国会会議録

【第164通常国会】

衆議院・国土交通委員会
(2006年2月24日)

 国土交通委員会は、国交大臣の所信にたいする質疑。私は、国民が安全・安心な住宅を選択できる建築行政への転換を求めた。


○林委員長 穀田恵二君。

○穀田委員 耐震偽装の問題についてまたやりたいと思います。

 この間、福岡での偽装物件、そして熊本、横浜での強度不足物件など、非姉歯物件の拡大で、国民の建築物の安全に対する不安は深刻度を増しています。そんな中で、再発防止策を中心とした社会資本整備審議会建築分科会の中間報告が出されました。これを踏まえて、若干きょうは問題提起しながら、北側大臣と少し議論を深めていきたいと思っています。

 私はこれまで、偽装や強度不足の構造設計を生み出す背景には二つあると言ってきました。一つは検査機関の民間開放による規制緩和の問題と、コストダウン競争があるということ、二つをずっと言ってきました。

 コストダウンでいいますと、それが構造建築士へのコストダウン圧力となっていること。そのもとで、この間、いろいろな参考人質疑や、さらには証人喚問などで出てきたのは、いわゆる経済設計と呼ばれています、建築物の安全性を軽視し、建築基準法ぎりぎりの、いわゆる限界設計とか、ぎりぎり設計というものが常態化していることを指摘してきました。非姉歯物件の発覚、拡大で、この実態が浮き彫りになっているんじゃないかと私は考えます。

 まず、耐震基準すれすれ、ぎりぎりの設計がもてはやされている建築業界の実態について大臣はどのようにお考えか、お聞きしたいと思います。

○北側国務大臣 建築基準法というのは、これは最低限の基準を規定しているものでございます。消費者、需要者、住宅を取得する側からしましたら、安全性は高い方がいいに決まっているわけでございまして、そういう意味で、これは、あくまで建築基準法というものは最低限の基準を示しているだけでございまして、より安全性が高くて、そして長期に使っていくことができるような良好な建築ストックを形成していくということが私はやはり大事であるというふうに思っておりまして、そういうよりよい建築が生産される仕組みというものをしっかりと整備をしていかないといけないということを痛感しているところでございます。

○穀田委員 おっしゃるとおりで、建築基準法というのは最低基準なんですよね。ところが、そう思っていない、ギャップがあるということをいろいろ述べているのが、ここにあります構造計算書偽装問題に関する緊急調査委員会の報告などでも書かれています。

 そこで、私は、今、経済設計というものがやられている建物自身は、ほんまに安いのかということと、もう一つは、ほんまに安全なのかという、二つの面から考える必要があると思うんですね。

 まず、建築物のコストについて、経済設計によって建築物の初期の建設コストが低廉だったとしても、改修、補修費用、老朽化による建てかえ費用など、トータルに建築物の寿命を考えると、総費用は高くつくんじゃないかと私は思うわけです。

 今お話しした大臣の諮問機関である緊急調査委員会、この報告書によりますと、5というところで「建築ストック重視社会への転換」、いわゆるスクラップ・アンド・ビルドの体質から脱却する必要があるということで、建築ストック重視社会への転換ということを言い出し始めています。これは重要な提起だと思うんですね。

 この中には、建築物の長寿化、今大臣も長期によりよい建築がとありましたけれども、「長寿化のために、建築の初期コストは高くなっても、耐用期間の長期化により一年当たりのコストは低減する。」と八ページに書いています。これは、そのまま動いた場合なんですね。外から何か地震があったとかがなかった場合の話であって、これは、さらに地震の影響を考慮した場合には、例えば地震による倒壊は免れたとしても修復が必要となれば、その費用はさらに加算をされるということになりますよね。

 それで、調べてみますと、日本建築構造技術者協会、いわゆるJSCAの試算によると、「耐震性を基準法水準の設計から免震設計にグレードアップしたマンションの場合、建設費は一〇%高くつく。しかし、耐震のグレードが上がるほど大地震後の修復費用は少なくて済み、建設費と修復費の合計は二〇%程度安くなる」、こう述べています。

 国交省として、こういう建築物のコストを試算しているでしょうか。

○北側国務大臣 今の委員の御指摘は大変重要な御指摘だと思うんですが、ちょっと具体例を私も申し上げたいと思います。

 鉄筋コンクリートの七階建てで六十戸の集合住宅につきまして、通常の集合住宅の場合と高耐久性集合住宅というのとを比べてみますと、高耐久性集合住宅の方が三%程度コストは増加するわけでございますけれども、通常の集合住宅ですと六十年間の使用期間、高耐久性集合住宅では百年間使用できるということが言われておりまして、そうすると、一年当たりに要するコストというのは、むしろ高耐久性集合住宅の方が七割程度しかならないというふうな試算もございます。

 また、耐震度についての基準でやりますと、住宅性能表示制度で耐震等級が二の住宅は一・二五倍の力の地震にも耐え得る、そして耐震等級三の住宅は一・五倍の力の地震に対しても経済的価値が損なわれない。より長い期間、大きな地震にも耐えられるものでございまして、これは建物のライフサイクルコストという観点から見た場合には、むしろコストは安く済んでいるというふうに言えると考えられます。

○穀田委員 今の試算は国交省のものかどうか、それはちょっと私も聞き漏らしたので。

 そういう計算がされていることは事実でして、今、LCCといいますか、ライフサイクルコストという問題の考え方が一つ大きな流れになりつつあるということは重要だと思います。その点は、今述べました緊急調査委員会の中間報告でもこれまた別なところで書いていまして、八ページには、何世代にもわたって使えるような建築資産を形成することによって、今回の偽装事件の背景にあると見られる建築費の不当なコストダウンなどの慣行が是正されると考える、こういうことまで書いているんですね。

 私は、今お話があったように、どういうサイクルで物を考えるかということでいうと、重要な示唆が今この報告を含めて出てきているし、共有できると思うんですね。やはり、ヨーロッパなど外国の建築物の考え方も、百年の維持ないしは何代かにわたって保有を前提としています。今、大臣はその例を一つ具体的な事例を引いてやりましたけれども、私は、そういう点を、長期的視点での研究、啓蒙を政府としてしっかり進めるべきだと思っているところです。特に、経済設計という形でコストダウン競争を進める市場を放置したり、むしろ建設コスト低減をあおったりする、これが政府の仕事ではないと思うんですね。

 私は、この間、非常に考えているんですけれども、九八年の例の建築基準法改悪のときにその点を我々は指摘したわけですわな、安かろう悪かろうという。検査の点でもそんなことになったら大変なことになると言ったわけですけれども、やはり今、国民、消費者が目先の安さではなくて、トータルとして安くて、しかも生涯生活の基盤とする住宅の取得をより安心なもの、安全なものを選択できるように支援する。つまり、啓蒙し、宣伝し、支援するという方向にいよいよ行くべき時期が来ているんじゃないかと思っています。

 そこで最後に、もう一つの点ですけれども、安全かという問題を少し議論したいと思うんです。

 福岡の例の偽装疑惑で問題になっているサムシングの元社長は、書類は差しかえたけれども結果として耐震性は満たしていると言っています。あるいは、熊本の建築士は、再計算の方法がおかしい、耐震性は満たしていると反論しています。ところが、いずれもこの満たしているという言い方の中心は、保有水平耐力一・〇という建築基準法に定められた基準です。

 そこで、また引用しますけれども、緊急調査委員会の中間報告には、一番最初に私は言いましたけれども、建築物の安全性についての認識のギャップがあるということを指摘していまして、建築基準法の基準は、先ほど一番最初に私がお聞きした際に大臣がお答えになったように、建築物の安全性の最低基準なんですね、であるけれども、国民の間には、建築確認がおりた建築物であれば安全性は十分であり、それ以上の安全性は過剰なものだというような誤解もある、こう述べています。また、その後ろの方で、販売業者も、形式的に建築確認さえ通っていれば、実際に安全性に問題があっても責任がないかのような風潮が見られる。これはこの間の議論でありましたよね。通ったものをなぜ建てさせないんだという、全くそういう破廉恥な話がありましたけれども、そういうことがあります。

 したがって、基準法の基準さえクリアしていれば本当に安全なのかという問題についてお答えいただきたいと思うんです。具体的には、現在の建築基準法の耐震基準、保有水平耐力一・〇というのは建物に対してどんな影響を与えますか。

○山本政府参考人 五十六年に導入されました新しい耐震基準の考え方でございますけれども、これは、めったに来ない著しく大きな地震、具体的には、震度でいいますと震度六強とか震度七という地震に対して、その建物が倒壊したりあるいは完全に崩壊したりはしない、持ちこたえる、そういう力を持った建物である、そういう地震に対する耐力を検証する指標でございます。

○穀田委員 だから、ちゃうねんね。持ちこたえるというのは建物が持ちこたえるだけであって、要するに、説明で言うと、もう少しきちっとしてもらわなあかんのやけれども、建物が損傷を受けても倒壊しなければ住民の命は保てるという考え方なんですね、これは結局。

 しかし、大事な問題は、倒壊せず人命は保護するけれども、構造体には大きな損傷を受けるということなんですね、裏返していくと。つまり、持ちこたえるというと何かええように聞こえるけれども、先ほどの話で、最低基準という話をするじゃないですか。同じように、持ちこたえると聞くと何かええみたいに聞こえるけれども、実質そうじゃないんですよ。倒壊しないし住民の命は保たれるけれども、構造体には大きな変化を受ける、余震による倒壊の危険性がある。したがって、何が最終残るかというと、住居としての機能の完全回復は困難になる、ここが肝心なんですね。ここを見ないとだめなわけです。

 分譲マンションの購入者というのは被災後も生活できることを当然望んでいるわけで、命を守るというだけじゃなくて、生活していける建物を守ることを期待しているんですね。だから、私は、先ほど言いましたように、国民の中に最低基準だということがまず理解されていない、ギャップがある。つくる側は、これを満たしているんだからいいじゃないか、そういうギャップがあるということをしっかり踏まえてきちんと説明すべきであると思っています。それを私は、阪神大震災や中越大震災で、損傷が少なくても内部の医療設備が壊れてしまった病院を幾つも見てきたから、そのことをどうしても言いたいんです。基準法に従っただけの設計では不十分なんだということを私はきちっと据えるべきだと考えています。

 そこで、東京都を初めとして幾つかの自治体で、基準法が定める地震力の一・二五倍の割り増しで設計する指針などで行政指導していると言われています。東京のような独自の上積みを指導している自治体はどれぐらいあるか、また実際にはどれだけ守られているか、お答えいただきたい。

○山本政府参考人 私どもが把握している限りでございますが、東京都を初め、神奈川県、横浜市、静岡県、愛知県、名古屋市、福岡県、福岡市と、人口が集中している地域、あるいは大規模地震が切迫しているという地域において、公共団体が行政指導によりまして、建築基準法が求める地震力に上乗せして地震力を求めているということでございます。これは、建築確認過程でこれを求めているということでございます。

○穀田委員 建築確認過程で求めているわけですが、東京では、都内では敷地が狭小で変形しているようなところに建てられる建築物が少なくないということから、独自に、鉄筋コンクリートづくりで二十五メートルを超える建築物については、基準法が定めている地震力の一・二五倍の上乗せを指導している。今お話のあったように、福岡もやっているんですよね。サムシングの物件の多い福岡市でも、東京に倣って一・二五倍でやっている。

 今回の事件を受けて大切なことは、建築物の安全性、耐震強度をどうやって確保するかだと思うんですね。したがって、新しい中間報告を、問題を得ましてさまざまな改善がなされる、それは当然なんですけれども、さらに踏み込んで、私は、建築基準法の基準そのものを引き上げるべきではないか。そして、せめて地方自治体の上乗せを指導にとどめず条例化するなど、促進すべきではないかという点を政治家としての大臣にお聞きしたい。

○北側国務大臣 まず、建築基準法というのは最低限の基準であるということをやはり国民の皆様にもよく知っていただく必要がある、そういう努力を私どもがしっかりとしないといけないというふうに私は思っております。今委員がおっしゃったように、新耐震基準を満たしていても、震度六強以上の地震が起これば柱やはりに一部損傷が起こるわけでございまして、そういうことをよく知っていただく必要があるというふうに思っているところでございます。

 そういう意味で、法律の基準をもっと上げろという御議論については今後よく検討させていただきたいと思いますけれども、各地域地域で各県や市が上乗せの規制をしているというところについては、今委員がおっしゃっているように、やはり条例で規定をしていくことがふさわしいというふうに考えております。

○穀田委員 とても大切な答弁をいただきました。

 上乗せについてはやはり条例化してやっていくということと、同時に、検討と言いましたけれども、やっているところに対して、指導をやっている内容を上乗せして条例化したらどうだと、ここまで言うんでしたら、国もまともにそういうことでやるというぐらいのことが必要だと私は思うし、そういう時期に来ていると思うんですね。建築基準法の、特になぜ九八年の改正問題になったかというと、阪神大震災を受けてやったわけですよね、一つの側面は。そのときに、最低の基準を定めるというんじゃなくて、もう少しきちんとした基準を定めるというところに行く必要があると私は考えます。

 そこで、総括的にずっと見てみると、今お話しした問題について、やはり建築主など事業者がコストダウンを図るためにさらに早くて通りやすい検査機関がもてはやされるということだとか、大臣認定によって、つくる側にもずさんな設計ができる仕組みをつくっただとか、この間、るる指摘してきたところです。ですから、私は、今後、建築行政全般についてもう一度、あれは中間報告ですから、もちろん今度の建築基準法改正問題をめぐっていろいろ議論されるでしょう、だけれども、安全性をどうしたら担保できるかという幅広い議論を我々としてもしていきたいと考えています。

 終わります。