国会会議録

【第162通常国会】

衆議院・国土交通委員会
(2005年4月26日)

 横浜国立大学大学院工学研究所の小林重敬教授、東洋大学工学部の内田雄造教授が意見を述べ、その後質問を行った。

○橘委員長 穀田恵二君。

○穀田委員 昨日の列車事故は本当に大被害になっています。亡くなられた方々に心から哀悼の意を表し、被害に遭われた方にお見舞い申し上げたいと思います。今後、補償の問題や事故の原因究明、再発防止など、当委員会としても必要な対策をとらなければならないと思っているところです。
 きょうは、両先生、参考人として御出席いただきまして、本当にありがとうございました。私、端的に両先生にお伺いしたいと思います。
 住宅金融支援機構法案を含む住宅関係三法案は、ことしから来年にかけて政府の住宅政策を大転換する方向に沿って、その一環として提出されたものです。政府はこれまで、住宅建設計画法を中心に、公営住宅、公団住宅、金融公庫融資住宅を三本柱として、量的確保と質的な向上を基本に進めてきました。しかし、九六年の公営住宅法の改定以来、新規建設の抑制と入居資格の所得制限強化が進められ、さらに二〇〇〇年以降には、公団住宅が分譲賃貸住宅の建設を中止し、さらに民間住宅供給の支援に傾斜する中で、二〇〇四年七月、都市機構になり、住宅部門からの事実上の撤退方向を強めていると私は考えています。
 このような政府の住宅政策の転換方向が国民にとってどのような影響があるのか、市場に任せて大丈夫なのか、マイナス面はないのか、こういう点について、きょうは両先生に率直にお聞きしたいと思います。

○小林参考人 お答えさせていただきたいと思います。
 やはり極めて基本的な御質問で、どこからお答えしていいか私もちょっと戸惑っておりますが、最近の市場重視という住宅政策の大きな柱、それはあわせてストック重視という議論がございますが、今、例えば私がかかわっている住宅宅地分科会では、市場重視であるからこそ、セーフティーネット政策をそれに対応して十分やっていかなければいけないのではないか、精査してやっていかなければいけないのではないかという議論がなされているところでございます。
 冒頭から私が申し上げましたように、今日のセーフティーネットというのは本当に何なのかということから議論を始めようと。市場重視の中で、その中で救われない方々がいろいろな形で生まれてきているのが現代ではないか。先ほど内田先生のお話もございましたけれども、現在の収入面から考えられている公営住宅の運用のあり方は、ある面で公平性を欠いている部分もあるというふうに私も思っておりまして、そういうことを十分精査すると同時に、新しいセーフティーネットを必要とする多様なニーズに対応する住宅政策を進めるというのがこれからの新しい住宅政策のあり方ではないかというように考えておりまして、まさにその議論をベースに、先ほど申し上げました昨年末の中間取りまとめを分科会として発表させていただいたわけでございます。
 さらに、今、住宅建設計画法を新しい法に組みかえる必要があるということで、どのような法に枠組みとして考えていったらいいかという議論が分科会で始まりつつございます。その中でもセーフティーネットの議論がさまざまに展開してございますので、そのような議論の中で、しっかりと新しい時代のセーフティーネットについてこれから議論させていただきたいと思っております。
 以上でございます。

○内田参考人 今議員からもお話がありましたように、これは非常に基本的な問題だと私も思っております。
 ただ、今までの公営、公団、公庫という三本柱が現実の社会の中で十分機能しなくなっているというのも歴史的な事実だというふうに私は思います。例えば、人口も減少する、少子高齢化が進む、都心回帰が行われるという中で、今までとは違うさまざまな住宅困難、居住の困難が生じてきたり、新しい動きがあるということだというふうに思います。
 そういう中で、私も、日本の場合、市場メカニズムを重視して、市場メカニズムがいかに円滑に働くかという問題、それを国なり自治体は整備していくという問題と、もう一つは、セーフティーネットを整備して、いざというときに安心できるような施策を整えるということが必要だというふうに思います。
 確かに、あるいは議員がおっしゃりたいのかもしれませんけれども、住宅基本法なり住居法なりをどう考えるかという問題がございます。例えば日本の今までの住宅建設基本法の場合には、最低居住水準なり誘導居住水準なりがありますけれども、これは何ら法的な意味を持っては、全然持っていないと言うと語弊がありますけれども、非常に弱いと思うんですね。それに対して、イギリスなどのハウジングアクト、住居法の中での居住不適格という概念は、基準に値しないということで政府が融資するか、あるいは公的な住宅をあっせんするかというふうなことが行われるわけで、いざとなれば居住禁止を命ぜられるというふうな非常に強いあれを持っているわけでございます。
 ですから、私は、あるべき姿として、そういうふうな一人一人の住宅の質を確保するというのは必要だと思うんですけれども、同時に、例えば先ほど申しましたように、今の公営住宅がどういう問題を抱えているかというふうなことをちゃんと解決しない限り、市民的に今住宅基本法をつくろう、あるいは住居法をと言っても、今の不公平をどう考えるかというところをちゃんとやっていく必要があるのではないかというふうに思っております。
 以上でございます。

○穀田委員 ありがとうございました。
 ただ、公営住宅法で述べられている趣旨は、「健康で文化的な生活を営むに足りる住宅を整備し、これを住宅に困窮する低額所得者に対して低廉な家賃で賃貸し、又は」ということを目的としているわけですね。これは憲法第二十五条の生存権規定を受けたものであって、その責任は国及び地方自治体にあること、このことは踏まえておかなければならない問題だと私は思うんですね。事実、そういう三本柱の中で起こっている住宅政策の中で、柔軟性に欠ける、さらにはニーズの把握の弱点がある、これらについては当然のことだと思うんです。
 ただ、皆さんがおっしゃる公平性という場合に、私は、ではこの理念どおり、住宅に困窮する低所得者層に足りているかどうかということをまず見る必要があるんじゃないだろうかと。先ほども内田先生からお話があったように、入居資格のある世帯数というのは約二百万ぐらいある。この間も、審議の過程で約百七十万以上はあるだろう、こういうふうにおっしゃっていました。
 したがって、私も同様の意見でして、現実に今、九六年以降、御承知のとおり、公営住宅についてはほとんど建てられていないという現実があります。私は、依然として建設も重要だという意見なんです。ストックについてどのようにこれを有効に活用するかという問題も大事だけれども、公平性の問題でいうならば、あまねくそういう方々の要望にこたえ得るだけの措置をどのようにとるか。それは全部建てるということじゃないですけれども、建てながら、なおかつ、先ほどありましたように、家賃補助の政策を含めて、全体として、この健康で文化的な生活を保障するという理念に基づく施策が必要だ。
 その意味で、私は、九六年以降ほとんど建てられていないという事態自身について問題がある、したがって依然として建設も重要じゃないかと思うんですが、その辺、お二人はいかがでしょうか。

○小林参考人 私は、基本的には、現在ある公営住宅をどのように有効に使えるかということをまず考えるべきだというふうに思っております。
 先ほど内田先生がおっしゃった、公営住宅が本当に困窮する世帯にしっかり供給されているのかというところについて、やはりしっかりチェックすべきではないか。例えば、資産の問題はどうなのか。あるいは、二五%という収入基準が、民間賃貸住宅に入られている方の状況と比べてその基準自体が本当にいいのかどうか。あるいは家賃の問題ですね。家賃の水準が、これも内田先生のおっしゃるように、現在の公営住宅の家賃というのは必ずしも市場家賃ではありません。非常に低廉な家賃しか徴収していないというのが実態でございます。
 大分前になりますけれども、現在の機構住宅、当時は公団住宅と言っておりましたが、そこに入っている入居者の団体の方が、隣に都営住宅がある、同じ市場家賃なのになぜこんなに違うんだということを指摘されました。それは、現在の機構住宅はそういう意味でまさに市場家賃なんですが、都営住宅は市場家賃とはいいながら実際はそうはなっていない。二割から三割の違いがあるということです。それをしっかり家賃として、やはり市場家賃をベースにして物を考える方向に持っていくというような、さまざまな仕掛けが必要だろうと思っております。
 それから、先ほど、例えば都営住宅の倍率が三十倍だと。実態は確かにそうなんですが、例えば都営住宅とほかの住宅とそれぞれに、区営住宅があるとすると区営住宅に応募しているというような方がいらっしゃると、それによって倍率が二倍になってしまうとか、例えば神奈川県なんというのはその典型的な例なんですけれども、県営住宅と市営住宅にそれぞれ応募していると、実質三十倍だけれども実態はその半分以下であるというような状況がないわけではないということを考えると、本当に困っている人が現在の公営住宅のストックでどこまでカバーできるのかということについては、しっかり制度的にも、それから実態的にも精査して、その上で本当に問題があるならば、場合によっては家賃補助というような議論も十分あり得るのではないかというふうに私は思ってございます。
 以上でございます。

○内田参考人 私も豊島区で住宅審議会の会長を務めまして、そのとき一生懸命情報開示に努力したんですね。かなりいろいろな問題が明らかになった。ぜひ、同じように情報を東京都レベルで、あるいは国のレベルで開示していただきたい。そうすれば、問題はもう少しクリアに見えてくるんじゃないかというふうに思っております。
 大体、現在、単身者を除いて、公営住宅に入居したいとおっしゃっていて、かつ入居資格がある方が二百万世帯ぐらいあるだろうと言われています。それは、今後、今のままだったらもっともっとふえていくだろうというふうに思います。というのは、一度入ったらもうほとんど動かないわけですね。
 そういう中で、議論になるのは、例えば五十戸なり百戸なりつくりたいというふうに、私もそう思うときがあるんですけれども、でも、それが有効に活用できるのかというと、今のままだったら、またそれもだれかが入ってそのままでもう表には出てこないというふうな状況になっている。そうだとすれば、小林さんが言われたように、ストック活用をどういうふうにやるか、現在はどうなっているかということを言わないと、新しくつくってほしいという、ある面ではもっともな御議論だと僕は思うんですけれども、それも非常に迫力を欠いちゃうんじゃないかというふうに私は思います。
 それからもう一点、ちょっとこれは視点が違うんですけれども、例えば今、国によって一律に応能応益家賃のシステムが決められておりますけれども、これももう自治体ごとに変わっていっていいんじゃないかというふうに思います。
 例えば、介護の問題に関しては、結果的にどれだけお金を払うかによって違っているわけですね。ですから、私の県はあるいは私の市はこういうふうな水準を保障するかわりに費用はこのくらいかかりますというふうに変わってくるわけですけれども、同じようなことが、私のところは住宅はこういうふうに頑張ります、そのかわりこうですというふうな、例えば住宅の目的税なんかも含めて、もう少し自治体ごとの裁量権を認めていいんじゃないか。そういうことをやってくれれば、随分いろいろな可能性が生じるんじゃないかというふうに思っております。
 以上です。

○穀田委員 私も、今お話もありましたけれども、情報開示の問題というのはとても大切だと思っています。それと、地方自治体による裁量権という問題も、これも当然のことだと思っています。それが弊害になっている事態をつくり出しているということが、いろいろな困難に一層拍車をかけていると考えています。
 ただ、先ほど両先生もお話があったように、今後ともこういう対象者がふえていく可能性がある。社会資本整備審議会住宅宅地分科会の中でも、例の、きょうもお話がありましたけれども、子育て世代、DVの被害者、それから外国という形がふえる可能性があると。ですから、そういう意味では、必要なものは建てる必要がある、同時に有効活用もする必要がある、二つ柱があると私は考えています。
 ただ、実際、地方自治体などでは、皆さんかかわりになっているところでもあるわけですが、多様な居住ニーズに対応するには市場機能を有効に活用することが最も効率的だ、こうしていまして、これまでの市営住宅等の公共賃貸住宅の供給を中心とした政策から、市場の活用を重視した政策への転換が必要だ、こういうふうな論が随分多くなりまして、実際には、住宅等の供給をやめよう、市場任せにしようと。では、そういう問題について、住宅補助なんかもするのか、家賃補助するかというと、そうでもないんですね。
 したがって、やはりどうも、下を見れば、上を見ればという議論はありますけれども、そういう論で、全体として市場任せにするという形が私は経過として強いような気がします。だから、それはちょっとまずいという意見なんです。
 最後に、お二人が都市づくり、まちづくりの問題についても言っていますので、その点だけ簡単にお答えいただいて。
 私は、多様性をいかに包み込むかという問題があると思うんですね。つまり、今まで出ていましたように、お年寄りだけとか低家賃だけとか、それは確かに、全体としての都市のバランスやあり方からして、とても大切な問題としてはらんでいると思います。ただ、その場合、コミュニティーの維持の問題にしましても、住居が核です。したがって、その際に、弱者対策をどうするかという点での、市場とそれから行政の役割、ここの点は非常にバランスというのが大事だと思うんですね。したがって、その点だけ、少し将来的な政策的展望についての礎石の点を、お考えを提示いただければと思っています。両先生に。

○小林参考人 適切なお答えになるかどうかわかりませんけれども、まちづくりの面で、例えば公共が提供している公営住宅団地がその地域の中にある、その周辺の地域の人たちが今何に困っているかということをいろいろお聞きすると、例えば、周辺の地域は古くからある住宅地で、新興住宅地であれば、そういう方が、そういう町内が集まる町内会なんか持っているんですが、集まる場所がない。あるいは、公営住宅団地の周辺にある小さなマンションで、管理組合を結成して集まりたいと思っても、小さなマンションは集会する場所がない。そういう場所を、例えば公営住宅の集会所を使わせてもらえないかという議論があります。
 これは非常に小さな議論なんですけれども、しかし、公営住宅団地と周辺の地域との交流を初めとして、ソフトなまちづくりに公共が用意した住宅団地を活用するという意味では、大変意義のある活動ではないかと思っておりまして、そのようなことがうまくできる運用ができたらなというふうに考えております。

○内田参考人 私は、住宅というのは国民生活の基盤ですし、そういう面で、住宅への公共投資をもっとふやしてしかるべきだというふうに思っております。
 ただ、現場の例えば住宅行政の担当者なんかが、もう公営住宅をつくる気がない。なぜそういうところに追い込まれちゃったのか。要するに、もう公営住宅のシステムがパンクしている。要するに、幾らつくっても全然セーフティーネットとしてうまく機能しないで、どんどんどんどんストックがふえていくだけというふうな状態をやはり国としてぜひ考えていただきたい。そういう中で、住宅のパイをふやして、公共投資のパイをふやしていただきたい。
 それと同時に、一方では、公営住宅なり公的な政策にあずかれない層に対して、いかにアンブレラを広げていくかということを考えていただけたらというふうに思っております。
 以上です。

○穀田委員 どうもありがとうございました。