国会会議録

【第159通常国会】

衆議院・国土交通委員会(午前)
(2004年5月26日)

本日の会議に付した案件
  旅行業法の一部を改正する法律案(内閣提出第八〇号)(参議院送付)
 海上運送事業の活性化のための船員法等の一部を改正する法律案(内閣提出第八一号)(参議院送付)

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○赤羽委員長 穀田恵二君。

○穀田委員 今までずっと議論されてきましたように、内航海運業というのはとても大切な業界です。今後一層その役割が重要になってくるということはるるありました。そこで私は、もう少し内容の中身の問題について突っ込んでみたいと思うんです。
 この内航海運業で実際の船舶運航に当たる事業者であるオーナーの構成を見ると、圧倒的に、九七%中小零細業者が占めていまして、零細企業性の極めて強い業界です。
 これまで、経営基盤の弱い零細事業者の乱立による船腹過剰で過当競争に陥りやすい業界構造だったため、先ほど来あったように、船腹調整事業や許可制などの規制で業界秩序の維持を図ってきたわけです。この事業は九八年に廃止され、暫定事業に切りかえられている。今回の法改正では、参入基準を許可制から登録制に改めるなど、さらに規制を緩和しようというものです。
 そこで、今回の規制緩和で、役割が一層重要となるこの業界の秩序がどのように守られるのか、まず聞いておきたいと思います。

○鷲頭政府参考人(国土交通省海事局長) 今回の改正は、先ほど先生もおっしゃいましたとおり、参入規制を許可制から登録制に緩和いたしまして、船舶を三隻以上所有していなければ参入が認められなかったのを、一隻以上所有していれば参入を認めることとする、あるいは、オペレーターとオーナーの事業区分を廃止して、オーナーも直接荷主と運送契約を結ぶことができるようにすること等を内容とするものでございます。
 その結果、規制緩和によりまして、新規参入の促進や、意欲ある事業者の事業展開の多様化、円滑化が図られることになります。この結果、内航海運の活性化が図られ競争力が向上することにより、内航海運市場の拡大に資することとなると考えておりますし、内航海運業界の閉鎖性が緩和され、内航海運業界の健全な競争秩序が形成されていくものと考えております。

○穀田委員 一般的に言って、市場を活性化することは否定しない。しかし、おっしゃるようにこれで全部うまくいくんだみたいな話は、私はちょっとそうならないと、はっきり言っておきたいと思うんです。
 特に九〇年代半ばから相次ぐ規制緩和が行われ、実際に何が起こったかというと、中小企業者の倒産、廃業、そして、この間でいいますと労働者のリストラ、失業。国民の生活自体はずっと悪くなっているというのが今の現実です。
 それで、先ほど大臣が、個人支援という問題でありましたし、そういう一連の初期投資がたくさんかかる、その割には中間でずっと長期にわたって金が入ってくる事態はなかなかよくならない、個人補償という問題も、大臣でさえも、その枠組みのところに踏み込んでいく状態が来るかもしれないということを言っていましたけれども、そういうふうにして、危険な一面をある意味では認識されておられる。私は、多くのオーナーたちが、用船料が引き下げられて、このままでは経営が成り立たない事態に直面している、こう発言していることも聞いています。
 ここで確認しておきたい。
 先ほど、去年ぐらいから用船料が上がっている、こう言いますけれども、九〇年代半ばから、運送料、用船料はどのように推移しているか、お聞きしましょう。

○鷲頭政府参考人 日銀が調査しております企業向けサービス価格推移というものによりますと、景気の低迷だとか船腹過剰という状況から、平成七年との比較のデータでございますが、平成七年を一〇〇としたときの内航海運の運賃水準は、平成十六年一月時点で、貨物船で八四・八、タンカーで七三・七と、この数年で一五%から二五%低下しております。
 また、用船料につきましては、これは業界紙の調べでございますが、平成十四年度の用船料の水準は、平成九年度と比較して、貨物船で三%、タンカーで一七%低下しております。

○穀田委員 今あったように、九五年ぐらいに比較してタンカーで二七%ぐらい落ちている。さらに用船料でいいますと、九五年と比較をして八三%、貨物船は九七%。こう来ましたけれども、信金中央金庫の月報によれば、貨物船定期用船料の水準が九一年のピーク時から比べると三〇%程度減少しているという報告もあるんですね。だから、相当落ち込んでいるということがあるんです。
 昨年四月、内航船の船主団体で構成される内航船船主連絡協議会が、元請のオペレーターに対して用船料の適正化を要望しています。それによれば、用船料が十年間で四〇%下落し、船の運営が採算割れに追い込まれたということを言っているんですね。そのときに、船主協議会は、もし用船料適正化の要望が受け入れられなければ停船も辞さない覚悟で要求した、ここまで言っています。
 だから、こういう経営実態に直面しているということを、長い経過で見ますと、単に、先ほどあったようにツールの問題について何か変えなくちゃならぬというだけじゃなくて、今まで起こってきた事態について、これ自身を改善するということが必要だというのがおわかりいただけると思うんですね。
 そこで、先ほど新しい問題について、少し展望を含めて大臣は、展望といいますか将来の問題についても少し言ってはりましたが、私は、その前にやることがあるんじゃないか。例えば今の実態を、先ほど私が言いましたように、単に数字上の七とか三とか減っているというだけじゃなくて、ひどい実態があるということの、別な月報と、さらには船主自体の話を交えてお話ししました。
 現行法には、標準運賃、標準貸し渡し料制度、用船料ですね、その制度があり、国土交通大臣が設定できることになっているんです。標準運賃や標準貸し渡し料は今は設定されていない。これまで設定されたことはありますか。

○鷲頭政府参考人 内航海運業法の制定直後、当時の内航海運業界の危機的な状況を背景として標準運賃の設定が強く要請されたことから、運輸審議会への諮問、答申を経て、昭和四十一年、標準運賃を告示しました。その後、諸経費の高騰を踏まえ昭和四十六年に数字が変更されておりまして、昭和五十年に廃止をされておりまして、以降、現在まで設定はされておりません。
 標準貸し渡し料については、先生おっしゃられたとおり、これまで設定された実績はございません。

○穀田委員 今お話があったように、結局、七五年まで設定されていたが、それ以後はない。そして、用船料は過去一回も設定されていない。つまり、わざわざ法律に設定できると書きながら、運賃は一回、今はない。用船料は一回も設定されていないんですよ。何のための法律かと言いたいと思うんです。私は、こういう点から、行政としての怠慢ではないかと思っています。
 業界や関係者がこぞって運賃や用船料の適正化を求め、要望が上がっている中で、しかも国会でも附帯決議を上げて指摘されてきたにもかかわらず、この規定すら廃止するというのはおかしい。なぜ廃止するのか。一体どうやって運賃、用船料の適正化を図るつもりなのか、お聞きしたいと思います。

○鷲頭政府参考人 お答えいたします。
 運賃、用船料の適正化につきましては、マーケットの中において、荷主とオペレーター、あるいはオペレーターとオーナーが互いに公平な立場で自由な商取引を行う、そういう中で運賃、用船料が決まってくるものであるというふうに認識をしております。
 国土交通省といたしましては、不公正な取引が行われないように、もし不公正な取引が行われているような実態があれば公正取引委員会にその情報提供をする等、いわゆる公正にビジネスが行われているということについての担保をしていきたいと思っております。

○穀田委員 そういうことを一方で言っておいて、将来のツールなんて話をしているからかみ合わないんですよ。そんなの、自由な競争だと。それはそうなんです。
 だけれども、では、皆さん、オーナーの経営の実態は何かということで、これまた信金中金の月報に実は出ているんですけれども、船舶の経費というのはどういうところで占められているかといいますと、船員費、減価償却で約七割を占める。船員費、修繕費、船主店費、減価償却費、これが大体中心ですけれども、七割がそれで占められているんですね。
 そのときに用船料が三〇%も引き下げられれば、どこへ行くと思いますか。荷主の側はそんな形でがんとやっている実態がありながら、自由な競争だなんと言っていたら、これは太刀打ちできないんですよ。そうしたらどこに圧迫をするかといったら、当然船員費のコストを削減するしかなくなる。そうすると、これが派遣船員によるコスト削減につながり、実際には、先ほどみんなが言っているように、結局労働強化になってしまう。こういう経過を知りながら平気でそういうことを言っているということ自体が、本当に今の現状について打開しようと思っていないなということを私は言いたいし、この法律にわざわざ「公共の福祉を増進する」などと書いたこと自体が、およそそうならないということを改めて指摘しておきたいと思っています。
 そこで、では、何でこういう引き下げが起こるかという問題です。先ほどもありましたように、荷主の圧力だということが出てきました。やはり、物流コストの削減を、はっきり言えば身勝手に推し進めているということに私は起因していると思うんです。この削減要求を拒もうと思ったら、さっき言ったように取引停止も覚悟しなければならないというのがピラミッドの関係だし、そして、強い圧力のもとで受けているオーナーの側なんだということはもう既に明らかになってきました。
 ここで、先ほども同僚議員も質問していましたが、もう少し私は突っ込んで、今回、荷主と船主が直接契約できるようにするようだが、こうした荷主によるコスト削減圧力に対してはどのような対応ができるのか、もう一度公正取引委員会に聞いておきたいと思います。

○山木政府参考人(公正取引委員会事務総局経済取引局取引部長) お答えいたします。
 荷主と物流業者との取引につきましては、基本的に取引の合意によって運賃等が形成されるものでございますけれども、運賃等につきまして不当に買いたたくという行為がございますれば、先ほど御説明いたしました特殊指定のルールに基づきまして、独占禁止法に違反するということでございます。
 この場合には、通常支払われる対価に比べて著しく低い代金を不当に定めるということでございまして、著しく低い額を不当に定める、やり方が問題である、そういう行為が対象になるわけでございます。

○穀田委員 その後ろの方も大事なんですね。前の方はそのとおりなんです。後ろの方にこう書いているんです。もう時間がないから言っておくけれども、「取引実態を踏まえ、供給に要する費用、実勢運賃等の状況を勘案しつつ、迅速かつ実効性のある規制について検討していく。」これでいいですよね。はいと言ってくれればいいです。(山木政府参考人「はい」と呼ぶ)
 だから、ここなんですよ。問題は、このときに、今お話があった不公正な取引の方法の告示についてということで、公正取引委員会は二月二十七日に告示しています。そういうものをやるときに、公聴会における意見というのを聞いているんですよね。やっているんですよ。
 その中でありますように、今私が後段で述べた「供給に要する費用、実勢運賃等の状況を勘案しつつ、」とあるけれども、その通常支払われる代金には消費税や社会保険料、賃金等の不可欠な社会的コストが当然含まれていると思うが、その点はどうですか。

○山木政府参考人 不当に低いということにつきましては、その判断に当たりましては、コストそれから実勢運賃の状況等を総合的に判断するわけでございます。コストの中にもいろいろございますので、先生おっしゃるようなコストも含めて、総合的にコストの状況を見るということになろうかと思います。
 いずれにいたしましても、実態を踏まえまして私どもとしては対応させていただきたいと考えております。

○穀田委員 ここは大事でして、その公聴会における意見ということで、今お話がありましたように、私がやったのは、買いたたきの規定における通常支払われる代金というものについては消費税だとか社会保険料だとか賃金等だとか、必要不可欠な社会コストが含まれることを明確にし、そういうものも含めて勘案してやるということが大事なんです。
 では、最後ですけれども、国交省として独自の対策がどうなっているか、改めて聞きたい。
 適正な運賃そして用船料を考えるときに、最低限の指標として船員費をきちんと確保することが最も重要だと私は考えます。下請振興法の振興基準には次のように書いています。労務費等の要素を考慮した合理的な算定方式に基づき、中小企業の適正な利益を含み、労働時間短縮等労働条件の改善が可能となるよう、下請と親事業者が協議して決定するとある。
 ですから、今まで聞いた議論でおわかりのように、国交省として通達できちんと示すことによってこういう問題について保障していくということが大事だと思うんです。そこをどうお考えなのかだけ最後お聞きして、質問を終わりたいと思います。

○鷲頭政府参考人 先ほども申し上げましたとおり、市場の中において、荷主とオペレーター、あるいはオペレーターとオーナーが公平な立場で自由な商取引を行う、そういう環境をつくるというのが私どもの使命だと思っておりまして、そういう意味では、先生の御質問に対するお答えとしては、例えば、荷主懇談会といったような場がございますので、そういうところを活用して、不公正な取引がなされないように荷主企業等に要請するといったような形により、その適正化を図ってまいりたいと考えております。

○穀田委員 公平な立場になるようというのは、なかなかならないといって認めているんじゃないですか。ヒエラルキー、こうなっている。しかも荷主が圧倒的に強いと。だから、そういう問題をきちんと通達して下知せなあかんよと言っているわけじゃないですか。そういうことでないと守られない実態なんですよ。
 だって、この間ずっと下がっているんですよ。そのときに、大臣おっしゃるように、個人補償などという遠い先の話をしているんじゃなくて、現実の用船料その他について下がってきている、それから労働者の賃金についても下がってくるような事態、こういうものがあるということについて、きちんと歯どめをかけながらやることによって初めて展望できるんだということを言っているんです。
 そういう力の差があるということをお互いに認めながらやっているわけですから、そこは心してやってくれなければ、そういう程度の話ではだめですよということだけ私は言っておきたいと思います。
 終わります。

○赤羽委員長 これにて本案に対する質疑は終局いたしました。

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○赤羽委員長 これより討論に入ります。
 討論の申し出がありますので、これを許します。穀田恵二君。

○穀田委員 日本共産党を代表して、反対討論を行います。
 反対理由の第一は、運賃、用船料の適正化の保証のないまま、標準運賃、標準貸し渡し料制度を廃止するなど規制緩和することは、中小内航海運事業者の経営を一層脅かし、内航海運の振興に逆行するものであるからです。
 中小事業者の経営を守るために今求められているのは、大企業である荷主の過度のコスト削減要請など、身勝手な行動を規制することです。ことし四月から内航海運事業にも適用された改正下請二法及び独占禁止法の特殊指定を活用し、荷主などの不公正取引を規制することが求められています。
 しかし、本法案は、標準運賃制度などを廃止し、事業参入を許可制から登録制にするなど、一連の規制や制度を廃止するものであります。これでは、中小零細企業を犠牲にする荷主などの身勝手な企業行動を野放しにすることにしかなりません。
 第二の理由は、労働力の流動化の名のもとで、労働者派遣事業の対象を船員まで広げて、雇用不安を拡大し、労働条件を悪化させるからであります。
 戦前、賃金をピンはねする人貸し業が横行し、その苦い教訓から、企業が労働者を直接雇用することが原則になりました。この観点から、船員供給事業も原則禁止とされました。船員派遣事業は、本来違法である船員供給事業の一形態です。これを解禁することが、船員の権利と労働条件の向上に役立つはずがありません。
 以上、反対する理由を申し上げまして、討論とします。

○赤羽委員長 これにて討論は終局いたしました。

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○赤羽委員長 これより採決に入ります。
 海上運送事業の活性化のための船員法等の一部を改正する法律案について採決いたします。
 本案に賛成の諸君の起立を求めます。

    〔賛成者起立〕

○赤羽委員長 起立多数。よって、本案は原案のとおり可決すべきものと決しました。

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○赤羽委員長 ただいま議決いたしました法律案に対し、衛藤征士郎君外三名から、自由民主党、民主党・無所属クラブ及び公明党の三会派共同提案による附帯決議を付すべしとの動議が提出されております。
 提出者より趣旨の説明を聴取いたします。望月義夫君。

○望月委員 ただいま議題となりました海上運送事業の活性化のための船員法等の一部を改正する法律案に対する附帯決議案につきまして、自由民主党、民主党・無所属クラブ及び公明党を代表して、その趣旨を御説明申し上げます。
 案文はお手元に配付してありますが、その内容につきましては、既に質疑の過程において委員各位におかれましては十分御承知のところでありますので、この際、案文の朗読をもって趣旨の説明にかえることといたします。
    海上運送事業の活性化のための船員法等の一部を改正する法律案に対する附帯決議(案)
  政府は、本法の施行に当たっては、次の諸点に留意し、その運用について遺憾なきを期すべきである。
 一 基幹的輸送モードである内航海運の活性化を図るとともにその一層の健全化に資するため、内航海運暫定措置事業を今後とも継続して円滑かつ着実に実施すること。
 二 内航海運における船員の労働条件及び労働環境の維持・向上並びに航行の安全の確保を図りつつ、内航海運業の健全化を促進するため、運賃・用船料の適正化に係る環境整備に努めること。特に、荷主の優越的地位の濫用を防止するため、公正取引委員会と国土交通省との間で積極的な連携を図ること。
 三 船員の恒常的な長時間労働を是正するため、船員労働の特殊性等を踏まえつつ、船員の「労働時間」の定義及び船舶の安全航行の確保のための、いわゆる「安全臨時労働」の内容について、それぞれ明確化を図るとともに、最長労働時間での労働が常態化することのないよう、関係当事者の意見を十分聴取して四週間又は一カ月当たりの労働時間の上限を設定すること。
 四 雇入契約の届出を受けた際には、航行の安全を確保するための措置や船員に対する労働条件の明示が確実になされているかどうかなどについて十分な確認を行うこと。
 五 内航貨物船の定員規制に関し、一日八時間、週平均四十時間という労働時間規制の原則を前提とした「標準定員」が確保されるよう特段の配慮を行うこと。
 六 船員法等が確実に遵守されるよう、情報照会システムの活用及びポイント付加制の本格運用を急ぐことなど船員労務監査業務の充実を図ること。
   また、船員の労働条件・労働環境に関する事後チェック体制の確立と実行を図ること。
 七 常用雇用型船員派遣事業の導入に当たっては、派遣船員の同意を前提としつつ適正な運営が行われるよう、事業の許可及び就業に際してのチェックを厳正に実施すること。
以上であります。
 委員各位の御賛同をよろしくお願いいたします。

○赤羽委員長 これにて趣旨の説明は終わりました。
 採決いたします。
 本動議に賛成の諸君の起立を求めます。

    〔賛成者起立〕

○赤羽委員長 起立総員。よって、本動議のとおり附帯決議を付することに決しました。
 この際、国土交通大臣から発言を求められておりますので、これを許します。国土交通大臣石原伸晃君。