国会会議録

【第164通常国会】

衆議院・国土交通委員会
(2006年3月17日)

 耐震強度偽装にかかわる「大臣認定構造計算プログラム」問題

○林委員長 穀田恵二君。

○穀田委員 この間の十四日に、私は建築研究所の理事長に質問しました。その際に、大臣認定プログラムの計算結果が改ざんできるかどうか聞きました。理事長は、構造プログラムそのものの改ざんが行われた事実はないものの、プログラム出力結果を電子データとして保存した場合には、市販のワープロソフトなどで修正して出力結果を改ざんするということが可能であるということを発言しました。

 国交省は、大臣認定プログラムを使った計算結果の改ざんは可能かどうか、どのように認識しているか、まずお聞きしたいと思います。

○山本政府参考人 今お話の中にもありましたように、構造計算プログラム自体を改ざんすることはできないという認識ですが、今回の偽装物件の偽装内容として見ますと、構造計算プログラムの計算結果を印刷したものを単純に差しかえたり、あるいは計算結果の一部を切り張りなどで巧妙に修正した事例は確認しております。

 その意味で、印刷あるいは別の形でファイルしたといったような構造計算プログラムの計算結果を改ざんすることは可能であったという認識でございます。

○穀田委員 そうしますと、大臣認定プログラムを使った計算結果を改ざんできると。そこで、これは大臣認定プログラムで計算された構造計算書は、大臣認定プログラムを使っているからといっても、常に正しい計算書であるとは言えないということになります。全面的に信頼するのは危険だということが今の答弁からもおわかりだし、今回の事件が証明している。

 それでは、大臣認定プログラムそのものはどうかという問題です。一度大臣認定とされたものは改ざんされない、あるいは計算結果を間違うようなふぐあいはない、信頼に足るものだというのが国交省の認識ですか。

○山本政府参考人 コンピューターを使って構造計算が行われることが普通に行われるようになりましてから、コンピューターに用いるプログラムの信頼性についていろいろな問題意識が、仕事をする方々にも行政サイドにも出てまいりまして、昭和五十二年に構造計算プログラムの評定制度というものを導入しました。

 基本的な考え方は、今も、大臣認定に当たっても同じ考え方でございますが、大臣プログラムの性能の評価といいますか評定に当たりましては、専門の方々にモデルプランを前提として計算の結果をきちんと検定、審査をしていただきまして、このプログラムによった計算結果が適正であるということを確認して、その上で大臣認定をしているところでございます。

○穀田委員 だから、その形式はいいんですが、中身がどうかという問題なんですよ。構造計算プログラムの開発会社が言うには、一貫構造計算プログラムというのは数百万行を超える非常に大きなプログラムだと。そして、バグ、ふぐあいですね、からは逃れられないものだ、こう言っているんですよ。そして、このふぐあいが原因でプログラムの運用によって生じた損害等は、ソフトのメーカーや認定した評価機関は責任を負わないとまでしているんですね。しかも、ふぐあいを修正、更新していく際に、改めて評価機関への届け出など手続をして大臣認定とする信頼性を確保していくこともないわけなんですね。これが今の現実なんですよ。

 そっちのあたりを言ってくれなくちゃ。何か制度ばかり言っていたんでは、現実に何が起こっているかということを私は言っているわけです。ふぐあいはないのかと言っているんです。

 私は、二月二十一日の予算委員会で大臣認定プログラムの問題を取り上げまして、その際、議論しました。できない人々が次々に設計し、わかっていない人が審査する、このことがふえた、構造設計はコンピューターがしてくれると誤解され、計算結果はフリーパスになり、構造設計図をきちんと審査することもなくなったと述べて、さらに、構造計算プログラムの大臣認定がこの過信を生み、状況をさらに悪化させたと、国交大臣の諮問機関である構造計算書偽装問題に関する緊急調査委員会のメンバーの一人である和田東京工業大学教授の指摘を私は紹介しました。

 その緊急調査委員会が、今度はこの構造プログラムの問題についてヒアリングを業者に対してやっているんですね。

 それを見ますと、大臣認定プログラムについて十分な建築構造に関する知識を持たない者がプログラムを使用すると、プログラムが想定していない使われ方、偽装を含めて、をする危険性がある、こう言っているんです。さらに、パソコンソフトをゲーム感覚で用い、設計をよりよくするためでなく、確認申請図書のつじつまを合わせるため何百回も計算し直している例がある。したがって、大臣認定の制度というのは、構造設計士、審査者のコンピューター盲信の遠因になるために中止し、プログラムの選択は構造設計士に任せるなどの意見も出ているんですね。それぐらい、この問題がずっと深まってきているわけです。私の質問の後に、私は二月の二十一日にしたわけで、これは三月の十三日、後の会合なんですね。このような声が出ています。

 大臣にきょうは聞きたいと思うんです。大臣認定プログラムにはこういう問題がある。これらの認識をまず共有すべきではないでしょうか。

○北側国務大臣 大事な御指摘だと思っています。十分な建築構造に関する知識を持たない者が安易に構造計算プログラムを使用すると、的確な構造計算ができないというふうに考えられます。

 これを踏まえまして、社会資本整備審議会でもこのことは御議論されておりまして、構造計算書の内容に係るガイドラインを作成すべきである、また、一定規模以上の建築物等については、第三者の構造専門家などによって厳格な構造審査をすること、さらには、確認検査をする側の建築主事や確認検査員がチェックすべき事項について明確にする、法令上の審査基準として定めていくこと、こうしたことを中間報告で御提言いただいているところでございまして、この方向に沿って制度の見直しを行いたいと考えております。

○穀田委員 最初の、的確なものでなくなるということを初めとした現状の認識については、私はそのとおりだと思うんですね。だから、本当にこれは大事な点なんです。

 ただ、後半の問題については、やはり報告を受けての内容で、この間私が議論したときと余り変わっていないなという気はちょっとしたんですけれども、まあそう言っては少し失礼かもしれませんが、私はこれは極めて重大で、もう大体これで結論が出たと言っていいと思うんですね。

 といいますのは、まず、大臣認定というのが、認定制度がなぜ問題になるかということなんですよ。それは、まず第一に、大臣認定プログラムを使った計算結果が改ざんできる、それから二つ目に、プログラム自身が信頼できない場合がある、三つ目に、今お話あり、お互いに共有したように、十分な知識のない者がゲーム感覚で使う、予期しない使われ方をする可能性がある、これが使う側の問題ですね。

 もう一つ、前回明らかにしたけれども、検査をする側はどうかということなんです。そうすると、検査をする側は、正しいものと盲信してチェックをおろそかにする。二つ目に、その上、検査する側はプログラムソフトすら持っていない。もちろん、この間、四十七都道府県、十四政令市でにわかに持ち出したという例は、それは局長がいろいろ答弁しまして、あるやのないやの言って、そうやっていましたけれども、ないわけなんですよ。なかったんですよ。これらの点が、今、使う側、検査する側、結局審議を通じて明らかになった。

 したがって、九八年の建築基準法改定で認定制度の内容を変えたこと、それから、認定プログラムへの過信が加速した、この点をしっかり踏まえて、私は、従来の手法の根本的な見直しをしなくちゃならぬのじゃないか、そういう根底的な問題だということをぜひつかんでいただきたいと思っています。

 そこで、大きな二つ目に、では、限界耐力計算について少し聞きます。

 この検査方法の問題については何度も議論しましたけれども、九八年の法改定で二〇〇〇年から導入されました。保有水平耐力計算で計算した数値と限界耐力計算で計算した数値が違う結果になる。これはどちらも建築基準法で認められたものです。

 この問題が出て以来、マスメディアではこんな社説が出ています。二重基準を放置したままでは、建築基準法そのものの信頼が揺らぎかねない、急いで解消しないと、国交省に対する不信感は募るばかりだ、これは産経です。偽装マンションの所有者にとどまらず、多くの国民に不安を広げることにもなりかねない、このままでは構造計算そのものへの信頼まで揺らぐ、政府は、二つの計算方法が許される根拠や両者の違いなどについて、一般の国民にわかるように説明する責務がある、これは朝日新聞の社説です。

 私も、この間、そういう角度から、実は建築研究所に素人にわかりやすくということを言って、その問題を指摘し、その結果がどうかは別として、なおかつ、そのときに、やはり国民に知らせる義務があるという話は当然していたわけですよね。

 そこで、大臣は、国民の目から見て、計算方法で結果が違うという今回の事態が納得できるものだとお思いでしょうか。そこの点について大臣の見解をお聞きしたいと思います。

○北側国務大臣 耐震安全性を検証する方法として、幾つかの方法があります。それ自体を否定する必要は私はないと思っているんです。むしろ、それをきちんと、それぞれの方法がどういう方法であって、どういう特色を持っておって、それをきちんと説明していく、また周知をきちんとしていくということが私は大事ではないかというふうに考えているところでございまして、その点で、なかなか難しい技術的な問題であるところもあって、説明が不十分であったということは反省をしないといけないというふうに考えております。しっかりと、国民の皆様に的確に伝わるように、情報提供に努めてまいりたいと考えているところでございます。

○穀田委員 私は、この間の委員会で、限界耐力計算の問題点について建築研究所に聞きました。そのときの答えでいいますと、JSCAの指摘、すなわち、計算者の裁量によって地震力を小さく評価できる問題点、奨励すべき方法ではない、こういう意見についてはそのとおりだと発言していましたよね。

 そこで、聞きたいと思うんです。設計者が条件をかなり自由に決められるため、例えば十階から二十階建てのマンションなどでは鉄筋量を大幅に減らせる、使われ方次第ではコストダウンの都合のいい道具になる、こういう指摘があるけれども、これは事実でしょうか、山本局長。

○山本政府参考人 まず、前提としまして、限界耐力計算はいろいろなことを自由に変えられるという御指摘でございますけれども、これは、より正確に御説明して、御理解いただく必要があると思うんです。

 その意味は、限界耐力計算の場合は、建物を建てる敷地がどういう条件にあるか、あるいは、建物を建てる、その建築計画で用いる部材とか材料、構造ですね、によって具体的にどういうふうに建物が変形していくのかということを、それぞれ精緻に推計していくわけでございます。

 だから、例えば、先ほど御指摘いただきました、限界耐力計算で地震力を弱く設定することができるかどうかという点でございますけれども、これは基本的に、第一次設計、それから第二次設計、それぞれ地震力を前提にします。第一次設計は、中規模程度の地震が起きたときに当該建物にどういう力が加わるか、第二次設計では、激烈な地震が来たときにどういう力が加わるかというのを前提にするんですが、当該敷地に加わる地震力の推計は、まず岩盤ですね、地震の力が伝わってくる岩盤でどういう力があるのか、その力が地表の建築物が建築されるところまで伝搬してくるときに、その地表がかたい砂れきでできているのか、沖積層みたいな泥でできているのかによって増幅の度合いが違いますので、それは当該地盤に即して推計をして、建築物にどういう地震力がかかるかということを精密に推定しなさいと言っているわけで、設計者がこれを自由自在に低くしたり大きくしたりできるものではないんです。おおよその工学的知見があれば的確にこれを推定できるということを前提に、この計算方法は成り立っております。

 その上で御説明したいんですが、今のような事柄については、応力度等計算では一定の仮説を置いて計算をするわけですよ。変形を見ないわけじゃないんですが、仮説を置いて計算するために、仮説を置いた部分について一定の安全度の余裕を見るということでございます。その部分は今度は厳密に具体的な建築計画に即して推計しますので、その余裕は全くありません、限界耐力計算では。その意味で、保有水平耐力の方法、そういう計算方法を用いて設計した場合と限界耐力計算で設計した場合は、数量が限界耐力計算の方が少なくなるということはあり得るという認識でございます。

○穀田委員 極めて専門的な話は、それはそのとおりなんですね。岩盤だとか、要するに地盤がかたいところで、それの伝わり方がどうなるかという問題はあるのはわかっているんです。

 ただ、その点では、日本建築構造技術者協会、つまりJSCAが言っているのはもっとわかりやすいんですよね。そうはいうけれども、要するに架構剛性を少なく評価できて、地震力を小さく評価できる、これはこう言っているんですよ。そして、その意味で、だから、採用する場合には審査に当たって慎重を期さなくちゃならぬということまで言って、この問題が、余裕がなくなってきている、今、貯金を吐き出すという経過にあるから、よくよく調査せなあかんよということを何回も言っているんですよ。

 その結果、では、どうなるかというと、しかし、その結果として、今お話あったように認めましたけれども、要するに鉄筋量なんかを大幅に減らせるし、そのことは可能だということは事実なんですよね。そうやっているんです。したがって、そういう問題点もある。だから、利点もあるけれどもそういう問題点もある方法についてなぜ認めたのか、その問題点をクリアしてからでも遅くなかったと私は思っているんです。

 そこで、では一方、そういうものを、今お話あったように、つくる側の話で、どういう原理かという話はありました。では、検査する側はどうかという点を少し問いただしましょう。

 一つは、限界耐力計算を審査した例は一体幾つあるのか。二つ目、現在、限界耐力計算を審査できる特定行政庁、指定検査機関はどれだけあるのか。そして三つ目は、建築主事のうち、特定行政庁ですわね、当然、そういうのができるとすると、その中で、限界耐力計算の審査ができる職員は何人いるのかという点について、お答えいただきたいと思います。

○山本政府参考人 確認申請を審査する側の審査体制についての御質問でございますが、特定行政庁の主事のうち、限界耐力計算を的確に審査できる人数ということでございます。これについては、ちょっと手元には数字は持っていないんですが、今回のことがありまして、確認検査を行っている部隊に、構造計算の方法別に、どういうふうな確認を、どのぐらいの数の確認をやったかという調査をいたしました。

 緊急にやりましたので、直近の三カ月、直近の三カ月といいますか、過去の数字でございますので、具体的には十六年の十二月と去年の一月、それから三月、この三カ月分について調査をしまして、方法別に、あるいは構造別に、どういうふうな確認件数があるかというのを調べたんですが、この結果は、調査対象は二百七十一の特定行政庁と百二十四の確認機関に聞いた結果ですが、限界耐力計算の建築確認件数は、特定行政庁が八件、それから指定確認検査機関が百六十二件。ほとんど指定確認検査機関で審査してもらっている、審査件数に非常に大きな差があるということがわかりました。

 新しく導入された方法ということもありまして、申請サイドのいろいろな考えもあって、結果が、こういうこともできているということでございますけれども、大臣からもお話ししましたように、今回の制度の見直しで、構造計算書の審査についても的確にやるように見直していくという考えでございます。

○穀田委員 結局のところ、今私が尋ねた問題でいくと、審査した例というのは緊急に調べた三カ月の資料しかないと。それから、そういうものを審査できる特定行政庁というのは、数字は二百七十一を聞いたけれども、もう一つ、その確かめたところに聞いた話を言っているだけで、何ぼいるのかわからないということですわな、結局。

 それで、主事がどれだけいるかというと、手元に数字は持っていないと。手元に数字を持っていないんだったら、帰ったらあるのかというと、これはないんでしょう。要するに、ないということなんですよ。何か格好よくいろいろ言うんだけれども、要するに全容はつかめていないということなんですよ。ここが問題なんですね。やったばかりだ、そんなことないんですよ。二〇〇〇年に導入しているんですから。

 だから、こういうものを通じて、これは極めてこの問題についての、突然、技術的助言を出したり通知を出したりいろいろしているけれども、やはりこのことがわかっていなかったということなんですよ。

 だから、私は、構造計算プログラムの大臣認定で過信を生んだと。問題点を整備しないままに、要するに、わかっていないわけですから。事態がつかめていない、主事がいるかもわからない、それから、どれだけ件数を処理しているかもわからない、そこの問題点が何が起こっているかもわからないという事態で、つまり、問題点を整備しないまま限界耐力計算方法を導入して、その後もつまびらかにつかんでもいない、こういうことをやって二重の混乱をつくる。この間言いましたように、検査する側は認定プログラムについても持たないし、限界耐力計算のできる体制もおよそない。だから、結局のところ、二重三重にこれはだめだということなんですよ。

 だから、私は、それをあわせて民間開放までしているわけですから、これらが九八年の法改正の中で、私どもは反対しましたけれども、規制緩和で進められたことだと。したがって、この建築確認行政のとんでもない実態がここに見えるということで、しっかり反省すべきだと私は思っています。

 したがって、今回の事件から教訓を学んで、少なくとも私は、建築基準法の内容で、耐震基準の引き上げ、これを初めとして、それから安全を第一とする角度からする建築基準法の見直しが必要だと。そして、建築生産、検査システム、建築行政、制度そのものの根本的な見直しを行って、行政が反省をすべきところは反省して抜本的な再発防止対策を講じる必要がある、この点を指摘して、終わります。