国会会議録

【第164通常国会】

衆議院・国土交通委員会
(2006年3月8日)

 「運輸の安全性の向上のための鉄道事業法等の一部を改正する法律案」の参考人質疑ー第3ラウンド・規制緩和と安全確保問題

○林委員長 穀田恵二君。

○穀田委員 日本共産党の穀田恵二です。

 まず、戸崎参考人と安部参考人に共通してお聞きしたいのは、規制緩和と事後チェックシステムの強化、構築の関係についてです。

 私は、耐震強度偽装問題や鉄道事故にかかわるさまざまな問題を通じて、規制緩和というのは非常に大きな弊害をもたらしているという現実を見ています。

 先ほど来皆さんからお話があったように、アメリカの場合などや欧米の場合などでは、一定の規制緩和は行うけれども、事後チェックシステムを非常に強くしている。例えば事故調査委員会でも、けた違いのそういう体制をとっています。ところが日本の場合には、勧告も建議も出されていますが、その割合たるや微々たるものでして、その意味での実効的な権限その他を踏まえますと、非常に私はお粗末だと考えています。

 ですから、大前提としてお聞きしたいのは、規制緩和と事後チェックのシステムというものの関係についてお二方から簡単にお話しいただければと思います。

○安部参考人 規制緩和をするということは民間の事業者の自由裁量を拡大するということでありますので、その場合には、民間の事業者、私は、最近のこの間、国がやってこられた規制緩和というのは性善説に立っておられるんじゃないかというふうに思いまして、やはり民間の事業者の方すべてが性善説、性善な方であればよろしいんですが、そうもいかないということですから、しかるべく事後チェックの体制をきちっと制度的に構築して、サンプル検査等を強化することによって、ある基準等について守れない事業者が発生した場合にはそれを適切に排除していくという仕組みをつくる必要があろうというふうに思っております。

 それから、規制緩和、特に運輸の現場ですと、私は、タクシー等での規制緩和というのは、規制緩和を適用していい分野と適用してはまずい分野があるというふうに考えております。装置産業のような、通信産業のような分野で規制緩和をやりますと非常に成功すると思うんですが、タクシーのような労働集約産業でやってしまいますと過当競争を生み出す弊害が目につくんではないかというふうに思っておりまして、規制緩和を一律に適用するんじゃなくて、適用すべき分野とやはり適用してはまずい分野というのを分けて、きめ細やかな規制緩和政策ということをとっていくべきじゃないか。

 その点で、国の方も少しこの間の規制緩和の検証作業をされる必要があるんではないかというふうに理解をしております。

 以上でございます。

○戸崎参考人 先ほどの見解とダブりますけれども、やはり規制緩和を行うときの前提条件が変わる、あるいは前提条件が見えないということから、事後チェックというのは必ず必要だと思います。

 一般的な主張では、規制というのはすべて悪いような社会的な風潮になっておりますけれども、今安部参考人がおっしゃられたように、やはり規制をしないと社会的なサービスが供給されないということが交通分野においては多々あります。例えばバスとかそういったところを見た場合に、やはり必要な規制は残していくべきだろうということがあろうかと思われます。

 最後に、労働者の観点に立てば、やはり実験にはしてはいけない。実際にこうした過当な競争の中で生活が成り立たなくなっている人を目の前にして、見直しが四年もおくれているということは、やはりこれは責任とみなされてもいいんではないかというふうに私見として考えております。

 以上です。

○穀田委員 私は、再三この委員会で、安全まで規制緩和してはならぬという立場で発言をしてきました。

 戸崎さんにお聞きします。

 戸崎さんは、経済的規制と社会的規制は不可分なもの、よって両者は余りにもきれいさっぱりと峻別することは問題であろう、さらに、社会的規制、特に安全規制を行うには、それには必要な財源が求められる、その一方で、価格競争が過激化すれば、安全に投資する余裕などなくなってしまうのもいたし方ない面がある、こう言っています。

 ただ、私は、先ほどの前半部分の参考人質疑でもお話をしたのですが、現実は、極めて実態はひどいと。例えば、私が問題にしましたJR西日本は、支社長の方針として、稼ぐ、これが第一に来ていまして、安全は二の次でした。しかも、守るとしている安全の項の中でも、安全を記載した欄にはコスト削減ばかり論じるという現実でした。

 したがって、そこには必要な財源さえも削るという、今ぎりぎりのもうけというところを考えた場合に、そこまで踏み込んでくるという実態があるんじゃないでしょうか。その辺はいかがお考えでしょうか。

○戸崎参考人 確かにそのとおりだと思います。

 何よりも問題なのは、交通というのが特殊なものである背景には、やはり直接安全問題に対してかかわってくるものであるということで、ほかの商品とは違ってくると思われます。一たん安全に対するコストが損なわれれば直接もうそれは死に至るということを考えると、より厳密な安全管理というのが必要になってくる。

 今御紹介いただいたように、そのためには、単に名目的に安全というものをとらえても無理であって、実質的にそれは台数規制なり何らかの、直接的にやはり需給調整規制などの経済的規制を行っていかなければいけないというのが私の持論でありまして、そうしたことから考えて、もう一度、今回安全というものを議論されるのは、やはりこれは交通という非常に直接的に人命にかかわる問題だからこそ、こうしたものが重要であるというふうに考えております。

 以上です。

○穀田委員 戸崎さんは日航に一時おいでになったと聞きましたので、その問題について少し聞きたいと思います。

 日航は、安全アドバイザリーグループということで提言が出されています。その中には、その安全の動機づけの項でこのように言っています。

 安全の動機づけには何が必要なのだろうか。みずからの仕事にプライドを持つことが基本であり、職場における明るい雰囲気と良好な人間関係も大切である。努力と成果が報いられる処遇、人事が行われなければならない。間違っても組合人事や情実人事が行われてはならないし、不公平な人事査定、ボーナス査定は従業員の仕事の意欲を、ひいては安全意欲をそぐことになると指摘しています。

 日航に九つある組合のうち八つの組合が、この項を見ながら、してはならぬこととして提起しているのは、JALの労務政策にあると批判をしているんですね。

 この文章全体の中には、労使に和解と共生の文化を求めているということもあります。そういう今までかかわってこられた方として、安全確保と労務政策についてどうお考えでしょうか。

○戸崎参考人 まことに述べにくい立場ではございますが、あえて申しますと、やはりここに一番の問題点があろうかと思います。

 交通産業というのはどうしても現場に出て厳しい環境の中で作業をするものですから、いかんせん、やはり非常に厳しい、待遇というものに対する要求意識が出てこざるを得ないという背景があります。さらに、専門職が多いものですから、なかなかお互いの疎通が図りにくくて、そうしたところが組合の分裂ということにもつながりかねないというところが難しい背景であり、そこにどのようにして融和の精神を持ち込むかということが大事になってこようと思われます。

 そういったことに伴いますと、やはり本当の危機感を持って、いかにお互いが共有意識を持つのか。

 若干出過ぎた議論かもしれませんけれども、今御紹介された安全改革案というのは非常にそういった意味では抽象的過ぎて、余り安全対策としてはどうかということ、並びに、先ほど来の議論からいうと、そうした安全改革推進のための会議というものの独立性を考えると、もう少しやはりそれは独立した機関によってなされるべきものであったんではないかという私見になります。

 以上です。

○穀田委員 そこで、今度の法律との関係で、トップがこうすればというのが随分議論に出るんですね。私、ほんまかいなと思うんですね。というのは、どこかの社長は一生懸命現場へ行って写真ばかり撮っているというのが随分出まして、私、一度質問したことがあるんですけれども。

 安部さんにちょっとこの点はお聞きしたいんですけれども、JRの福知山線事故に関係して安部さんはこう言っておられます。新型ATSの導入計画は数年前からあったのに、それは数年間放置されていた、しかし、事故後は世論の厳しい批判に遭遇し、JR西日本はわずか一カ月の間に設置工事を完了させた、このように短期間で設置できるのなら、なぜ何年も放置していたのか、しかも、その費用はJR西日本の財務力からすれば微々たるものにすぎなかったと論及しています。私も同感です。同時に私は、早く設置しておれば多くの犠牲者は出なかったのにとの悔しい思いがします。

 そこで、JRの体質問題なんです。安全性向上計画、今実行しているんですね。トップが旗を振っているわけです。だけれども、先般伯備線で触車事故が起きています。支社長はその際、人間はミスするものとの認識に立ったことはなかった、こう言っています。さらに、マニュアルどおり対応していれば事故は起きなかった、こう言っています。

 トップが旗を振っているんだということだけに済まない、現場から物を見るということが大事だと思うんですが、安全観の依然としたゆがみを感じるのですが、いかがでしょうか。

○安部参考人 私たちの社会、大変に失礼な言い方で申しわけないんですが、私たちの社会というのは、やはり一歩一歩でしか改善、改革されていかないというふうに私は認識しております。ですから、今回、高木委員が言われましたように、私は、欲を申せばもっと申し上げたいことがあるんですが、これまでの法律体系よりも一歩前進しているというふうに思っておりまして、それで賛成をしておるわけであります。

 JR西日本の問題でいいますと、事故前というのは、実は技術系の方というのは発言力はありませんで、安全の重要な問題が実は、私の調べたところでは、ほとんど役員会で議論されないような状況にあったわけです。安全学で一つの常識として言われますのは、トップになるべく近い人たちが、安全の重要性を運輸企業の場合は認識をして、それで役員会で絶えず議論するような、そういう風土をつくり上げれば随分安全性のパフォーマンスが上がっていくということが実証されておりまして、いかんせんJR西日本の場合はそれがなかったということでございます。

 その後、今山崎さんという副社長が、当時副社長に抜てきされて、今度社長になられたんですが、技術畑の方ですね、少しJR西日本の考え方を変えようというふうに努力をされているわけです。まだ不十分ですが、私は一応そういう形でそういう方向に動きつつあるのではないかというふうに見ておりますので、トップがかわったからといってそれがすぐ現場にどう伝わるのかということで、なかなか微妙な問題、すぐにはなかなかいかないんじゃないか。ただ、やはり生まれ変わっていただかなければいけませんから、私はこれからも批判を続けようというふうに思っております。

 もう一つ、トップと働いている方たちの意思疎通、フラットな関係、安全をめぐるフラットな関係というのも非常に重要でありまして、トップの認識と職場が非常にフラットであるという、この二つが運輸事業者の組織としては必要な要件だというふうに思っておりまして、これがJR西日本の中でどういうふうに今後構築されていくかというのに私は注目しておるところでございます。

○穀田委員 私、フラットという問題でいいますと、個人と個人というのは、社長と社員というのはなかなかそうはならぬと、この間言いましたように。それで、やはりそういうときは、労働者の代表である組合というのが大事なんだということを一つ私としては思っております。

 そこで、前の航空法の改正の際に、附帯決議がついたんですね。航空運送事業者の持ち株会社の経営、財務状況の健全性を確保し、航空の安全と公共性の維持が図られるよう、持ち株会社に対する適切な指導監督に努めることと、こうなっているんですね。これは、今大事なことでして、持ち株会社や投資ファンドなどへの航空法や鉄道事業法の適用をどう考えるか。一言で、安部さんに。最後、大前さんに聞きますので。

○安部参考人 持ち株会社は企業の戦略として採用されるものですから、私は、こういう形態をとることが、実際のある経営判断の中で採択されますから、このことが直接、運輸の安全に大きなというか直接的な関連をしないと思います。この持ち株会社そのものよりも、むしろ実際の運行の現場に携わっている実務をやっている会社、例えばJALを例にしますと、JALの持ち株会社ではなくてJALのインターナショナルの方ですね、実際の運航をしている、ここの実際の組織のあり方と安全パフォーマンスというのがより問題ではないかというふうに思っております。

○穀田委員 そこは、もっと、非常に重要な問題があると私は思っています。

 最後に、大前参考人に聞きます。

 やはり、現在は、重大事故やインシデントに至らないヒヤリ・ハットなどの情報を収集、分析することが事故再発防止に極めて有効であるということは各方面から出されています。相次ぐ航空機の事故を受けて、航空輸送安全対策委員会が八月、国の情報収集、それから分析のあり方を制度面を含めて検討することとして、自発的報告者への配慮の検討などを提言しています。

 議論の経過について、実際に参加された参考人に考えを最後に聞きたいと思います。

○大前参考人 お答えします。

 事故とかインシデントにとって極めて重要なのは、やはり一つの不幸な出来事があったときに、それを一人じゃなくて、多くの人たちが共有する、一社だけでなくて多くの会社が共有して、それに対して的確な対策を早期に講じて、お客様の御不幸をなくす、けがとか亡くなることを防ぐということが目的ですので、そのために報告が極めて重要ですから、その報告の目的がしっかり達成できれば、やはり、そのためにいろいろな諸条件を乗り越えていかなければいけないと思いますので、そのための整備というのは、これから細かいことを決める上でまた検討していったらよろしいかなと思っております。

○穀田委員 ありがとうございます。