伝統への畏敬

こくた恵二

河合寛次郎記念館を訪ねて

 この2月1日、25周年を迎えた河井寛次郎記念館(東山区五条坂鐘鋳町)を藤本さだ子京都市議と私の連れ合いの案内で訪れた。
 寛次郎は著名な陶芸家である。素焼き窯で焼成された作品は釉薬(ゆうやく)を施されたのち、この登り窯で本焼され、世に送り出されたという。
 私は彼の辰砂(しんしゃ)〈銅で着色した鮮紅色の釉(うわぐすり)〉の作品に特に惹かれる。薄紅色、紅梅色というか独特の色合にほれぼれする。
 記念館は“民芸運動”に参加した寛次郎が日本各地の民家を参考にしてつくったもので、黒光りする梁、板の間などはそれ故に美しい。
 彼は、大地が育てた土、木、竹などさまざまな素材を用い、無名の職人がつくった“道具”に感動し、手仕事を愛した。日常の生活、暮らすために用いられる、その中に美を発見した。
 これを館の栞(しおり)では「作陶を初めとした木彫・文章を通じてはげしい表現をしたものが数多くありますが、反面、建築・調度品・蒐集品の中には日々の生活に素を尊んだ寛次郎のしずかな精神を見ることが出来ます」と記している。ぜひ来館をおすすめしたい。
 さてこの記念館は、「男はつらいよ」シリーズの第29作「寅次郎あじさいの恋」の舞台として登場したことも思い出深い。
 25周年のお祝いにと持参した水仙が、去り際には作品の辰砂の壺にさっそく生けられていた。道具として使うことによって“生きる”ことを見事に体現している様を見た。

(「しんぶん赤旗」1998年2月19日付より)