国会会議録

【第162通常国会】

衆議院・国土交通委員会
(2005年3月18日)

 「公共工事の品質確保には、元請が下請け、孫請け、労働者に負担を強いる建設業界の重層的な構造のもとで、実際に工事を行なう現場の実態に着目して改善することが重要なのだ」と指摘。「直接、公共工事を施工する事業者の対価、及び作業に従事する労働者の賃金、労働時間等の労働条件を適正に確保すること」の文言を入れる修正案を提案したが拒否されたため、不十分さを指摘して反対。

○橘委員長 穀田恵二君。

○穀田委員 公共工事の品質確保が必要なことは当然です。現在、入札契約適正化法、公共工事の入札及び契約の適正化を図るための措置に関する指針などで公共工事の品質確保のための努力は行われています。問題は、その運用にある。それと、品質を低下させる実態、手抜き工事などが発生する要因にメスを入れることが必要だと私は考えます。
 背景の一つに、建設業界の特徴である重層的な構造があります。大手ゼネコンなど元請が下請、孫請労働者等に負担を強いている業界の実態が公然と語られています。元請が下請等にコスト削減を要請し、下請は仕事を確保するために原価割れしてでも受注したり、低コストを補うために孫請にさらに低コストで発注させたり、原材料費や労務費を削ったり、どんどん下にしわ寄せしていく。そして、直接工事を施工する事業者は採算がとれず、作業する労働者は賃金や労働条件が適正に確保されない。このことの改善は急務だ、実際に工事を行う現場での実態に着目して改善をすることが品質確保の重要なポイントだと私は考えます。
 そこで、現状を確かめたい。公共工事設計労務単価は九七年以降どうなっているか、お答えいただきたいと思います。

○丸山政府参考人 一九九七年以降の調査対象である五十職種の平均単価、一九九七年度は二万三千二百九十五円でございました。三年後の二〇〇〇年が二万二百二十九円、二〇〇三年が一万八千三百五十六円。二〇〇三年につきましては、対前年度比でマイナス三・九%ということになっております。

○穀田委員 労務単価がどんどん下がり続けている、大変な実態です。
 実はそれだけではないんです。実際に支払われている賃金はさらに低い。厚生労働省が発表している屋外労働者職種別賃金調査によると、建設労働者の賃金の推移は、規模が五人から九十九人のところで、一日一人平均現金給与額は一万三千円台を連続していまして、これも下がっています。この比率を考えますと、公共工事設計労務単価の六割から七割で推移している。一万三千円台ですから、当然そうなります。労働組合の調査でも、労務単価の七割から八割だという結果が出ています。そして、平均収入で四十歳代で三百七十八万円という結果も出ています。
 毎年下がり続け、仕事もなくなるような状況に今直面している。直接工事作業に携わる労働者が生活にも事欠く賃金では、いい仕事ができません。ここにきちんとしたメスを入れなければ、本質的な品質確保にはならない。
 そこで、私は今度議論になる公共工事品質確保法提案者に、直接公共工事を施工する事業者の対価及び作業に従事する労働者の賃金、労働時間等の労働条件を適正に確保することの修正提案を行いました。ところが、直接的に発注者に対して労働条件に係る新たな適正義務を課することとなり、発注者にとって過大な責務となってしまうという拒否回答がありました。
 政府は、この点、同じような見解を持っているのか、確かめたいと思います。

○峰久政府参考人 発注者として、いろいろな制度的な中で、元請の方とどういう形で対応していくかということについては、当然いろいろ発注者としての責務はあろうと思いますが、元請、下請の関係につきましては、先ほど御答弁がありましたような建設業法あるいはいろいろな賃金の関係の法令に基づいて行われるものである。発注者としても、違法な行為等がありましたら、当然発注者としての指名停止等の措置をやりますけれども、基本的に元請、下請関係は建設業法、あるいは単価の問題等につきましては厚生労働省も含めまして対応すべき問題だというふうに考えております。

○穀田委員 全く答えていない、わかっていないと思います。
 つまり私が言っているのは、こういう入札制度にかかわって、いつも結果的に一番、要するにさかのぼって下の方から見ようという提案を私はしているわけですね。それが、今までもこれらの品質確保や入札にかかわる議論のときに必ず附帯決議にまでされた内容を私は入れようと提案した。ところが、発注者にとって過大な責務となってしまうという見解の表明があった。その点いかがかと私は尋ねたんです。
 この予定されている法案にもあるんですが、少し直っていまして、「請負契約の当事者」という書き方をしているんです。だけれども、下請、孫請や労働者への責任が明記されているわけじゃないんです。「各々の対等な立場における」と案文上書かれていても、対等な立場に立てないからこの問題が常に生じてきたわけですね。しかも、発注者は、およそ公共事業として税金で賄われるものであって、末端できちんと適正にやられることに対して責務を果たすのは当たり前だということを私は見解として述べておきたいと思います。
 そこで、全建総連など建設関係労働組合を初め公共事業にかかわる労働者団体などが、全国で、公契約法、条例の制定を目指して運動しています。公契約法は、国や自治体が公共工事や委託事業を民間業者に発注する場合、この事業に働く労働者の賃金を適切に確保させる制度です。
 なぜこれが大事かということは、今述べたとおりです。不景気や不況のもとでの低価格競争、コスト削減が末端の事業者や労働者にしわ寄せされる、賃金や労働条件を削られることで、技術を持っている技能労働者もやめていく、若年労働者の確保や育成もままならない、こういう事態を放置して、品質が確保できるはずはありません。欧米諸国では既に当たり前の制度で、ILOでも一九四九年に公契約における労働条項に関する条約が採択されていまして、今、地方自治体でも意見書がどんどん採択されています。
 大臣に聞きたい。公契約法を政府としても検討すべき時期に来ているのではないでしょうか。

○北側国務大臣 このお話は以前から、相当昔からあった議論だというふうに聞いております。我が国では、公契約における労働条項に関する条約、これは現在批准をしておりません。なぜ批准をしておらないかといいますと、民間部門における賃金等の労働条件については、公共工事に係るものであるか否かにかかわらず、その基準が労働基準法等の労働法規で定められておりまして、その範囲内で当事者間の自主的な取り決めにゆだねられているという考え方によるものというふうに認識をしているところでございます。
 建設産業が健全な発展を遂げて、良質な住宅・社会資本整備を担っていくためには、建設労働者の雇用労働条件の改善を図ることが私も当然重要であると認識をしております。今後とも、建設業法等に基づく制度をしっかり運用しながら、また、厚生労働省ともよく連携をとりながら、建設労働者の一層の雇用労働条件の改善に努めてまいりたいと考えております。

○穀田委員 ですから、私は一番最初に、労務単価と実際の払われている現状というものを提起したわけですね。そういう現状にあるということが公契約のいわば必要な問題だ、しかも、今の品質確保にとって決定的だということを私は言いたかったわけです。
 私は、今言ったように、末端の業者や労働者への不利益を是正することによって品質を確保する、さかのぼってきちっとやるということが大事だと思うんです。その修正提案が受け入れられなかったことは極めて残念です。この点を抜きにして品質確保がどれほど前進するのか疑問です。なぜなら、コスト削減要請が強まっている今日において、元請による下請や労働者へのしわ寄せが強まって、工事の質の低下が懸念されるからです。
 もう一点、高度な技術提案を求めた場合には予定価格を特別に定める規定を設けている十四条は、大手受注者が有利な高額価格を設定できる可能性があり、賛成できません。
 以上の態度を申し述べて、質問を終わります。