょっと違うと思うんだけれどもね。市場の選別、淘汰がふさわしいと言うんだけれども、そういう市場になっていないということが問題なんですよね。だって、安く、早く、緩やかという形で市場が支配されているということが、これは参考人質疑の中でもこもごも言われたことですやんか。だから、そういう意味でいいますと、ちょっと違うなということを私は思っているんです。

 もう少し突っ込んでいきますと、そういうなぜ偽装が起こったかという問題で今言ったわけだけれども、こういう事態になる前になぜ手を打たなかったかという問題を私は提起しているんですよね。

 九八年の建築基準法の改定では、建築技術の高度化を促進するためとして性能規定化しましたよね、建築士の裁量を広げて自由な設計ができるようになると。当時の法案説明でも、性能規定化の効果として、設計の自由度が高まる、技術開発や海外資材の導入が促進され、より合理的で低コストの技術等の円滑な導入や市場の活性化が期待されるとしていたんですね。

 市場コストの低減要請などもあって、それこそ今指摘したように、耐震基準ぎりぎりの経済設計がもてはやされる一方で、技術力が追いつかない建築士が、ある意味ではパソコンさえいじればできるというふうな形で構造設計をする。こういう事態を想定して、建築士制度や建築確認制度によるチェック体制を十分に行うべきだったんだ。

 つまり、性能規定化する、自由化する。だとすると、それをチェックする体制を強化するということが大事だったのであって、これが建築物の安全確保に責任を負う行政、国交省での責任ではなかったんでしょうか。その点について見解を問いたいと思います。

○北側国務大臣 今回の耐震強度偽装事件に係る物件につきましては、これはすべて従来から、この平成十年の改正によってではなくて、すべて従来から建築基準法令に位置づけられている許容応力度等計算を用いてなされている設計でございます。

 そういう意味では、何か新しい、この平成十年の改正による新しい基準で姉歯元建築士が何か設計をしたという事案ではございません。そういう意味では、性能規定化そのものが、この事件の直接の要因、背景になっているということではないと私は認識をしているところでございます。

 ただし、一般論として、今、穀田委員のおっしゃった、その性能規定化をしていくということについて、事後的にチェックする際にやはりチェックしやすいようにしていかないといけないわけでございまして、そこのところはよく念頭に置いて制度を、またさまざまな基準を、現場の特定行政庁の方々や、また指定検査機関がチェックできるような体制整備、これはこれまでも努力をしておりますけれども、しっかりと取り組む必要があるというふうに考えております。

○穀田委員 そこまで言うと、ちょっと私は本当に言い過ぎだと思うんですね。

 だから、緊急調査委員会の先ほど述べた報告書は、建築技術の高度化に、僕は一般論で言っているんですよ、個別の、これがどうだこうだと言っているんじゃないんですよ。やはり、そういう体制のもとでできているということを指摘しているわけで、しかも、報告書は、建築技術の高度化に伴って建築士にも専門分野ができて進んだと。いわば、統括すべき元請建築士の管理機能が衰えて、共同作業をチェックできない状況が常態になっている、こう指摘しているんですよ。さらに、前にも指摘しましたよね、大臣認定プログラムについて、ここまで、特に、大臣認定の構造計算プログラムの存在が、構造計算の重要性を認識せずに、技術に劣る者が構造計算を行って、確認申請に必要な構造計算書を外形的に整えることが可能となった、こういう問題があるということを言っているんですよ。私は、そういうものが出てきていることを言っているわけですね。

 そして、昨日の参考人質疑では、神田東大大学院教授は、性能規定化に伴う高度化に検査の側がついていっていないということまで指摘しているわけですね。だから、総体としてそういう問題があったということを私は指摘しているわけですね。だから、そこの点はしっかり理解してもらわないとだめだと思うんですよね。それは、事務方もうなずいていますから、そのとおりだと思うんです。

 問題は、今、神田教授のお話をしましたように、また大臣からありましたように、そういうチェック体制というのを整備しないままに性能規定化を進めたというのは非常に大問題だったと私は思うんです。

 もう一つ、民間開放について改めて確認したいと思うんです。

 大臣は、この間の私の質問に対する答弁で、まあ簡単に言うと、制度の実効性が向上しておって、民間にできることは民間にという方向は間違っていないと。さらに、民間開放の進展によって建築行政全体として実効性は確実に向上している、だから間違っていない、こういうことですわな。

 だけれども、これは営利目的である民間検査機関をそのまま認める現行の枠組みを基本的に維持するということだと思うんだけれども、私は確認したいのは、民間検査機関の建築確認業務は、営利を優先させ、安易な審査に流れる傾向はないという認識かどうか。お答えください。

○北側国務大臣 この平成十年の改正というのは、建築確認件数が年間七十五万あり、そのほかに中間検査もやらないといけない、完了検査もしないといけない。そういう中で、建築主事だけでは実際、適切な確認検査、建築確認検査ができないという状況の中で民間と一緒になってやろうということにさせていただいたので、その方向性はやはり間違っていないなということは、ぜひ御理解をお願いしたいと思うわけでございます。

 その上で、建築確認検査というのはやはり厳正なものにしていかないといけないということが今回の事件を通じての課題でございまして、この厳正な審査を確保されないといけない、それは民間の指定確認検査機関であろうとも同様でございます。

 したがって、今回の改正案では、確認検査制度につきまして厳格化を図る。そのために、国による確認検査の審査方法の指針を策定するだとか、それから、一定規模以上の建築物について、構造計算適合性判定の義務づけをピアチェックでやらせていただくだとか、確認審査期間を従来の二十一日から最長七十日まで延長するだとか、また、民間の指定確認検査機関に対する指導監督の強化とか、こうした確認審査の厳格化を図らせていただいているところでございます。

○穀田委員 私の質問にずばり答えてほしいんですよね。前半の話はもういいので、厳正なものにしていくということは、厳正なものでないということを言いたいのかどうかですよね。私は、安易な検査に、審査に流れる傾向、営利を優先させる傾向、これはあるんじゃないかと聞いているんですよ。もう一度、簡単に。

○北側国務大臣 今回の事件を通じて、民間の検査機関の多くはそういうことだという認識は私はしておりません。ただ、そういう問題点がある、今回の一部の機関の間にそういう問題点があるということは、当然これは認識をしておりますが、多くの民間機関でそういうことがあるとは認識をしておりません。

○穀田委員 最初からそう言ってくれればいいんですよ。さっきの答弁は要らなかったんですよ。だから、それはもう調査委員会の報告だって、「営利企業であることから「建築主に好まれる低料金で早く」という経済原理に基づく安易な審査に流れる傾向を招いた。」と明確に述べているわけですからね。それを諮問を受けているわけだから、その事実を認める必要があると思います。

 大阪弁護士会も、この間、私、調査室がつくったものを見ますと、

 市場原理に基づく競争原理にさらされることになると、経済合理主義に基づく必然のベクトルとして、「安く」「早く」「緩く」検査を通すよう「建築主からの圧力を受けやすい立場」になる。

さらに、

  チェックする者がチェックを受ける者に雇われるシステムでは公正なチェックは期待できない。建築確認検査業務を全くの自由競争に委ねてしまえば、必然的に市場原理が導入され、「安く早く緩く通す」業者が生き残ることとなり、その公正中立性は瓦解することになる。

  したがって、真の民間開放は、民間の人材を活用しつつも、市場原理を排除する制度として再構築されるべきである。

という提言をしています。

 私は、一部であろうと、ここなんです、問題は。一部であろうと、今大臣が言われたけれども、こういう傾向が生まれていることを問題にしているわけです。だって、一部だって、多くの方々が住む事態に、安全にかかわっているわけだから、一部であってもその穴を許さないという角度で迫ることが必要だということを私は言いたいわけです。まして、姉歯氏はイーホームズ社は検査が素通りするだろうということまで逮捕される前後に言っていることから見ても明らかであって、穴をつくったことに変わりがないと私は思っています。

 ですから、私は、ここに最大の問題がある。膨大な確認業務をこなすには、先ほどありましたように、特定行政庁の人数が足りない、それで補佐する体制として民間検査機関をつくったと。しかし、九八年の法改正のときに、私どもは、営利企業だと安かろう悪かろうの検査になる可能性があると指摘したのに、心配ないと進めたのは国交省なんですよ。そのときにどう言ったか。そういう民間検査機関ができるかどうかぐらいのことを逆に問題なんだなんという話をして、我々が指摘したにもかかわらず、そういうことになったわけです。

 ところが実際は、建築主に好まれる低料金で早くといったことが競って争われて、偽装だとか強度不足の見逃しが現実に起こった、これが事実ですよ。したがって、私は、営利企業がこういう事態を生んだということに対する反省はないのかということだけ指摘をして、時間ですので、きょうは終わります。