伝統への畏敬

こくた恵二

今に生きる京指物

 「第24回京都木工芸展」の招待を受け、京に永く伝承された京指物の品々を鑑賞する機会に恵まれた。
 指物(さしもの)とは「板と板、板と棒、棒と棒を組み、指し合わせながらつくる木工芸の総称」。
 今回の催しには茶道具や箪笥、彫り物、箱、照明具などが出品されていた。日常生活の必需品から、遊び心・機知に富んだ作品まで、いずれも木の温もりと精緻(ち)なまでの技法に、私はただ感嘆するばかりだった。
 創(つく)り手の方々の素材に対する思い入れがまたすごい。(1)原木から素材にするまでの長い工程と労力=風にさらしての乾燥、水につける。(2)自生の木しか使えず樹木が大切にされず材料が無くなりつつある環境の問題。(3)材料との出合いも運、探し求めどこにでもでかける。(4)材料を生かし材料から作品を考えだす。切った以上一つの無駄なく使うことこそ務め。などなど。
 その結晶の一つ、原材は縞柿(しまがき)の木、半月の形をした香合(香料を入れる容器)を求めた。縞模様を雲に見立て、象牙(ぞうげ)であしらった渡る雁(がん)、稀少な孔雀杢(くじゃくもく)が時に微妙な青を浮き立たせる。
 木工工芸協同組合の方々からは「なかなかの目利き」と少し褒められたせいもあるが、眺めたり磨いたり宝物のように大切にしている。「ほんに幼児みたい」と連れ合いに笑われている始末だが、作品をいとおしむ度ごとに「ものづくりをして普通に暮らせる世の中にしてほしい」という創り手のひとことが耳にひびく。
 その当然の要望に応えることこそ私の仕事と磨く手に力が入る。

(「しんぶん赤旗」1999年5月13日付より)