国会会議録

【第164通常国会】

衆議院・国土交通委員会
(2006年5月16日)

建築の専門家(建築構造技術者協会会長)各種審議会委員(国土交通省 構造計算書偽装問題に関する緊急調査委員会委員や「建築物の安全性確保のための建築行政のあり方について」検討した社会資本整備審議会建築分科会委員など)弁護士など8人が陳述。
 本会議をはさんで、午前、午後の二回質問に立った。

○林委員長 穀田恵二君。

○穀田委員 私は、日本共産党の穀田恵二です。

 参考人の諸氏には、本当にきょうは貴重な御意見をありがとうございます。

 座って質問いたします。

 まず、神田先生にお聞きします。配付された資料によりますと、「設計者が独立性を維持し自律的な判断の保証される制度こそが、安全性確保のための制度設計ではないか。」とおっしゃっています。この点で、いわば設計者の独立性という問題は決定的だと私はこの問題について考えているんですけれども、どのように担保すべきかお話しいただければというのが一つです。

 二つ目に、先ほど九八年の法改正の問題について、性能で見るということがありましたけれども、あわせて民間開放ということがございました。それでいいますと、例えば検査機関というのは、私、実は日本ERIの社長に質問しまして、厳しくすると逃げるということで、いわばお客さんとしての顧客の扱いをしているということが明らかになりました。

 検査機関は、厳しい検査をすればするほど、つまり、よい仕事をすればするほどお客さんから敬遠されてしまうという立場にある。普通、よい仕事をすれば歓迎され、悪い仕事をすると敬遠されるという形で、悪い業者は自然淘汰されていくのがいわゆる普通の市場原理かと思うんですが、しかし、検査機関はこの関係が逆転し、正常な市場原理が働かないという現実があるんじゃないか。その中に潜んでいる重大な問題というのは、コストダウンというものが貫かれている点に非常にありはしないか。

 まず、この二点についてお聞きしたいと思います。

○神田参考人 設計者の独立性という問題ですが、特に構造安全の問題に関しては、やはり構造技術者が自律的で独立の判断ができなければいけないわけでありますけれども、現在は、多くの場合がやはり下請的な状況に置かれております。雇われている身でああしろこうしろということはなかなか言えないわけでありまして、そういう意味で、制度的にどのようにしていくのかということになりますと、構造技術者あるいは構造設計者が、社会から見てもこの人が構造設計者だ、自分も、私は構造設計者であって、建築総括はやらないけれども構造はやるんです、そういったことがやはり見える形にしていくことが一番大切なことだというふうに思います。

 もちろん、契約の仕組みですとか、それから例えばゼネコンの中の構造設計者の役割をどうするのかとか、細かい議論はいろいろ残ると思いますけれども、今は、まさに構造設計者が完全な匿名性の中にあって、建築士と一くくりにくくられて、多分十分の一ぐらいしか構造設計者はいないと思うんですけれども、外から見るとだれが構造がわかっている人か全くわからない。そういう中では、社会の信頼に足る仕組みという形にならないんだろうと思いますので、そこを変えていくことがポイントだと思います。

 それと、民間開放のことに関しましては、平成十年の段階で、今までは税金で確認検査をしていたわけですね。実際に申請料をもらっておりますけれども、確認審査に費やす時間とかコストはそれを上回っておりますので、税金がかなり補てんしていた形になっていたと思います。ですから、それを民間機関に移行した場合に、それだけでは業務が成り立たないんですね。それだけで業務が成り立たないということになると、ほかの会社から出向で来てもらうですとか、ほかの仕事をやりながら確認検査をやるというような形でないと成り立たないということが、やはりゆがんだ形でのスタートになってしまったのではないかというふうに思います。

 ですから、民間機関で公共的なことをやってはいけないということはないと私は思うんですけれども、民間がやるのであれば、コストと人が適切に配置できるということを十分検証した上でスタートしなければいけなかった。それがやはり拙速だという私の意見でございまして、今回も、構造計算の適合機関をつくるとおっしゃっているんですけれども、それをやる人がいるんでしょうか、あるいは、どのくらいコストをかけてやるんでしょうかというあたりの議論が全くされないで、機関だけつくるということになると、やはり全く同じ問題が出てしまうのではないかというふうに危惧しております。

○穀田委員 ありがとうございます。特に最後の方では、同じような危惧を私も覚えます。

 次に、野城参考人にお聞きしたいと思います。

 緊急調査委員会中間報告では、やはり検査の公正並びに中立性の問題について語っていまして、民間機関は建築主からの圧力を受けやすい立場にある、こういうことにかんがみて、民間機関が確認事務を適正に行うための動機づけの問題が大切だという、大体そういうことを触れています。

 その中で、利潤追求を目的とする株式会社等において、株主への利益還元及び顧客へのサービス向上と国民の利益の保護が対立相反する場合が多々ある、国民の利益の保護に立った行動を当該機関がとるための行動規範の整備の問題が極めて重要だと。この点、私はとても大切じゃないかと思うんですね。このことの意味している点、国民的に言えばどういう点を今理解してもらうべきかというあたりはいかがでしょうか。

○野城参考人 二点ございます。

 一つは、実は民間へのこういった業務の委託でうまくいった例としてあるのは、例えば、日本の住宅性能保証機構に当たるNHBCという民間の会社が英国にございますけれども、ここは保険を付与している。そうすると、その保険の検査員としてNHBCの社員が足しげく現場に通い、検査をするわけでございます。そういった人々に日本で言っているところの中間検査を自治体が委託するというのは、これは双方の利害が一致しているわけでございまして、大変うまいやり方だと思います。

 先ほど申し上げた、二つのベクトルが相反する側面があるということ、今思えば相反するということがあり得る。そうすると、やはり、民間企業としてこのような社会理念を持ってやっていますよ、国民の利益に基づいた業務をしていることが我々の会社の存在意義だということが確実に見えないと、逆にお客さんが来ないような構造をつくり上げていかないといけないのではないか。つまり、あくまでも当事者の利益ではなくて国民の利益にしている会社が信用されて、そうした民間機関にこういった確認業務が行われるような仕組みによって、そういった内在しているベクトルの対立を何とか補正できるのではないかなというように思いながら、そういった報告を書かせていただきました。

○穀田委員 ありがとうございます。しかし、なかなかそれは難しいんですよね。しかも、現実の市場原理の働きというのは、どちらのベクトルで動いているかというのはなかなか現実は厳しいものがありまして、私はその点を危惧するものです。

 村上参考人にお聞きします。

 村上参考人だけが、ごめんなさい、神田さんも言われましたけれども、救済について言及されましたので、一言ちょっとお聞きしたい。

 今、政府の提案で、現実に進行している事態というのはなかなかうまくいっていないと私は考えているんです。やはり不備がある。その最大の問題は、二重ローンをどうするのかということが解決されていない点があると思うんです。

 住民は、被害者の方々は何ら責任がないわけで、とりわけ銀行も責任の一端があるということを述べられて、実は、自民党のワーキングチームも金利の減免などを初めとした銀行責任ということを言っています。私もその問題について銀行責任もあるんだということを言っていまして、その辺は、参考人、いかがお考えですか、率直のところ。

○村上参考人 お答えします。

 いわゆる金融に関する問題、私、分野外でございますし、今回の建築分科会等でも全く審議していない状況でございまして、申しわけございませんけれども、お答えする情報を持っておりません。申しわけありません。

○穀田委員 わかりました。でも、現実問題というのは、救済をどうするか。そこは、先ほど神田参考人が分けてということも文章の中で書いていましたけれども、これは緊急に解決すべき問題として、党派を超えて、今の窮状をどうするかということについては知恵を集めたいと私は考えています。

 そこで、大越参考人にお聞きします。

 先ほどもありましたが、日本の建設、建築全体の業界に占めているのは、貫かれている問題は、実はコストダウンという問題が非常に多いと思います。

 その点でいいますと、これは緊急調査委員会の中間報告でも、「建築ストック重視社会への転換」として、スクラップ・アンド・ビルドの体質からの脱却の必要性を述べておられます。そして、JSCAの場合の問題でも、試算でいいますと、耐震性を基準法水準の設計から免震設計にグレードアップしたマンションの場合、建設費は一〇%高くつく、しかし、耐震のグレードが上がれば上がるほど大地震の修復費用は少なくて済んで、建設費と修復費の合計は二〇%程度安くなるということが言われています。これはそのとおりだと思うんです。

 こういう問題が、私、今大事な時期に来ているんじゃないかと。つまり、今、つくる側も安ければいいと。あの一連の、今回の事件であった圧力というのは、鉄骨だとかその他安くしろ、ホテルの場合も、どういう工法で安くできるか、そしてさらに検査機関の問題についても、早くどうしたらできるか。早くできるというのは結局コストなんですね。こういう中で、実は、それを規制緩和という土台の中で進めたというのがこのあだ花が咲いた問題じゃないかと私は考えています。

 そういう意味でいいますと、コストというのは正当にかかるものだ、そしてまた、生涯コストというのはこういうものなんだ、また、本来的にいいますと、今のスクラップ・アンド・ビルドの体質から脱却が必要なんだ、こういうあたりについて、いわばつくり手の側として、またそれを支えるものとして、きちんと訴えていく必要があるんじゃないかと思うんですが、その辺についてのお考えをお述べいただければ幸いです。

○大越参考人 私は構造設計者ですから、我々アンケートをとりましても、実は黙って丈夫にしているんですね。というのは、先ほど、自分ではやはり社会性があるし。ただ、こういうだんだんオープンになりますと大変難しくはなってきますが、個々の設計者は、私たち約二千棟をチェックしておりますけれども、やはり鉄筋を減らそうというのはいないんですよね。姉歯氏しかいなかった。そういう意味で、ですから設計者は基本的には、先ほど言いましたように、プライドの問題からいうとかなり真剣に考えてやっております。

 ただ、このコストダウンの問題は今に始まったことではございません。霞が関に始まって、プロジェクトをつくるときには必ずやはりコストダウンの問題というのは出ております。でも、それでめげるような人は、本来、構造設計者の資格がないわけですね。

 ただ、一つ問題は、逆に、今回、偽装事件以来、四月にアンケートをあるところでとっておりますが、では買う人は何を重視するか、逆に言えば、安全性を何番目に重視するかというのは、実は残念ながらこういう事態でも四番目なんですね。ですから、今回のいろいろな問題を含めて、国民が本当に安全性、つまり社会資本として百年もつ建物をつくろうという気構えが、いわゆるこういう上層部だけで議論していても始まらないと思います。そういう意味では、やはり大事なのは、国民に対する教育をちゃんとしないといけないのではないかと思っております。

○穀田委員 国民的合意というのが必要だなということを改めて思うんです。

 私は、ただ、スクラップ・アンド・ビルドというのは、では、つくる側からそういうふうに求めたかというと、そうでもないわけですよね。ですから、与えられたものでして、その辺はなかなか難しいなと思うんです。

 したがって、設計士のそういう地位の問題につきましても、先ほど諸先生からお話がありましたように、みずからのコストという問題でさえたたかれるという問題について抗することができないという事態についても、これは社会的にも明らかにして頑張っていきたいと思うんです。問題は、再発防止のために私どもも頑張りたいと思います。

 きょうは本当にどうもありがとうございました。